第四百三十五話
当然の話だが、剣の精鋭に所属していないからと言っていい勝負ができないということは全くない。
秀星や基樹と言った物理的、魔法的に圧倒的なのはこの際無視するとして、その周りにはそれ相応と言えるくらいであり、一対一にこだわらず、何人かで囲めば勝てることもある。
「えいっ!」
「わっとと!そりゃ!」
奏と美奈である。
炎の剣を操る奏と、自分が持つ剣と連動するように剣を生成してコントロールする美奈。
いずれも『自分が手に持たない剣を操る』と言う点で同じなのだが、秀星の判断では『奏の場合、武器の役割が生成で、美奈は武器の役割が制御』といったもので、実際に仲間にして戦うとなれば感覚が異なるそうだ。
と言う話を二人とも聞いているわけだが、戦った感想としては……。
「それっ!」
「おりゃああ!」
炎の剣を射出する奏と、宙に浮かぶ剣をコントロールして弾いていく美奈。
先ほどからずっとこんな感じであった。
現実としてどうなったかと言えば、『奏は弾幕作戦』であり、美奈はそれを弾いていくという方法となった。
奏も、自分の近距離にある剣ならばある程度操作できるのだが、遠くとなると無理であり、美奈のような『剣の精鋭メンバー』が相手だと、近距離戦では圧倒的に不利である。
と奏が考えた結果、こうした弾幕作戦になっている訳だが、一つ、彼には戦いにおいて欠点がある。
今まで彼の攻撃と言うのは、『表思考』と『現象』が完全に同じである『搦め手の無い純粋な攻撃』だが、秀星のそばにいれば、『攻撃と言うのは、相手が分からないように攻撃を繰り出すのが普通』という考えが生まれる。というより秀星が自分で言う。
そのため、奏としても搦め手とか『裏』だとかいろいろやろうとするわけだが……。
「えいっ!」
(……あ、裏でダガーを多数構えてますね~)
大剣を多数飛ばしている奏だが、ダガーが巧妙に隠されている。
だが、美奈はいとも簡単に分かった。
美奈は確かに育った環境の影響でそれ相応に観察力は高いが、それを抜きにしても、奏の裏は分かりやすかった。
答えは簡単で、『奏のOES』である。
感情を純粋に発信する彼のスキルだが、実は彼はまだこれを制御できていない。
そのため、『隠している』と言う部分が漏れるのだ。
遠距離攻撃をしっかり当てるとなれば、『相手にばれないように』『弾速を上げて』放つのがいいのだが、弾速はともかく、発砲のタイミングがばれては話にならない。
ただし、美奈はそこまで情報アドバンテージがあっても近づけなかった。
(むうう、隠そうとしている感情がダイレクトに来るのは分かりやすいですが、逆に表の方に意識が薄くなりますね~)
何かをしている。というのは単なる視覚情報だ。
しかし、『何かをたくらんでいる』というものは、本来は観察力がなければ行うことができない。
その『本来なら気が付けない高度な技術』を自分が行使していると勘違いしてしまうのである。頭ではそうではないと分かっているのだが、それでも気になってしまうのだ。
要点だけをまとめるならば、『裏が出ていると表より気になる』というところだ。
裏に意識を持って行かれて、表が若干おろそかになる。
(むう、ちょっとだけ全力を出した方がいいかもしれませんね~。奏ちゃんが初の相手になるとは思っていませんでしたが、まあいいとしましょうか)
そんなことを思いながら、美奈は内心で黒い笑みを浮かべるのだった。




