第四百四十八話
ぶっちゃけてしまうと、『月下同盟』はどうでもよかった。
魔法に対する価値観が乏しい場合、その攻撃性能に目が行きがちである。
それそのものは悪くないのだが、魔法や魔力という概念にとって、『攻撃』というのは基礎ですらない。
経験がないのなら、よほどの知識がなければ、相手の防御に防がれるか巧妙な罠によって捕らえられて使う機会すら与えられないだろう。
……セキュリティを秀星が組んだ沖野宮高校を標的とする場合、それ以前にいろいろ前提があるわけだが。
ともかく、魔法を手に入れたばかりのテロ集団である『月下同盟』は、勝ち星を掲げることなくすべて捕獲された。
ただ、問題なのはアーク・テーゼの方だ。
空間生成装置(すでに破壊されている)と図書館を狙っている彼らは、『魔法社会が表に出てきたことで自重しなくなったテロリスト』である。
これだけだとどこにでもいそうだが、彼らは『魔法をもともと使っていたハズ』である。
しかし、彼らの中でトップ二人の会話は、どこか『魔法を新しく手に入れた』といったものや、『改めて魔法の有用性に気がついた』といったものだった。
もちろん、アレシアのように『超能力』を使っていたり、来夏のように『スキル』を軸にしているものは多いが、『魔法』と『超能力』と『スキル』は広義の上ではほぼ同じであり、強者の上ではほぼ共通認識である。
というより、強者が潜るようなダンジョンだと、『魔法耐性』を持っているモンスターが超能力を防いでくるという場面にいずれ遭遇するもので、気がつくものなのだ。
魔法社会に溶け込んでいたものたちが、なぜ魔法という広いそれに対して、改めて有用性を認識したのか。
答えは別に難しいものではない。
「ふああ……神器を使ってないとやってられないような環境にいると、こういう雑魚供を相手にすると魔法の有用性がわかるな」
「ああ、そのとおりだ」
フードと仮面を付けた二人組がそんなことを言った。
そして、彼らの先にいるのは……。
「最高神の神器持ちが生み出す出力が、これほど高いとは……」
ところどころ破損している神器の鎧を身に纏った宗一郎がそう呟いた。
「ククク。俺たち二人を相手にしてその程度で済んでる時点で十分お前もバケモンさ」
二人組が持っているのは、一方が剣で、一方は弓だ。
前衛と後衛がハッキリした組み合わせである。
もちろん、神器であるならどんな剣であっても遠距離攻撃は可能だろうし、弓であっても単純に散弾のように放つことは可能なので、このハッキリした組み合わせが意味を持つのは神器使いが相手のときだけだが。
「しかし、本当に頑丈だな」
「ああ、かなり打ち込んでるはずなんだが……」
「普段から鉄ブロックが入ったアタッシュケースや、棘付き棍棒で殴られているからな。これくらい普通だ」
「「え、それって普通に虐待じゃすまねえぞ」」
フードの二人組は『日本はいつからそんなバイオレンスな国になったんだ?空気読むことしかできない組織人しかいないんじゃなかったのか?』と思ったのだが、宗一郎の日常が日本の日常だと相当ヤバイことになるので勘違いはしないほうがいい。
ただ変わらないのは、『戦術を左右する』と言われている宗一郎の神器ですら、目の前にいる二人組には勝てない。ということだ。
「しっかし、世界最高峰の魔法学校だなんて情報が流れている沖野宮高校でも、生徒会長はこんなもんか」
「だがまぁ、ここまで戦えるだけ褒めてやるべきじゃねえか?大体は一撃で終わるんだからよ」
二人は笑う。
そんな中、宗一郎は考えていた。
(自分たちの心配をしていないのはいいが、一緒に攻めてきた仲間の心配をしている様子もない。この二人ほどではなくとも、それ相応に強いということか?だとするなら……思ったより不利になっているかもしれないな)
舐めていたかどうかは別だ。
そもそも、テロリストの誰かが学校の敷地に入ったという情報はまだ来ていないので、致命的なことは何もない。
だが、宗一郎の中には、どこか異様な不安があった。
彼らではなく、彼らが普段どこにいたのか。という『環境』の部分である。




