第四百七十三話
ほぼ全員がユニハーズの拠点に戻って来るのは早かった。
具体的に言うと、行って帰って来るまでで二時間もかからないところもあった。
全員が優秀であり、しかもお互いに邪魔をしない方法と言うものをわかっている。
そのため、全員がそのマニュアルに従っているうちは問題ないのだ。
「魔力の塊を思いっきりドラゴンにぶつけていて、すごかったです!」
「私の方ではあんな青色のキノコが普通に実っていたぞ。なかなか衝撃的だった」
剣の精鋭も基本的には単騎で強く、『連携してもあまり意味はない』のだが、だからと言って仲が悪いというわけではないので、情報交換はそれ相応に積極的に行われる。
……女という漢字が三つ集まると姦しい、要するにうるさいといっているのと同じ意味になるが、剣の精鋭の女性の人数は十一人である。姦しいどころの騒ぎではない。
アステル、オウガ、標は純粋に戦闘力。
凛名、ジーク、草太はそれ以外のサポート系。
無論、サポート系としているメンバーが戦闘できないというわけではなく、むしろバリバリにできる方だが、とりあえずそのような振り分け方だ。
当然、剣の精鋭では秀星や基樹、ユニハーズでは高志とアステルが該当する『外れ値』はともかく、それらを除外した平均では断然ユニハーズの方が上だ。
……ユニハーズでは学生の年齢のものが一人で、剣の精鋭は一人を除いて全員が学生と言う違いはあるが、いくらなんでも差がありすぎる。
というわけで、見たことや聞いたことを実際に言うのは間違いではないし、率先してするべきなのだ。
「サルベージが完了したぜ!」
「船の中には魔法具もあったぞ!」
全身びしょ濡れのリーダー二人が帰ってきた。
どうやら船のサルベージと、内部の簡単な調査が終わったようだ。
なお、高志は楕円形の物体を掲げている。
秀星はそれをちらっと見た。
物体には魔法言語というか古代言語というか、魔法陣に刻まれていそうな文字が書かれていた。
八つの文字。
秀星は異世界で魔法言語のようなものを研究していた時代があったのでわかる。
そこには『じげんばくだん』と書かれていた。
(……!?)
二度見する秀星。
視界の端でアステルも驚いていた。
おそらく、眼の力でその言語を理解したのだろう。
「どうしたんだよ秀星。そんなに珍しいか?」
「アステルがそんなに気にするなんて珍しいな」
とかなんとか言っている間に、物体は赤くなり……。
沙羅が指をパチンと鳴らすと、高志と来夏と物体はどこかに転送された。
「……母さん。あの文字の意味知ってたの?」
「もちろん」
秀星が聞いてみると、首を縦にふる沙羅。
どうやら知っていたようだ。
「……転送するならあの物体だけでよかったんじゃないか?」
「業よ」
「何の?」
ちょっと意味がわからない。
十五分後。墨をかぶったように真っ黒になった来夏と、アフロみたいな爆発頭になった高志が部屋に入ってきた。
「いやあの、二人で効果違うのは何で?」
非常に変である。
高志の場合は普通に爆発していそうだが、来夏の場合は墨爆弾が直撃したかのようだ。
「いや、来夏だけ吹っ飛んで墨の海に飛び込んだだけだぞ」
「納得できる理由が来てむしろ驚いた」
もうちょっと非常識なことになっていると思ったら、意外と普通だった。
……普通の定義は知らないが。
というか、普通に帰ってくるこいつらもアレだが、墨の海の近くに二人を転送する沙羅も容赦がない。
マグマよりマシか。
「フフフ。まあとにかく、これから皆で船の探索に向かうぞ!」
「「「「風呂に入れクソバカ共!!」」」」
叫んでもおかしくはないメンバー全員でそう突っ込んだ。
……ちなみに、爆発物が残されている船の中に探索に行くことに疑問を抱かないのは、すでに全員がこのバカ共のせいで麻痺しているだけなので安心してほしい。




