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第四十六話

「数が一致しない?」


 秀星たち、剣の精鋭の宿。

 そのロビーで、秀星はアレシアから話を聞いていた。


「来夏から聞いたことですが、すでに盗まれている素材があるとのことです」

「でも、こういったクエストでは懸念されることだよな」

「そのはずですが、どうやら被害が出ているみたいですね」


 盗難被害と言うのは出るものだ。

 ミスをするな。と人に言うのは無理な話であり、ミスをしないための確認を意識することしか人にはできない。

 さらに言えば、確認の方法というのは、それを行う人間の能力と『スキル』に左右される。

 それらの情報が漏れると、簡単に言うと『穴』が見える。


「一度あったってことは……これからもその可能性があるってことか?」

「このクエストの運営を行っている方が『しっかりと責任を取れる人』なので、まだ大丈夫なレベルではありますが、このまま続くとまずいことになります」

「それは分かるが、何故それを俺に?」

「実は、剣の精鋭には『悪魔の瞳(ラプラス・アイズ)』を持つ来夏がいますから、こういった監視などが絡むといろいろ言われるのです」

「とばっちりだよな」

「勿論です」


 見張ることは不可能ではないだろう。

 だが、来夏を監視役にしなかった運営部の問題である。

 ダンジョンで戦っている来夏に、倉庫の見張りを同時に行わせるというのは暴論だ。

 普通に考えて通らない。


「ですが、秀星さんなら何か出来るのではないかと考え、こうして話しているのです」

「その来夏はどこに?」

「酒盛りの途中です。こうなると、必ず二日酔いで次の日は動けません」

「……そこまで酒に強くないんだな」

「秀星さんは強そうですけどね」

「もちろん」


 未成年なので飲むとか飲まないとか話しても仕方がないが、秀星が状態異常と深層心理(・・・・)が認識するものは、エリクサーブラッドが全て無効にする。

 これは、秀星の判断ではなくエリクサーブラッドの自動効果だ。

 秀星の意見は反映されるだけで、細かい指示を聞くわけではない。


「来夏は機能しないか。で、予防策として俺に話したってことか?」

「そうです。そもそも、こちらは監視に適したスキルを揃えていますが、向こうが盗むことに適したスキルを揃えていることも必然です」

「……だよな。しかも、こっちは多くの人間を納得させる必要があるから情報の公開が必要だっていうのに、向こうはそんなこと全くないからな」

「これがどういうことなのかわかりますか?」

「『最悪の事態の想定』が困難ってことだろ?」

「その通りです」


 情報が有るか無いか。

 それだけで、どの程度のレベルが必要なのかが分かる。

 それと前提として、公開する必要がある情報以上の備えがないと意味が無い。これは納得できるだろう。


「秀星さんは私の予想を軽々と超える人ですからね。そういった監視に関する技術も持っているのではないかと判断したわけです」

「なるほど」


 予想としては間違いではない。

 わからない。というのがアレシアの本音だろう。

 だが、『分からない』ということそのものがどういうことなのかをアレシアはよく理解している。

 だからこそ、秀星に頼んで来たのだ。


「今日は見張ることにするか」

「お願いしますよ」


 そう言うわけで、監視を行うことになった。


 ★


 アレシアは秀星についてこなかった。

 遠くから見ている可能性はあるが、一応、アレシアにも見せられない手段であっても使えるように、という判断だろう。

 本人の事情を踏まえて計画を立てることが得意なアレシアらしい。

 最も、その事情を考慮するか無視するかはアレシアの匙加減なのだが。


「別に正攻法でも裏技でもいけるんだがな」


 ぶっちゃけ、『セフィア。よろしく』というだけですべて解決する。

 心配せずとも、セフィアはいつでも秀星を見ている。

 察するのが神レベル(そもそも神器)なので、そういうだけで解決してくれるのだ。


「倉庫から盗んでいるのか、倉庫に運ばれる段階で盗んでいるのか……まあ、『痕跡鑑定』をこのベースキャンプ全域にかければいいだけの話なんだけど……」

「ベースキャンプに運び込まれる段階で盗まれていますよ」

「あ。セフィア。調べてたんだ」

「勿論です。既に犯人の特定も証拠の確保も済ませています」

「……サスペンスだと二時間も持たんな」

「そもそも殺人事件が起こりませんよ」


 そういう段階の話だった。

 いつも思っているが、神器に対して世界の難易度が足りない。


「……殺人事件は起こらないけど窃盗はあるんだな」

「窃盗を不可能にすることも手段の一つですが、今回はとらないことにしました」

「何故?」

「警察が要らなくなるからです」

「……追求しない方がいいレベルの話になってきたから話題変えようか」


 秀星は肩をすくめる。


「まあでも、今すぐ報告しても何かタイミング的に変だし、現行犯が事後報告的に手っ取り早いからそれで行こう」

「畏まりました」


 そんなわけで、セフィアが用意した菓子を食べながらボーっと換金所と倉庫を見張る秀星。

 ……二分後。


「……」

「……」

「……セフィア」

「はい」

「暇」

「見張りや監視というのは暇なくらいがちょうどいいと思いますが……」

「いや、でもさ。本当に暇だぞ。変なことしてたらまじめにやってないって思われるし」

「秀星様の場合はまじめにやっていないくらいがちょうどいいと思いますが……」

「ぶっちゃけさ。俺がここにいる意味ないよね」

「ありませんね」


 何かを言っても即答してくるセフィア。


「……あ。あの人、素材が入っているケースを別の人に渡してる」

「そうですね」

「それをまた別の人に渡したな」

「そうですね」

「俺の出番か?」

「そうですね」

「『そうですね』って言葉ってかなり便利だな」

「そうですね」

「と言うわけで言ってくる」


 秀星は走ってその人物の前に立った。

 ガタイのいい男性である。


「おーい。ネコババは良くないぞ」

「な、何を言ってんだテメエ!」


 男は持っている箱を体の後ろに隠したが、ぶっちゃけ無駄。


「何を言ってるって……君がネコババしているところを最初から見ていたから来ただけだよ」

「こ、これは違う!危険物が中に入ってるから、別のところで保護するために魔法をかけてもらうためだ!」

「それを行う機材がおいてある施設は逆方向にあるんだが……」

「これはそれよりもランクが高い危険物なんだ。だからもっとランクの高いやつがいるところに行くんだよ!」

「いや、それにしても方角が九十度違うんだけど」

「あ、いや、だからこれは公表できないレベルで――」

「往生際が悪いわ!」


 男のセリフを遮って思わず叫ぶ秀星。

 近くにいた警備員がこちらにやって来た。


「何を騒いでいる」

「この男が、換金所から倉庫に運ばれる素材をネコババしてました」

「何!?」


 警備員が男が持つ箱を見る。


「おいテメエ!嘘いうんじゃねえぞ!」

「お前もお前で往生際が悪い。あれで一目瞭然だからな!」


 秀星は横を指さす。

 そこには、こちらを向くカメラがあった。


「ちっ。畜生!」


 男は箱を持ったまま逃げ出す。

 が、さすがに荷物を持ったままだと足が遅いうえに目立つ。

 警備員が取り押さえて、手錠をかけていた。

 すぐに応援が駆けつけて、男を連行していく。

 かなりなれている気がするのだが、こう言う現場はそれなりに多いのだろうか。

 普段からまぎれている悪意と言うのは多いものである。

 そんなことを秀星が考えていると警備員がこちらに来た。


「大声を出してくれて助かる。が、これからは私たちを直接呼んでほしい」

「分かりました。これからはそうします」


 秀星はカメラを拾って握りつぶした。


「え……」

「あ、これ。ただのペーパークラフトです」

「……もしかして、『剣の精鋭』の朝森秀星君かな?」

「そうですけど……」


 何故それだけで分かる?


「換金所の方にいる妹が君のことを知っていてね。面白い子だと言っていたから覚えていたんだよ」

「あ。換金所のお姉さんと兄妹だったんですね」

「そういうことだ。それでは、私は業務に戻ろう。それにしても確かに、面白い子だ。ただ……あまりにもリアルなカメラだったね」


 マシニクルが適当に作ったペーパークラフトだが、それでも外見的にはマジで本物である。


「まあ、作れるところは作れますよ」

「覚えておこう。それではまた」


 男は戻って行った。

 あとに残された秀星は溜息を吐く。

 そして呟いた。


「思ったよりガバガバだな。こういうときって大体……はぁ。面倒ではないけどどうしようもないことになってるな」


 秀星も、この時点である予想をしていた。


 ★


「……秀星さん。このクエストの運営を行っていた一つのチームが一度に連行されたのですが、一体何があったのですか?」


 次の日。

 秀星はアレシアから質問されていた。

 秀星は冷静に答える。


「簡単に言うと、管理経路の時点でガバガバだったんだが、その理由は、既にネコババする気満々だったところがあって、そいつらが意図的に作ったものだった。裏ルートに流す手筈の書類まで見つかって、事情聴取のために逮捕されたって感じだ」

「既に上の方で決まっていた。ということですか……」


 意図的にそう言ったルートを設けておけば、後はそれに乗っかるだけでいい。

 さらに言えば、今回のクエストは期間が短いのだ。

 そう言うこともあって、短期間で計画を進めることでうやむやにしようとしていたのだろう。

 ミスがあるにしても限度はあるので、どこまでネコババするかを考えていたようだが、今回は運が悪かった。


「ま、どこにでもそう言うことを考えるバカは一定数いるからな。実行するかどうかは別だが、今回はやっていたって言うだけの話だろ」


 別に珍しいわけではない。

 成功すればいいだけだし、犯罪はばれると犯罪になるだけであって、そうでないのなら悪いことでしかないのだ。

 秀星だって、異世界では仁義に反さないことであれば何でもやっていた。

 言い訳にしかならないが、異世界では『正義』というのは『正しいことをする者』ではなく、『筋を通す者』である。地球では細部が異なるが。


「でも、これからも多分、小さな部分はあるだろうから、警戒する必要はあるけどな」

「現在の運営に対して疑問を抱いている人も多いですから、その方がいいですね」


 自分たちの上層部に、悪い計画を練っていたものがいた。

 当然不信感は出てくるし、出てこない方がおかしい。


「換金額の減少を少し減らして、後金の方も上げたって言う判断は間違いではないが、一部の勘のいいやつからは『そもそも最初から余力があった』って思われてるだろうな」


 予備や事前策というものは、『どうしても避けなければならない状況』を決めて決定されるもの。

 今回の場合だと、そもそも素材が集まらないと話が進まない。

 ノルマを達成しないと何もできないのだ。そうなるのは当然である。


「失敗をとり返せる程度に抑える。か……世の中がうまくいかないものだって思ってる主催者だよな。ほんと」

「そうですね。だからこそ、表向きは主催者になれるのですよ」


 要するに『世知辛い』ということである。

 秀星は、今の状況をそう思った。

 今回のクエストの目的は、素材を集めるだけで、ボスを倒すことではない。

 だが、それだけでもうまくいかないのだから、人を動かすのは苦労するものである。

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