第四百五十二話
沖野宮高校という場所が戦場となった場合、たとえどれほど窮地に陥ったとしても、『時間稼ぎ』には明確な意味がある。
もちろん、その『意味』を保障するのは秀星の存在だ。
だからこそ、宗一郎は勝てる相手でなくとも戦っているわけである。
「……君にしては遅いな」
「そりゃサーセン。手こずってたわけじゃないんだが、なんだか気分が乗らなくてな。敵のリーダーがアトムくらいのやつ二人って言われると、俺の場合は萎えるんだよ」
すでにボロボロになっている神器を身に纏っている宗一郎。
秀星としては、経過時間的にもっとボロボロになっていると思っていたくらいなので、いずれにせよ問題はないと考えている。
「アトムくらいのが二人で萎えるか。相変わらずだな」
最高会議の五人のうちの一人であるアトムの実力は圧倒的な数値を叩き出す。
ただ、彼を支えているのは『素質』や『才能』であり、『自分の常識の範囲で、自分が持っているものをうまく使う程度の力』しか持っていないことになる。
神器が最も得意とする概念は『再定義』である。
そのため、自分の常識から離れることができない人間であれば、とりあえずそれを無力化すればいいだけなのだ。
「来やがったか」
「俺たちを見ても余裕とはな」
剣を構えている男が前衛に、弓を構えている男が後衛といったところか。
二人の男は武器を構えて秀星を睨む。
「……アトムが俺を相手にするときどうするかは知らんが、素質ではアトムくらいあっても、単なる脳筋みたいだな」
「私から見てもそんな感じだったな。まあ、最高神の神器となれば、その基本性能だけで圧倒できるわけだが」
「そうなんだが……まあいいか」
秀星はプレシャスを構える。
純粋な剣の勝負をするつもりはサラサラないのだが。
「ハッ!俺たちのような圧倒的な才能を持つ選ばれた存在が、お前程度に負けるわけねえだろ!」
「どうやら強いようだが、下位神の神器では、俺たちがもつ最高神の神器には勝てない!」
「お前は自分よりも弱いやつしか相手にしてねえ臆病者だ」
「世界一位だぁ?んなもんしったことか。死ねええええ!」
剣を構えている男が突撃し、弓を構えている男が矢を構える。
「……最初から期待はしてないけどさ。せめて、救いようくらいはあってほしかったよ」
秀星はため息を吐いた。
「俺が、自分よりも弱いやつとしか戦わない臆病者だって?」
プレシャスを上段に構える。
「その通りだ。雑魚」
プレシャスを振り下ろす。
それだけで、最高神の剣は破壊された。
「な……え?……」
「剣をはじめとする『物質的』な神器全般に言えるんだが、内側にある『核』を的確に攻撃すると砕けるんだ」
「そ、そんなバカな……」
「お前は、俺が剣を振り下ろしただけのように見えただろうが、実際はそう単純じゃない。まあ、ここまで簡単に砕けるのはそうそうないけどな」
「な、何故だ。とんでもない衝撃だったとしても、こいつは耐えてきたのに……」
「一般人が考えられる程度のことなら、神器は普通に耐える。それが最高神が作ったものならなおさらな。ただ……すべての神が、神器をちゃんと作れるわけじゃない」
神器の核を破壊した以上、もう強化はない。
ボロボロになっている宗一郎でも倒せるだろう。
「さて、あとはお前か」
弓を構えて呆然としている男を見る。
「なっ……あ、え?」
「混乱しているところ悪いが、もう一つ重要なことを教えてやる」
プレシャスを振り上げる。
「俺はな。『才能』くらいは破壊できる」
「何!?」
プレシャスを振り下ろすと、斬撃が飛んでいった。
その斬撃は男を正面から捉える。
「ぐおお……ん?」
「ダメージを与えることが目的じゃないからな。そりゃ痛くないさ」
「ば、馬鹿にするな」
男は矢を射出する。
しかし、それが秀星のところに飛ぶことはなかった。
それどころか、まるで初心者が始めて弓を使ったかのように、全く関係のない方向に飛んでいく。
「う、嘘だろ?」
「いっただろ。『才能』くらい破壊できるって。お前には、弓を扱う才能が全くないんだよ」
「だが、今まで使った経験が……」
「認めたくない気持ちは理解できるが、補足しておくか。そもそもその弓、自動追尾特化だ。お前は努力なんてしてないよ」
「な……だが、自動追尾特化なら、撃てば当たるだろ!」
「知らんのか?神器にはすべて、『先天的な要素』が本人に求められる。その先天的な部分がなくなった場合、神器は機能しなくなる」
「……」
納得はしていないが、理解はしているのだろう。何も言わなくなった。
「さてと、宗一郎。あとは任せる」
「……ああ。そうしよう」
宗一郎も言葉を失っているようだ。
そもそも、彼は強いので、戦場に立つときは大体、秀星とは別の位置にいる。
こうして間近で、『秀星の戦い方』を見て、思うことはいろいろあるはずだ。
(これで、宗一郎も面白くなってくれればいいんだけどな)
襲撃者に対して同情している宗一郎を尻目に、秀星は内心でそんなことを考えていた。




