第四百十七話
秀星の父親、朝森高志。
「会いたかったぞしゅうせえええええええグホアッ!」
一言で表すならば、『エネルギーの塊』である。
一体どこから捻出されているのか不明なほどの『持続時間』を持つ人であり、暑苦しさと汗臭さは来夏の比ではない。
「父さん。相変わらずウゼエな」
思いっきり十七歳の息子に抱き着こうとする父親である。
秀星より少し身長が高いこと、そして左頬に十字傷があることを除けば外見がよく似ている親子だ。
が、異世界で五年過ごしていろいろと成長している息子に対して、大人とは思えないほど純粋な目をした父親である。
バキバキの白装束で昔のヤンキーのような恰好だ。
ちなみに冬でもこんな格好である。
「いてて、三年ぶり……いや、お前にとっては八年ぶりか?久しぶりに会う父親の顔面に鉄拳を入れるとはさすが我が息子!」
「なんで俺が異世界に行ったこと知ってんだ」
「基樹から聞いた」
「年数はどうやって算出したんだ」
「そんくらいだろ」
「……」
なかなか勘も鋭い。
「はぁ……」
「どうした。すでに幸せが逃げたように溜息を吐いて」
「やかましい」
いつでもどこでも純粋な目をして幸せそうにしている親父からそんなこと言われたくない。
「で、秀星。最近どうだ?」
「無難な毎日だ」
「もうちょっと挑戦したほうが人生楽しいぞ」
「異世界に五年もいたらそれ相応につかれるって」
「なんだ。俺なんか三日くらい扇風機の前であ~って言えるぞ」
「……何の関係があるんだ?それ」
「要するにそれくらい俺は最近暇なんだ!」
「仕事しろやニート。ていうか普段から何してんだ」
「まあいろいろなところに行って調査だな。基本俺は暴れるだけだけどな!」
「いや、俺、父さんが頭使う仕事できないのか知ってるから」
「向いてないじゃなくてできないっていうんだなお前」
「事実だろ」
「事実だな。これで自分の子供三人からコンプリートだ。ちょっと俺悲しい」
すでに秀星の妹と姉からバカ扱いされていたようだ。
「ところで秀星。お前はもうだれかとヤったのか?」
「ンな訳ねえだろ」
「ヘタレだなぁ。俺なんて十九でお前産んだぞ」
「……ん?姉さんって俺より四つ上だよな」
「だな」
「てことは十五で長女産んだのか」
「そうだ」
『どうだすごいだろ!』と言わんばかりに胸を張る高志。
とりあえず顔面にもう一発入れておいた。
面白いくらい飛んで行って木に激突した。
が、むくりと起きあがって戻ってきた。
「いきなりひどいなお前」
「ドヤ顔するんじゃない」
秀星はなんだか疲れてきた。
「まあ、あれだな。とりあえず、俺の仕事仲間の紹介でもするか」
「……調査って言ってるけど、このあたりの調査ってことなのか?」
普段来ない魔獣島の一つだ。
中には神獣すらも出てくるわけのわからないエリアである。
「そうだ。遊園地みたいで面白いぞ。お前もちょっと調査に参加してみろよ」
「内容による……」
「ハッハッハ!まあ、まずは仲間の紹介からだ。いいやつばっかだから安心しろよ」
無邪気な笑みを浮かべながら秀星に背を向けて歩き出す高志。
その背中を見ながら、秀星は溜息を吐いた。
(……しかし、俺も手が出るとはな。自分の父親が相手だからって遠慮がないような……これが父さんのOESってことか)
おそらく、会話している相手の言動や仕草が、自分に対して遠慮がなくなる。といったものだろう。
無邪気なのもそうだが、基本的にノーガードだ。
(裏表のない目だったな……)
自分にはもう抜けてしまったものやなくなってしまったもの。
そういったものをまだ父親は持っている。
自分は異世界に行っていたからとか、そういうことではない。
おそらく、高志が異世界に行っていたからと言って、変わることはないのだろう。
前向きというよりも、上に立つというよりも、ただ距離が近い。
(パーソナルスペースが狭く、人をイライラさせることと、救うのが得意……か。変わらないな。父さん)
秀星は少しだけうらやましそうな顔をしたが、すぐに表情を戻してついていくのだった。




