第四百六十二話
金髪を切りそろえた中年男性だ。
引き締まった体格で、すさまじいスピードでタイピングをしている。
(どこかで見たことがあるような……)
秀星はその男性を見て、どこかで見たことがある、と思った。
その時、男性がこちらに気が付いた。
タイピングをする手が止まったので、終わったのか、一段落付いたのかのどちらかだと思われるが。
「……ん?ああ、今日は剣の精鋭が来る日だったな」
「そういうこった。ジーク」
高志はそういった。
ジーク、と聞いて、秀星は頭の中で記憶をひっくり返す。
そして……。
「……エインズワース王国の王子だったか?」
ジークフリート・エインズワース。
現在はアースーが国王を務めている魔法国家の王子だったはずだ。
書置きだけして、何処に行ったのかわからないとアースーから聞いたことがあるような気がしなくもないが、何故か頭の中にその印象が残らなかった人物だ。
「その通りだ。朝森秀星」
「嘘……」
アレシアも驚いているほどだ。
異父兄妹であるはずだが、それでも気が付かないほど。
「……で、ジーク、今日はどれくらい集まってる?」
「一応全員いるぞ。まあ……みんな、お前の息子が気になってるといったところだがな」
ジークは秀星を見る。
秀星はジークを見返した。
「……俺の中だと、アンタはロクでなしだったんだが……」
「世界一位の男を欺けたというのであれば結構なことだ」
ジークはこちらに掌を向けて、一瞬だけビリッと電流を見せた。
「……ああ、なるほど、神経に電流を流して、それを制御していたのか」
「ああ、そちらの黒髪のお嬢さんもやっているようだが」
ジークが羽計を見る。
「タイピングする間はずっと使ってるもんな。便利だし」
「ああ」
「……あの、秀星君」
「どうした?雫」
「私ね。全然会ってないから興味ないんだよ」
ジークが沈んだ。
「で、あそこにいる二人に興味があるんだ」
雫が指差したのはカウンターだ。
カウンターの奥では女性用のスーツを着た眼鏡をかけている女性が本を読んでいる。
そしてカウンターの上では……真っ白のワンピースを着た、外見が十歳に満たない長い黒髪の幼女が、酒瓶を抱いて寝ているのである。
「……」
秀星としてはかなりインパクトが強くてコメントに困った。
秀星は高志の方を見る。
「どうした?秀星」
「いや……類は友を呼ぶのかなって思って」
「酒瓶抱いた幼女のことか?一応言っておくけど、ああ見えて自称九十二歳だから酒飲める年齢だぞ」
「あの外見で九十二歳!?」
「ああ、しかも昔話にやたらリアリティがあるから多分サバよんでる」
「実年齢それより上!?」
サバをよむような年齢だろうか。そしてよんだあとの自称年齢が高すぎる。
九十二と言う数字が好きなのだろうか。
「ちなみに俺が会った時からずっと九十二歳を名乗ってる」
「何かしらの影響で外見年齢が止まっているとか?」
「そうだな。九十二歳の時からずっと止まってるらしい」
「九十二まであの外見なのか!?」
その時、その幼女が起きた。
「……むにゅ?ふああ……んー……お、いらっしゃい」
外見通りの幼い声だが、すごくおっとりした雰囲気でこちらに手を振った。
……酒瓶を抱いたままで。
「自己紹介がまだじゃな。ワシは生島標。よろしくなのじゃ」
「ああ、よろしく」
「あ、そっちの自己紹介はいいぞ。全員知っておるからな」
「そうか」
「じゃあおやすみ」
また寝始めた。
カウンターの上で。
そして酒瓶は抱いたままで。
「……」
秀星たちは、カウンターの奥にいるスーツの女性の方を向いた。
『この人も同じくらい変態なのか?』という感情のこもった目で。
「……私は生島凛名といいます。普段からこのカウンターにいますから、何かあれば相談に来てください」
「名字でわかると思うが、あのババアのひ孫な。オウッ!」
高志の股間に酒瓶が直撃した。
うずくまって悶絶している。
「こ……こんなふうに、ババアとかいうと酒瓶が飛んでくるから気をつけろよ」
「父さんだから投げてきた可能性があるような……」
新しい酒瓶を抱いてすやすや寝ている標をみながら、秀星はそう思った。
すでにお腹いっぱいだが、こちらに向かっている足音がいくつかある。
(……メンバー紹介、まだ終わらないみたいだな)
ここから出てくるやつもキャラが濃いのだろうか。
(嫌まあ、来夏よりは薄いか)
謎の比較をし始める秀星であった。




