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第四十五話

「うひょー!風呂がすごく広いね!」


 バスタオル一枚を体に巻いた雫がはしゃいでいる。

 彼女の目の前に広がっているのは、『剣の精鋭』が貸し切りにしている宿にある風呂場だ。

 プレハブとは言え、それなりに大きな機材が必要とされるものだが、魔法があるのでそれなりに大きなものが作れるらしい。

 剣の精鋭の女性メンバーは八人。

 その全員で入っても問題ない広さだった。


「まあ、ここより広いところはそれなりにあるけどな。だが、即席で作ったにしては広い方だとオレも思うぜ」


 同じくバスタオル姿の来夏が言った。

 風呂場なのでそう言う格好をする来夏だが、彼女の場合、高い身長に加えてイロイロ大きいのでバスタオルは持参品である。


「でも、すごく広いです!あれ、ポチ。どうしたですか?」

「刺激が強いんじゃないの?雄でしょ。ポチって」


 優奈の言い分はもっともである。

 美咲が抱きかかえているポチは、鼻から血を流して気絶しかけている。

 だが、目の前に広がっている女たちの姿を脳に焼き付けたいと言う本能が働いているのか、時と場合によっては白い目を向けられる努力を最大限に行っていた。

 と言うかなぜ連れてきたのだろうか。


「……」

「千春ちゃん。どうかしたの?」

「……不公平よ」

「え?」

「不公平だって言ってるの!」


 千春はバスタオルを巻いた自分の体、特に胸のあたりを触った。

 ない。

 ないのだ。本当に。

 ペチャパイと言うのは、実は背中に肉が行くゆえに胸に行かないので、専用のマッサージをすれば大きくなるらしいが、それらを言ってもむなしいだけだ。

 とはいえ、雫、来夏、アレシア、羽計、風香はすごく大きい。

 優奈はまだ中学二年生であり、形を考えるとこれからに期待が可能であり、美咲は小学五年生なので、まだまだこれからである。


「安心しろ。千春。人の価値は胸だけでは決まらないぞ」

「そうですよ。千春さん。それ以外を磨いていけばいいのですから」

「だからって巨乳の人にそんなこと言われたくないわ!」


 胸の話をすると変にスイッチが入る千春。

 言いたいことは分かるが……。


「良いからさっさと入れよ……」


 体を清めて既に入浴中の来夏。

 その胸は湯船に浮いていた。


「嫌味か!」


 千春の中ではそう言う感じに変換されたようだ。

 別に来夏の表情にはいじるような感情が感じられないが。


「大丈夫だよ千春ちゃん!私はペチャパイでも十分ストライクゾーンだよ!」

「アンタ。煽ってるの?ねえ、煽ってるのよね」


 ちょっとヤバい感じになってきた。

 とはいえ、バスタオル一枚だとダンジョンの中と言うのは少々寒い空間だ。

 湯船に浸かることそのものが悪いということではない。

 脱線が多いが。


 そんなわけで浸かった。

 ちなみに、既にポチは昇天している。

 仕方のないことだ。そう言うことにしておこう。


「うへへ。風香ちゃーん」

「ちょ、雫ちゃん」


 雫は風呂であろうと別に容赦などしない。

 だが、雫としても、どうせ狙うのなら巨乳かつ、反応が面白い方がいい。

 来夏の場合は余裕があるので雫が面白くない。 

 羽計はいじるとおもしろいがネタを選ぶ必要がある。

 アレシアの場合は心の臓をえぐり取られそう。

 というわけで、雫の標的は風香になるのだ。

 すごーく撫でまくっている雫。

 風香も嫌がっているが、雫のテクニックの問題だろうか。そこまで拒絶するわけではないようだ。


「雫。風呂くらいゆっくりしなさいよ」


 なんだかんだ言って疲れている様子の優奈がそう言った。

 周りよりも年齢がわずかに低いうえに、美咲のように移動をポチ任せにしたりすることもないので、その分疲れるのだ。

 肉体的には鍛えているだろう。

 ただし、精神的な部分は考える必要がある。


「ムフフフフ……こんなに面白いおもちゃがいて狙わないなんて女の恥だy――」


 最後の『よ』としっかりいうことなく、笑顔のアレシアに頭を湯船に沈められる雫。

 雫は『ちょっと!待って!ねえ、待って!』と言った様子でアレシアを叩いているが、あまり効果はない。


「……アレシア。容赦ないな」


 羽計も茫然としている。


「こう言う人を相手にする時に、お約束などを待っても仕方がないですからね。先手必勝です」

「あの、雫さん。痙攣してるです。大丈夫ですか?」

「問題はありませんよ。あと二、三分はこのままで十分でしょう」


 鬼である。

 雫はバカであるが。


 だが、アレシアと言えど、そこまで長い時間沈めたりはしない。

 それでも一分くらい沈められていた雫。

 さすがに酸素を求めてぐったりしていた。


「なんていうか、懲りねえなぁ……」

「いつも通りよ」


 呆れる来夏と千春。

 どんな時でも平常運転なのはあえて表現するなら『芸人魂』に近いものを感じるが、ここまで行くのは珍しい。


「で、今日はどうだったの?私たちはそれなりと言ったペースね。秀星がいるから安心出来たわ」


 優奈が全員に聞いた。

 もちろん、ダンジョン探索のことである。


「美咲も、秀星さんがいると安心するです。ね、ポチ。あれ、どうしたですか?」

「ちょっと前からすでに昇天してるぞ」


 羽計に突っ込まれる美咲。


「まあ、この状況だからね。気持ちは分からなくないよ。ダンジョンの話だよね。慣れてないからまだ何とも言えないけど、そうだなぁ……秀星君には援護してもらってる感じだね」

「そんなに余裕があるのか?」


 雫の言い分に来夏も驚く。

 五十層までなら良いし、それを多少超えた階層、具体的に言うなら六十~七十層くらいまでなら、来夏としてもこの三人をうまく引っ張っていけるが、それ以降になるとつらいものがあるだろう。

 いろいろと視えるが、二つ三つを同時に処理する必要がある時も珍しくはない。

 ダンジョンの難易度が、秀星に全然足りていないのだ。


「私たちの方はかなり楽だったよね」

「来夏が暴れていましたからね」


 風香が呟き、アレシアは頷いた。

 いずれにせよ、来夏も来夏で平常運転のようだ。


 そこからもわいわい言っていたが、優奈があくびをする。


「ふああ……そろそろ部屋で寝るわ。何かあったら呼んでね」

「美咲も、ポチの面倒を見るです。お先に失礼するです」


 優奈と美咲が風呂からあがった。

 そして残されたのは、十六歳以上の女たちだった。


「それにしても、秀星はオレたちの中では、一番変化してるな」

「それは精神的にですか?」

「精神的……なんだろうなぁ。オレもよく分からんが」


 来夏としても、秀星のような人間はあったことが無い。

 とはいえ、秀星のような人間が何人もいるとそれはそれで困るが。


「基本的には、周りに流されているという感じだな」

「でも、秀星君本人が何をしたいのか。そこがあまりわからないんだよね」

「何も決めてないんじゃないの?」


 羽計、風香、千春も思ったことを言うが、結果的にまとめると『分からない』というところだろう。


「違うなぁ……」


 そんな中、雫は分かっている。という声色で話し始める。


「秀星君は何をするのかを決めていないこともあると思うけど、多分、そもそも不安定だと思うよ」

「どういうことですか?」

「人の考え方って言うのは、性格もあるけど、その上で『何ができるのか』っていうのが重要になって来るよ。許容範囲が広がれば、それに応じて見解も変わるから」


 できることとできないこと。

 『実際に』という前提があるものの、それらをどうとらえるのかが重要だ。


「多分、今も秀星君の許容範囲は広がってるんじゃないかな。そうである故に、『貫き通せるほどの何か』を思いつくことすら簡単なものじゃない」


 例えるならば、人の生死を自由に決めることが出来る人間が、人の命の重さというものを考えるだろうか。

 ほぼ無限に、誰の助けを必要とすることもなく何かを創造できる人間が、物の価値と言うものを考えるだろうか。

 自分たち以上に様々なことを理解し、把握し、真理にたどり着いている人間が、『存在意義』を考えるだろうか。

 『可能である』と言うということは、別にそれそのものが悪いわけではない。

 どんな知識も技術も使い方次第であり、あることそのものに罪はない。

 むしろ、否定しても前には進めない。


「できることが多かったり質が高すぎる人間って言うのは、時にすごい思考をしているものがいる。全能感にあふれているから、自分を高く見えたり、周りが低く見えたりする。だから、自分は何をしても許されると思えるんだと思うよ」

「だが、秀星はそこまでぶっ飛んだ性格はしていないぞ」

「多分、秀星君が今の力を手に入れる段階での考え方だろうね」


 力は力だ。それ以外の何物でもない。

 さらに言えば、大きすぎる力は人を変える。

 大金を急に手に入れた人間が変わらないはずがないのと同じだ。


「かなり必要最低限をぶっちぎってるけど、秀星君は今持っている力を、『必要だったから』っていう理由で手に入れたんだと思うよ。がむしゃらに何かを頑張って手に入れた人は、その報酬の『意味』を考えることはないからね」

「では、秀星さんほどの実力が必要な状況があったということになるのでしょうか」

「いまいちよく分かんねえな」


 スケールの大きい話だ。


「秀星君はその力を手に入れた。でも、まだ本人も、その力の全貌が分かったわけじゃない。だから不安なんだと思うよ。あと多分、覆りようのないほど、絶対的な『敗北』があったんじゃないかな」

「今の秀星が、誰かに負けたってことか?」

「私もイロイロと『視える』んだけどね。心の奥底に怯えがある。あれは負けた人の感情だよ」


 雫も驚いたことだ。


「普段は静観している。だが、何か起こった時は敵になる。みたいな感じになるでしょうけど」

「たぶんそうだと私も思うよ」


 千春の例えに雫は頷く。


「何かを貫けるほど、『今』の秀星君は、『未来の自分』を予測できないし、限度があり、そのラインが不確定だから、自由に動けない。周りに流されているように見えて、実質『何をしたいのかわからない』っていう状況になってるのは、そう言うこともあると思うよ」

「……だが、アイツはアイツだろ?」

「もちろん。むしろ本人じゃなかったら初見で分かるよ。いろいろな意味で」

「それは確かにそうですね」


 雫の言い分にアレシアは頷く。

 個性的。といえる性格なのかどうかはいまいち不明だが、余裕があることは事実だ。


 ちなみに、これは秀星も考えていることだが……。

 女の勘がすぐれているというのは、フィクションの中だけで勘弁してほしいものである。

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