表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

454/1408

第四百五十四話

「……なあ、秀星」

「どした?」

「襲撃があって、その次の日にはもう授業が再開するって、どういうことなんだ?」

「無機物にしか被害がない場合、それを直すだけでいいからな。まあ授業をする上で問題がなくなるのは当然だろ」


 秀星と宗一郎の会話である。

 既に真夜中。

 建物の修復が終わって、既に明日からはまた授業をする準備が整っている。と言う段階である。


「襲撃のことを聞きたがるマスコミの対応をしているのは私なのだが」

「『犠牲者はゼロ』でいいじゃん」

「まあボッコボコにされたのは私だけだからな。ただ……『襲撃』があって『犠牲者がゼロ』だと、やらせだと思う人がいるからな」

「『犠牲者』っていない方がいいよな」

「いた方がいいと思うか?」

「いや、蘇生するだけだから結果変わらないんだけど」

「……まあそれはそれとして、どういったものかと考えている訳だ」

「そういや、カメラとかまわしてなかったから、戦闘映像って残ってないんだよな」


 証拠のない『犠牲者ゼロ』というのは、あまり信用されないものだ。

 もちろん『犠牲者がいた方がいい』などと言うメディアはいないが、『犠牲者がゼロ』というのは、正直『全く重くない』のである。


 人は『被害の大きさ』を、『被害額』ではなく『死傷者』で見る場合が多い。

 もちろん、一般の人は『被害額』を漠然と出されてもどれくらいのことなのかわからないのだが、だからと言って『死者がゼロ』というのは逆に軽い印象を与える。


「どうすればいいかな」

「実は死傷者がいるって報道するのもなぁ……」


 唯一ボッコボコにされた宗一郎が今は無傷でピンピンしているので、何を言っても説得力に欠けるのが現状だ。


「アトムも悩んでたな」


 魔法社会が裏にあった場合、そもそも大体的に報道するわけにはいかないのだから、魔法社会とは無関係のマスコミにも情報が漏れないようにするし、情報が漏れたとしても、金を渡して黙らせればいい。

 しかし、魔法社会が表に出てきたことで、情報を出さざるを得なくなった。

 悪意のあるマスコミがどういうのかはあまり気にする必要はない。

 アトムたち『最高会議』そのものが大手メディアを抱えているため、アトムたちは望むように魔法について報道することが出来る。


「魔法は『すごいもの』で、『悪いもの』ではない。が、『無警戒はマズい』だったか?」


 アトムがどこかで言っていた気がする。

 これは魔法に限らないのだが、『すごいもの』であるからと言って、『無警戒』で飛び込むのはマズいのだ。

 魔法に対する法整備は、日本にしては珍しくアメリカを追い抜く勢いで進んでいる。

 しかし、法律と言うのは施行されるまでの時間と言うものがある。

 そこを抜けられると、いつどんな『準備』をされるのかわかったものではない。

 そして、そこに対して『無警戒』というのは、相当マズいのだ。


 だからアトムは困るのだ。

 折角、『最高神の神器持ち』という、分かりやすい脅威が出て来てくれたのに、そこから何も教訓を見出させることができないのだから。


「……一日でぶっ壊れた建物を直したのは悪かったかな」

「ビルをいくつ直したのかもう分からないが……ていうか、このあたりって高層のビル多いな」


 来夏と高志が『ビルシャカシャカ』とか『ビルお手玉』とかいろいろやっていたが、そもそもの話、『犯罪組織がアジトを作れるほどビルが余っていないとダメ』なのだ。

 でなければ、アジトがビルの中に作られることはほとんどない。


 そう。


『ビルがなければ、ビルシャカシャカもビルお手玉もできない』


 沖野宮高校がある『九重市』は、魔法社会が出てきたことにより、大きく発展している。

 まあその結果としてビルが無駄に建ったわけだ。


「……死者はゼロだけど、『無警戒』はマズいか……マスコミが余計に不安をあおるような感じで報道しないとそれが伝わらないわけか」

「……たまに、『マスゴミ』とか言われて叩かれたりするが、こればかりは私たちが悪い」


 最高会議は、まだ日本政府に対して食い込みが若干甘い。

 そのため、日本政府が『こうする』と決めてしまったらどうにもならないのだ。

 一番バランスがいいのは、『法整備で固めるのではなく、国民の意識の改変』である。

 これができれば一番いい。


「……そういえば、法整備の方で固めたらどうなるんだ?」

「アメリカに負ける」


 現在、日本は魔法が表に出てきたことで、国際的に様々な面で『一位』を獲得している。

 しかし、それは秀星をはじめとした一部の『理不尽』を軸にしたものであり、それらをのけると一番強いのはアメリカだ。

 秀星がテレビをつけて、日本のメディアが出す数字を見る時、大体は『平均』である。中央値と最頻値は低いのだ。

 そもそも日本は超少子高齢社会である。

 どうやってアメリカに勝つって言うんだ。


「まあ、アメリカの方が緩くなりそうだもんな……」

「それだけじゃない。日本の魔法技術者がアメリカにヘッドハンティングされる可能性も十分にある」

「日本って初動遅いもんな。いやまあ、俺も遅い方だけど」

「秀星の場合は自分から動いたら即座に終わってしまってつまらんから『受け』に回っているだけだろうに」


 宗一郎の言い分に対して全く否定できない秀星。


「まあそれはともかく、法整備の方でガチガチにしない形で、無警戒と言う状態にされないように報道する必要があるわけだが、魔法社会と関係なかったマスコミは私のところに来るわけだ」

「……思ったより面倒なことになったな」


 何事も、事中よりも事後の方が厄介なのは変わりないのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ