第四百十六話
魔戦士がブームとなっているが、当然ながら魔戦士が活動する場所というのは基本的に足りていない。
そのため、闘技場などに行ってファイトマネーで稼ぐくらいしかなかった。
しかし、秀星が実際にダンジョンを作ったことで、魔戦士が魔戦士として活動できる場所を人工的に作るということが認識された。少なくとも日本上層部で。
基本的にラスボスを倒さない限り富を生み出し続けるダンジョン。
最も大きな利点があるとすれば、外的要因に関係なく、一定以上の資源を常に放出可能ということだ。
規模に関係なく、ダンジョンを保有するということは資金源を構築できることと同じである。
ただし、ダンジョンがそういった存在だということは分かっていても、ダンジョンがどのようにできるのかは判明しなかった。
そのため、『ダンジョンがあればそこを中心に基地を作る』ことは考えても、『基地を作ってその中にダンジョンを作る』という発想がなかったのである。
秀星がダンジョンを作れることが分かったので、『理想的なダンジョン都市』を作ることが可能ということになった。
一部の過疎地域では大規模にダンジョン都市として再構築されることも多々ある。
そうした結果、多くのダンジョンが出現し、それによって魔戦士が魔戦士として戦えるようになった。
「……で、いらなくなったダンジョンはラスボスをぶっ倒して早く片付けようって感じになったんだな」
「そういうことだ。で、強者だが暇な俺たちがこうして駆り出されるわけだ」
基樹のつぶやきに秀星は返す。
二人は、日本内にある不要となったダンジョンをつぶして回っていた。
「しかし、結構躍起になってるような気がするけどな……」
「アトムたちも、まだダンジョンの中まで遠距離鑑定する手段を持ってないからな。こうした場所をアジトにされると厄介なんだろ。たまにいるぞ。こういうダンジョンをアジトにしてるところ」
「そうなのか?」
「自動迎撃システムを構築する手段はすでに多くのダンジョンで行われてることだから、弱いモンスターしか出てこない雑魚ダンジョンの中で簡易的なものを作って、拠点を作ってるみたいだ」
ダンジョンの中まで遠距離探知は届かない。
ならば、ダンジョンの中に拠点を作ればいい。という話だ。
とはいえ、これは魔法社会が表に出てくる前から行われていたことである。
「ほう……で、秀星は海外の上層部にはダンジョンが作れることは吹き込んだのか?」
「いや、まだいってないな」
「後で不公平だって言われるぞ」
「残念。俺の好きな言葉は『依怙贔屓』だ」
「それは残念な話だな。だが……アトムから止められたんだろ?」
「その通りだ。よくわかったな」
「ダンジョンの作成程度の話なら、教えたところでどうでもいいとお前なら考えるだろうからな。誰かがとめたと思っただけだ」
「その通りだ。で、どういう理由だと思う?」
「わからん」
基樹は即答。
一応異世界では魔王だった基樹も、そこは分からないようだ。
「ダンジョンの作成そのものもいろいろ調節が可能なのと、『ダンジョンの中に新しいダンジョンを作る』ってことをしてしまうと、一個の雑魚ダンジョンのなかに凶悪なものが構築されるからだ」
単なる拠点ではなく、裏取引の場所だったり、闇市だったり、中には趣味の悪いパーティー会場というケースもある。
「あー……ダンジョンって明らかに物理的な距離の限界をぶっちぎってるからな」
「実際、中の広さって外見の広さより広いんだよな」
入り口の外側から壁に沿ってどんどん削っていって、ダンジョンだけを削り取ったことがあるのだが、実際に中はそれ以上に広さがあった。
似たようなものを作ることは秀星も可能だが。
「ダンジョンの中に新しいダンジョンか。その発想はなかったな」
「異世界にもあったぞ」
「マジか」
「マジだ」
実際驚いたものだ。
「分かりにくかったな。というか、最初は特別な部屋なのかと思ったくらいだ」
「だろうな。なんでわかったんだ?」
「ダンジョンだからラスボスがいる。で、そいつを倒したらその空間だけが壊れた」
「だろうな……まあ、ダンジョンなら『特殊な空間』ならボスはいるものだが、さすがに空間ごと壊れるとなればラスボスを倒した時くらいか」
基樹はうなずいた。
「で、そんな話をしながらダンジョンに潜っているということは、ダンジョンの中にアジトを作ってるやつがいるってことか?」
「実際にこのダンジョンがそうだって話だ。じゃなかったらこんな雑魚ダンジョンに俺らが呼ばれることはない」
「俺、説明されてないんだが」
「行き当たりばったりでも基樹なら理解できるだろうと思って」
「その通りなんだが……」
基樹は溜息を吐いた。
「そういえば、お前の親父がお前に会いたがってたぞ」
「父さんが?」
秀星はバキバキの白装束を身にまとう父親の姿を想像した。
「ほとぼり冷めたんだからたまには会いに来い。みたいな空気だったな」
「……」
秀星は黙った。
「まあ、気持ちはわかる。気持ちはわかるぞ」
だが、黙った秀星に対して基樹は納得した。
「ロクでもない親父だもんなぁ」
「だな……変なこといっぱいいってくるけど」
「俺もいろいろ言われたぞ。『幸せをつかむ秘訣は、どうでもいい女を抱くときはちゃんと避妊することだ』って言ってくるような奴だからな」
「へぇ」
「当時五歳の俺には分からなかった」
「五歳児に対してそんなこと言うのか!?」
「いうぞ」
「で、どうなんだ?」
「俺、セフィアとはヤるが、基本的には避妊してないな」
「……」
「あ、セフィアは卵巣ないぞ」
「そもそも産まれないのか」
「そういうことだ」
秀星はうなずく。
「しかし、ろくでもない親父だな。五歳児にそんなことをいうなんて……」
「ちなみに母さんもその時近くにいた」
「……(汗)」
「父さんとしては『しっかり出したんだからお前はいい女なんだよ』みたいなことをものすごく間接的に言いたかったようだが、母さんから『ほかの女を抱いたのね』っていわれて……」
空気が重くなった。
で、二人とも耐え切れなくなったので、そのまま無言で進む。
……きっちりアジトもつぶして、ダンジョンもラスボスを倒しておいた。
それは悪いことではないのだが、どうすればいいのかわからないこの空気。
お互いに、秀星の母親のやばさをなんとなく理解しているからこその挙動である。
いろいろな強者をワンパンで倒しているらしい秀星の父親。
しかし、いつの時代も、母親は強いのである。




