第四百三十話
「集まったなぁ……」
秀星はそう思った。
グラウンドには、沖野宮高校の中から生徒会+秀星というメンバーが選出した三十人と、ジュピター・スクールで選出された三十人が集まっている。
ジュピター・スクールからは校長先生が来ているので(世の中の事情を考えると選出はアトムだと思われる)、こちらの校長といろいろ話す予定のようだ。有能さが向こうが上だろう。悲しいことだが。
なお、それぞれ制服姿でいるわけだが、ジュピター・スクールの生徒会長である聡子だけは着物姿である。
そして誰もそれに対して指摘しないあたり、すごいというより手遅れである。
「本日はよろしくお願いしますね」
「ああ。こちらこそ」
聡子と宗一郎が握手している。
生徒会長同士なので形式的なものだろう。
シャッターがバシャバシャとウザイが。
そして二人は意に介してすらいないようだが。
「さて、合同演習ですが……何をしますか?」
「パンフレットすら作ってないからな。とりあえず人を集めただけだし」
このグダグダ感である。
「そういう時!男はこぶしで語るんだぞ!」
遠くから来夏の声が響いた。
「そうだそうだ!せっかく強そうなメンバーがそろってんだからガチンコ勝負だあああああ!」
高志も謎の闘志を爆発させている。
正直なところ迷惑である。
「とりあえず沙羅さんを呼びましょうか」
「「ごめんなさい!それだけは勘弁してください!」」
聡子の無情な宣言とともに土下座に移行するギャグ担当の二人。
弱点が知られている強者というのは惨めなものである。
「さて、邪魔な人は置いておくとして……三十人対三十人のチーム戦でバトルロイヤル。というのはどうですか?」
「……」
聡子の提案に、全員がだまった。
沖野宮高校からも、ジュピター・スクールからも三十人が選出して選ばれているので、人数的な条件は同じだ。
しかし、こうなるとなかなか話は別である。
「場所はどうする?」
「沖野宮高校のほうで使われた空間生成を使いましょう。すでに修復は終わっているはずですからね」
「それもそうだな」
うなずく宗一郎だが、一応いえばぶっ壊した一人は彼である。
「皆さんもそれでよろしいですか?」
「……まあ、装甲がしっかり働くだろうから、死んだりしないって。イベントの時よりも頑丈な奴にするから」
秀星としては、集合したばかりでいうのもなんだが休憩時間を設けるべきだと思った。
理由としては、『実力そのものを本質的に認識できる』スキルを持つ的矢の顔が真っ青なのである。
特に、聡子や基樹、天理を見て滝のような汗が流れているのだ。
最高神の神器持ちに加えて、元魔王と元勇者。
さすがに的矢としても意味不明のようである。
だが、秀星をあらかじめ見ているからなのか、それ以上の動揺はないようだ。
いいことなのか悪いことなのか、それは後で判断するべきだろうが。
「まあ、自己紹介などしたところで覚えられないから、早速本題に入ったほうがいいのは確かだな」
生徒会長がそれを言って大丈夫なのだろうか。
「フフフ。それでは早速準備ですね。ただその前に……」
次の瞬間、聡子が消えた。
いや、秀星や宗一郎、基樹や天理――に加えて、こそこそと見守っている高志と来夏――には見えているのだが、ほかの生徒には消えたように見えた。
で、その本人はというと……。
「うふふ。かわいいですね~」
「む……むううううぅぅぅ……」
奏を抱きしめていた。
優しく抱きしめて、微笑を浮かべて頭をなでたりしながら堪能している。
そしてその奏の反応だが、大体悲鳴を上げていたのに(犯人は秀星だが)、聡子の場合はなされるがままである。
「こんなにかわいい男の子は久しぶりですね」
エインズワース王国にでも行ったことがあるのだろうか。
まあ、それはそれとして……。
(そろそろだな)
秀星がそう思った時だった。
「ぐすっ……うわあああああああん!」
「!??!??!?!?!?」
急に号泣しだした奏。
そしてパニックになる聡子。
「ど、どうしたのですか?よーしよーし」
「うああああああああん!」
「え、あ、あの、これ、どうすればいいのですか?」
「……」
沖野宮高校の生徒は秀星のほうを見るのだが、その秀星は明後日のほうを向く。
こうなった時の奏はなかなか止まらないのだ。
秀星も苦労するのである。
「こ、これはこまりましたね。ほらほら、悲しくないですよ~」
「うぐ……ぐすっ……」
「(ホッ……)」
「うああああああああん!」
「え、えっと、ほ、本当にどうすればいいのでしょうか……」
実際、奏のOESによって、『はじめて母性を全身で感じることで湧き上がった感情』がダイレクトに聡子に伝わっている。
聡子もいろいろな人に会っているだろうが、さすがに奏のように感情が直接来るという経験はないはずだ。
秀星のほうに視線がちらほら来るのだが、完全に無視。
一応、記者のカメラの電源が入らないように魔法で封印している。
こうなった奏はなかなか止まらないので、秀星としてもこうすることくらいしかできないのである。
(……がんばれ)
秀星は心の中で応援するのだった。




