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第四十四話

 『落ちない翼』所属の男たちは、秀星によって度肝を抜かれたこともあって去っていった。

 とはいえ、残像を使って回避し続けた挙句、刀身でお手玉して、最終的に何事もなかったように戻すような変態とまともな交渉は不可能だと思うのが普通である。

 『剣の精鋭』側も、色々な意味で突っ込んではいけないような気がしたため、それらは追及しないことにしたようだった。


「かなり集まったわね」


 トロッコに山のように積まれた素材たちを見ながら、優奈はそう言った。

 ダンジョンに仕掛けられている罠で素材が傷つくことに注意するためのマニュアルが今だに不完全であることを考えると、なかなかすごいものだ。

 魔法具をつかって結界を生成し、それらでトロッコを守ると言う手段もあるのだが、それだけでは対処できない場合もあるので尚更である。


「でも、とても重そうです。秀星さんは大丈夫なのですか?」

「まあぶっちゃけ、二トンか三トンくらいはあるけど、別に問題はないな」


 付与魔法で筋力を強化すれば、アルテマセンスを持つ秀星ならもっと重くても運べるし、エリクサーブラッドによって肉体が疲労しないので、問題など全くなかった。


「……ゾウを運んでいるようなものよね」

「まあでもアフリカゾウほどではないからな」

「「「そう言う問題じゃないと思う」」」


 三人からツッコまれる秀星。

 しかし、そう言った反応になれていることも事実。

 あまり気にした様子はない。


「まあそれはいいとして、そろそろ戻るか?」

「私もその方がいいと思うよ。それなりの時間だし」


 雫は懐中時計を見ながら言う。

 ちなみに、雫が持っているのは、時計の構造が全て見えるスケルトンタイプだ。

 どこに売っていたのか少し気になるが、秀星は自分で作れるので興味が続くのはほんの少しの間である。


「ポチがそろそろお腹を空かせる時間です。美咲も戻った方がいいと思うですよ」

「初日だし、私もそれでいいと思う」


 反対意見がないので、そのままベースキャンプまで戻ることにした。


 ★


 そう言う時間帯。と言うものなのだろう。

 秀星たち以外にも、戻ってきているもの達はそれなりに多く、賑わっていた。

 それに対する秀星たちだが、四者四様と言った雰囲気だ。

 秀星は疲れないのでいつも通り。

 優奈は緊張が解けているのかあくびをしている。

 美咲は小さくなったポチを抱きかかえて、猫缶を売っていそうなところをきょろきょろと探している。

 雫はベースキャンプに戻ってきたことで好奇心が復活した。


「あの換金所。後ろに大きな建物があるけど、あそこに全部集めてるのかな」


 雫が換金所の後ろにある建物を指さしていった。

 優奈はあくびを噛み殺しながら頷いた。


「ふああ……ん。あらかじめ一か所に集めておいた方がいいって感じね」

「監視するのに最適なスキルを持っている人がいるです。盗まれる心配もないですよ」

「仮にもボス部屋だとは思え無い感じだね……」


 分別に関しては、人の手で分けるより機械を使った方が早いので、専用の工場に運び込んだうえで行うそうだ。

 魔法と機械は混同しにくい。

 マシニクルを持っている秀星が言えることではないが、それが世界の常識だ。

 ただし、魔法で発生した計測結果を色として識別し、機械でそれを認識することで、直接は無理だが、間接的に行っているらしい。


「あ、猫缶を売っているところがあるです。買ってくるです!」


 ポチを抱えた美咲が走って行った。


「おおっ!あの子たち可愛い!ナンパしてくるね!」


 雫は猛スピードで走って行った。


「私はちょっと寝てくる。来夏たちが来たら起こして」


 優奈は、あらかじめ剣の精鋭が貸し切りにしていたプレハブ小屋に向かって歩いていった。


「……俺は換金してくるか」


 秀星としても、他にすることがあるわけではない。

 換金所に行ってみることにした。


「お、秀星。帰ってたのか」


 振り向くと、来夏がトロッコを引っ張っていた。

 ただし、量は秀星の倍である。

 要するに、トロッコは二つを連結したものなのだ。


「……来夏。何をどうやったらそこまですごいことになったんだ?」

「モンスターがたまっているスポットに向かって一直線に進んで倒しまくっていただけだ」


 モンスターを倒した数が多い方が、得られる素材も多い。

 シンプルと言うより、それは当然のことである。

 ならば、遭遇回数を多くすればいい。

 簡単に言えばそう言うことだ。

 来夏のパーティーも、秀星のパーティーも、モンスターとの戦闘になるまでが遭遇式であろうと、突然モンスターが出現するタイプであろうと、奇襲される可能性はほぼゼロに近い。逆に、秀星たちが奇襲する側だ。

 モンスターにで会うタイミングが分かるのだから、その分の精神的な苦労は軽減される。

 ならば、まとまった量がいる場所に行けば、倒せる実力があるなら儲けることが出来るということだ。


「ところで、他はどうした?」


 来夏は、秀星が一人で換金所に来たことを疑問に思っているようだ。


「美咲は猫缶を買いに行った。雫はナンパ。優奈は宿で寝てる」

「らしい感じになったな」

「そっちは?」

「羽計と風香は宿に行った。アレシアは情報収集。千春は技術者たちが多くいるところに混ざりに行った」

「何かよくわからんが、換金係になってないか?俺達」

「まあ実際、それぞれのパーティーのリーダーが換金しに来てるもんな。別に体力はお互いに余ってるから文句はねえけど」

「え、俺ってリーダーなの?」

「実質的に、という前提がつくけどな」


 それならいいのだが、急に決めるのが来夏なので精神的につかれる。


「お、剣の精鋭も稼いでいるみたいだね」


 振り向くと、素材が満載したトロッコを十台連結させて引っ張っているアトムがいた。


「「いや、お前が言うと嫌味にしかならねえって」」


 ハモる秀星と来夏。

 素材の価値の平均はあまり変わらないと思うが、いずれにせよ、十台のトロッコにはどうやっても勝てない計算だろう。


「どうやって集めたんだ?」


 来夏は気になったようだ。

 秀星としても、ダンジョンに挑むとすれば来夏が一番効率を重視出来ていると感じるので気になる。


「まず大型トラックに乗って――」

「ちょっと待て、最初からおかしいぞ」


 秀星は反射的にツッコんだ。

 イロイロな意味でおかしい。


「まあ、最後まで聞き給え。大型トラックで走りながら、モンスターを発見し次第、遠距離魔法によって一撃必殺を行い、アームで素材を回収。と言うことを繰り返していたのさ」

「四人が別々でやってたのか?」

「勿論だ」


 なんというか、秀星とは別の意味で変に自重しないタイプのようだ。


「あとは、あらかじめ集合場所を決めておいて、アームで素材を全てトロッコに積み込んだら、それを引っ張ればいい。ということだ。シンプルだろう」

「すごく技術水準がぶっ飛んだシンプルさだな……」

「ダンジョンでトラックって……乗っても大丈夫なのか?」

「少なくとも違法にはならない」


 そう言う問題ではない。

 というか、こういう場所でそう言った法律の話をしても仕方がないだろう。

 そもそも魔戦士はみんな銃刀法違反で逮捕されてしまう。


「で、結果的にアトムがパシられたってことか」

「いつも通りだ」


 『それでいいのかリーダー』

 そう思った秀星と来夏だが、自分たちの状況を考慮して、何も言わないことにした。


「ていうか、よく引っ張れるな」


 来夏はアトムが引っ張るトロッコを見て呟く。


「それはお互いのセリフだろう」

「「それは絶対に認めない」」


 どこからどう見ても、十台も連結して引っ張っているアトムの方がおかしい。


「とはいえ、魔法を使えばある程度重量を軽減できる。基礎的な部分を鍛えているのなら、そう言うことはごく普通にできるからね。私は少しの力しか使っていないよ」


 どのみちそのようなものだと秀星も来夏も思っていた。

 というより、来夏にはいろいろと視えているし、秀星も魔力を感じとれる。

 あえて言わなかっただけだ。

 自分からカミングアウトしてきたので少々予定が狂ったような心境だが。


「まあそれはいい。換金所も空いてきたし、そろそろ片付けよう」

「そうだな。オレも、いつまでもこんな荷物を持っていても仕方ねえし」

「俺も換金するか……」


 と言うわけで、それぞれ換金した。

 で……。


「今日だけで一億円も稼いでしまったか」


 アトムはそう言いながらアタッシュケースを持っている。

 トロッコに満載すれば一千万円。と言ったところだ。

 本来はもう少し多いが、十分と言えば十分。


(装備の更新だとか、いろいろすることがある連中にとっては違う部分もあるがな)


 魔戦士が使用する武器のほとんどは『魔装具』であり、安いものは本当に安い。

 はずだったのだが、それらをまとめている評議会が実質的に機能していないので、価格が高騰している。

 そう言った部分にも影響力を持っていたこともあるので、更新計画が大幅に崩れた魔戦士も多いようだ。

 いずれにせよ、金はあっても困らないし、できる限り多い方がいい。


「では、私は戻るとしよう」

「そうだ。アトム。宿屋の番号教えてくれ」

「登録番号は『A-12』だったかな」

「あ、隣だ」


 来夏がそうつぶやくと、さすがのアトムも苦笑した。


「まあいい。それも何かの縁だからね」

「お互いに頑張ろうぜ」

「もちろん」


 そう言うと、アトムは宿に行った。


「……秀星」

「なんだ?」

「世の中にはすげえ奴がいるんだな」

「……そうだな」


 秀星は少し、アトムと言う人間をどう表現すればいいのかわからなかったが、とりあえず分かっているのは、『頭のネジが抜けているというより、頭がネジ以外の何かで止まっている』と言うことであった。

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