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第四十一話

 ダンジョン。

 簡単に説明すると、直方体の形になるように切り抜いたような通路が続く洞窟のことだ。

 セフィアが言うには、『魔力的視点で自然に生まれたシステムのようなもの』であり、何が起これば何が発生するのか、と言うことが最初から最後まで決まっているらしい。

 自然に生まれたプロセスに関しても一応聞いた。

 ……やろうと思えばダンジョンは作れるし……いや、そもそもの話、オールマジック・タブレットにもレシピブックにも、ダンジョンを作りだすための魔法や道具はしっかり存在している。

 ダンジョンと言うのは、ボスを倒されない限り継続する。

 異世界では、手頃なダンジョンと言うのは経済と言う観点からしてもいいもので、適当に作って調節していたこともあった。


 話が少し長くなってきたので戻そう。

 ダンジョンに挑むときに重要なことは、戦闘力と継続力と判断力を多角的な視点からとらえておくことだ。

 何が起こるかわからない。というほど歴史が浅いわけではないが、それでも必要なものはそれなりにある。

 今回の目的はダンジョンの踏破ではなく、素材集め。

 当然、トロッコを引く人間を含めてダンジョンに入る必要がある。

 秀星も知っていたし、異世界でも地球でも最低限は変わらないということは分かっていた。

 そこから何か問題が発生するとなれば、それは人選である。


「来夏の奴めぇ……」


 秀星はトロッコを引きながら、前方を歩いている三人。優奈、美咲、雫の三人の戦闘を見ていた。

 別にトロッコを引きながらでもモンスターを倒せるし、既に魔法社会が満足する量の素材を保存箱に入れているうえに、魔法でそれらを創造することすら可能な秀星だが、あくまでも合わせる必要がある。

 要するに、普通にモンスターを倒しているのだが、面倒なメンバーを押し付けられたような感じがするのだ。

 優奈と美咲と言う年少組と、オマケに雫だ。明らかに悪意を感じる。

 戦闘において全く苦戦しないゆえに、精神的なストレスはウェルカムな秀星だが、これは少々オーバーだった。


「オリャアアアア!」


 優奈が熊にラッシュを仕掛けて……。


「えいっ!」


 ポチ(本来の大きさ)に乗った美咲が槍でライオンを貫き……。


「シッ!」


 雫がすさまじいスピードで象の首を斬り落とす。


「はぁ……」


 そして秀星は溜息を吐きながら、時々斬撃を飛ばして援護しながらトロッコを引いていた。

 ダンジョンゆえに食物連鎖が関係なく、『何でも出てくる』と言う雰囲気だ。

 戦力的にはまだ問題ないので、剣の精鋭のメンバーは善戦している。

 戦力的なバランスを見るまでもなく、雫は実力がある。

 優奈も美咲も、このあたりのモンスターなら後れを取らないのだ。

 はたから見れば単なる荷物持ちになっている秀星。

 はっきり言って面白くない。


「ふう。それにしても、ポチはすごいね~。特に跳躍力」

「グルル……」


 雫は美咲が乗っている虎を見て頷いている。

 秀星は、自分の方が跳躍力が上であることを置いておくとして、よく飛ぶと思っていた。

 もともと虎と言うのは、前足が獲物を抑えることに特化しており、後足は跳躍することに特化している。

 それを考えるとすごいのだが、モンスターであるポチはその部分がすごいのだ。

 虎であることを考えると、獲物が来るのをひっそりと待って飛びかかるのが普通なのだが、人が乗る以上、そう言った部分は本来とは異なる。


「ポチは大体五十メートルは飛べるです」


 秀星は二百メートルくらいならそれなりにやればいける。

 とはいえ、神器込みのステータスと比べても仕方がないのだが。


「私と一緒に乗っても普通にそれくらいは飛べるからね。移動するときは楽よ」


 優奈もそんな感じらしい。

 ちなみに秀星は乗せてもらえない。ポチが怖がるのである。何故かは知らないが。


「二人乗せても問題ないんだ……」

「まあ、見た感じの大きさとか、魔力的な部分を考えれば納得できないわけじゃないけどな」


 それはそれとして、トロッコにもいろいろと素材がたまっているが、目的を考えるとまだまだ先に存在するモンスターを倒さなければならない。

 とはいえ、進み続けるというのも不可能な話だが。


「思ったんだけど、秀星君はずっとトロッコを引っ張ってるけど疲れたりしないの?」

「いや全然」


 常に後方確認もしながらトロッコを引っ張っているが、神器獲得ダンジョンに比べればどうということはない。

 異世界にあった神器ダンジョンは、趣味が悪いというか、別に圧倒的な戦闘力が必要というわけではなく、うまく表現できないが、あえてするなら『テストで百点を取るような感じ』が求められる。

 それに比べれば、適当にやっていても問題のないダンジョンなど、秀星からすれば手加減しても苦ではない。

 アルテマセンスで筋力も鍛えられているし、肉体的な疲労はエリクサーブラッドが常に完全に回復させているので、ダンジョンの前の時点では元気だった雫ですら今は疲労の色が多少あるが、秀星はそのようなことはない。


「でも、ずっと後方確認もしているです」

「それに加えて私たちの援護までするって……実際のところ、かなり余裕だったりするの?」

「もちろん」

「規格外だねー……」


 雫の声に元気がない。


「まあそれはそれとして、もうそろそろ折り返し地点だ。俺たちが今回挑戦するべき階層は八十層で、今は四十層だからな」


 ダンジョンは百層構造である。


「はぁ、ワープシステムとか無いから面倒よね。普通に考えておかしいでしょ……」


 秀星は現時点でも、自宅と今いる場所を転移で行ったり来たりできるのだが、さすがにそこまで無粋なことは言わない。


「一応、ベースキャンプを作ることに特化しているチームもあるみたいです。でも、まずは美咲たちが慣れないと意味がないです」

「運ぶ物資が多くなるから仕方のないことだけどね。あったほうが私たちも楽だし」


 ベースキャンプ。

 簡単に言えば、ダンジョン内部、もしくは、モンスターが多数出現するエリアで作る拠点のことだ。

 本格的に使うことを想定したものと、数日持てばいい程度の材料で作るものと、その中間を意識したものの三種類があるが、今回は三番目だ。

 『精密機械に該当する部分を少し持っていくだけで、壊れていても再度使える程度の拠点』ということになる。

 仮眠ができる程度の施設と、各種機材がそろった医療施設。あとは素材の買い取りや武装のメンテナンスを行うためのものだ。

 炊き出しなども行っており、非戦闘系の専門チームが存在し、今回のような探索で呼ばれるのである。


「予定では、二日目には五十層地点に作られるそうだ」

「もうちょっと下にはできないの?」

「ハーフポイントを超えると難易度の上がり方が増すからな。ま、剣の精鋭よりも人数の多いチームの多くが賛同してる意見だから、俺たちが言っても無駄だろ」


 別にベースキャンプのようなもの……というか、機能を所持しているだけでいいのなら、似たようなものを作ることはできる。

 というか、今からでもセフィアに頼んでおけば作っておいてくれるだろうが、さすがにしない。

 多数の人間が挑んでいるクエストなので、クエストの運営をしている者たちにとって予想外な展開はできる限り避けるつもりだ。


(時間をかける必要のないものにわざわざ時間を使うっていうのはなかなかストレスだが……ま、その程度ならいいか)


 秀星はそんなことを考えていた。


「どこかで休憩できるポイントとか無いかな」

「ダンジョンって安全エリアとか無いからね」


 安全エリア。というより、モンスターが出現しないエリアが存在しないのにベースキャンプを作っても大丈夫なのか。という意見は当然あるが、答えはシンプルだ。出てきた瞬間に一網打尽にするのである。

 しばらくモンスターを倒しながら進んでいると、小さな部屋があった。


「あ、部屋があるです!」


 美咲が部屋を見て喜んでいる。

 実は、四十層にいる今、何一つ遭遇しなかったからな。

 中は小さな部屋だが、ダンジョンらしいものが置いてある。

 宝箱だ。


「あっ!宝箱がある!」


 優奈が宝箱を見て走っていく。

 雫が驚いた。


「ちょ、罠の可能性もあるんだから慎重に……」

「罠だったら、宝箱ごと俺が斬ってるよ」


 雫があわてているのを遮って、秀星はいう。

 実際問題、見た瞬間に鑑定して、罠がないことは分かっていた。

 優奈が宝箱を開けると、中には空色のインゴットと、筒のようなものが入っていた。


「……なにこれ」


 優奈が手に取ったのは筒のほうだ。

 どういえばいいだろうか、卒業証書を入れておく筒みたいな大きさをしている。

 半分で色が分かれていて、白と青になっていた。


「……?」


 雫はそもそも考えることを放棄しているようだ。

 美咲もよくわかっていない。

 だが、秀星は一瞬で分かった。


「海の力が入った筒だな」

「どういうこと?」

「簡単に言えば、白いほうに魔力を流し込みながら回すと塩が出てきて、青い方に魔力を流し込むと水が出てくる」

「あ、分割しちゃうんだ」

「ま、研究材料にはなるんじゃないか?後で千春にでも渡しておこう」

「わかった。で、こっちのインゴットは?」

「『マナメタル』っていうインゴットだ。レア度でいうと……三に近い二といった感じだな」

「それって何段階評価?」

「五段階」

「……微妙だね」

「です」

「グルル……」


 秀星の評価に、雫が率直な感想を述べて、美咲もうなずく。

 ポチも同じような感じだろう。


「これはもう売ることにしようか。ただ、モンスターからは手に入っていないことはしっかり言っておくべきだろうな。モンスターからも鉱石が手に入ると思われたら俺らの手におえない」

「そうだね。気を付けるよ」


 鉱石をペイッとトロッコに入れておくことにして、秀星たちは進んでいく。


「それじゃあ、ちょっとだけ休憩するか」


 秀星の提案に反対意見はなかった。

 部屋の隅の方で四人+一匹で集まる。

 ポチは休憩中でも大きいままだ。

 とはいえ、ポチによると、別にどちらでも労力的に差はないらしい。


「まだ目的の階層の半分っていうこともあるけど、結構楽だね」

「秀星の能力が高いのが大きいわね。後ろが安心だし」

「頼りになるです。秀星さん」

「グルル……」


 チーム内の評価が好評で助かる。


「それはよかった。あ、クッキー作ってきたけど食べるか?」


 秀星はクッキーが入った袋を取り出す。

 三人が『おおっ!』といった表情になる。

 ポチも機嫌がよくなった。


「え、作ってきたの?」

「自作だ」


 事実だ。セフィアに作らせたわけではない。

 ……レシピは聞いているのだが、そこはノーカンだ。


「こんなものも持ってきてるのね」

「ダンジョンの中ってずっと同じ風景が続くだろ?こういった嗜好品は必要になるからな」


 秀星も、異世界でダンジョンに挑む時に知ったことだが。


「いただきまーす」


 最初から躊躇する気のない雫が食べる。


「……めっちゃおいしい」

「「え?」」


 優奈と美咲も食べる。

 そして、二人とも表情が変わった。


「おいしい!」

「おいしいです!」

「……レシピ通り作っただけなんだが」


 可能性として考えられるのは……。


(あのレシピ……セフィアが本気でも出したのか?)


 秀星はほぼ確実にそうだと思った。


「すごいわね。私がクッキーを作った時なんて炭になるのに」

「逆にどうやったらそうなるんだ?」


 疑問に思うと同時に、さらなる疑問が浮かんだ秀星。


「そもそも料理をだれに学んだ?」

「お母さんからだよ」


 雫の幼少期の食生活が気になる。


「家で何か作ってたのか?」

「ほとんど外食だったよ」


 そりゃそうだ。


「私も料理の練習はしてるんだけど、なんかすごく負けた気分……」


 自信を無くしている優奈だが、ぶっちゃけ、メイドという名の神器であるセフィアの料理にかなうものなどそうそういない。

 レシピであろうとそれは変わらないのだ。まだ希望はある。


「ポチはどうですか?」

「グルル♪」


 上機嫌のようだ。


「クッキーって来夏たちにも渡してるの?」

「もちろん。だから遠慮しなくていいぞ」

「すでに全部食べちゃったよ!」

「「「え?」」」


 雫が空になった袋を掲げてドヤ顔になる。


「この食いしん坊があああああああ!」


 激怒する優奈。


「少しは自重するですうううううう!」


 雄たけびを上げる美咲。


「グルアアアアアアアアアアアアア!」


 何言っているのかは秀星にはわからなかったが、どんなことを言っているのかは予測できた。

 その予測の内容は『なにしとんのじゃゴルア!』である。


(やっぱり前途多難だな。このメンバー)


 来夏に対する恨みが少したまっていく秀星であった。

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[一言] 登場人物の名前8割酷いな
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