第四百七話
十二時。
まあ、誰が何と言おうと昼である。
そして思いだしてほしいのは、『イベントは一日中続く』ということ。
腹が減っては戦はできぬ。
当然のことである。
だが、初のイベントでそんなご飯のことばかり頭にあっても仕方がない。
ただし、生徒達がいるのは実際の現実世界ではなく、魔法によって作りだされた空間である。
しかも、外部からの設定変更が可能なものだ。
十二時から十三時までの一時間。生徒達はイベント会場の隅に設けられた場所に転移され、そこに存在するフードコートで食事をとることになっている。
なお、モンスター側の生徒達に関しては、教師が弁当を持って行く。と言う予定だ。
……実際、これが最善なのかまだよくわかっていないのだが、あまりにも最新技術を使いすぎて教師たちも頭がパンクしている。
秀星や宗一郎と言った理不尽な生徒もいるので、最初くらいは雑にやっても問題はないだろう。というのが教師たちの総意なのだ。
「……この弁当、結構美味いな」
『ああ。確かにうまい』
「宗一郎。なんだが地獄みたいな声出してるけど、どうしたんだ?」
『誰も来ない』
宗一郎と電話中の秀星。
一時間は何が起ころうと襲ってくることはないので、安心して敵側の生徒も弁当を食べることが出来る。
声の質から何かあったのかと思って聞いたところ、『本当に何もなかった』ようだ。
それは確かに苦痛である。
一応スマホはあるし電波も通っているのだが、だからと言って誰も来ないのならそれに越したことはない。と言うことにはならないのだ。
上級生たちや教師に取って、『沖野宮高校の序列一位と二位は?』と言う疑問に関しては『秀星と宗一郎』という名前しか出てこない。
それくらい強いのだが、実際に戦ってみなければわからないのが魔戦士と言うものだ。
上下関係の構築もそうだが、『世の中にはこれくらい強い奴がいる』というイメージを掴んでいないと、いざという時に油断し、そして最後には負けることになる。
その『負け』だが、それが単なる『敗北だけで済む』ことはあまりない。
そう言うこともあり、『圧倒的な奴』との戦いは、見るだけでもいいので必要なのだ。
ここまでの戦いで秀星は手加減しまくっているので、新入生たちがいまいち強さをわかっていない。
「……誰も来てないのか?」
『ああ。誰も来ていない』
「洞窟って面倒なところにあったっけ?」
『かなり隅の方だな。秀星が最初にいた都市も隅の方にあるんだが……』
「転移が得意な俺に距離ってあんま関係ないんだよね……」
『羨ましい。こっちは誰も来ないんだぞ。まあダンジョンの内部も結構面倒だがな』
「……なんでそんな設定にしたんだろうな」
『そう言う設定にしたらどうなるんだろう。と教師たちが考えただけだ』
要するに、宗一郎はそう考えた教師たちの被害者と言うことである。
「……まあ、これからは洞窟からも出て生徒達にちょっかいだすんだろ?」
『当たりまえだ。ちょっと人との触れ合いがほしくなってきたところだ』
なんだかイベントが始まってからの数時間でいろいろなものをこじらせたような雰囲気の宗一郎。
「……まあ、頑張れ」
『そっちもな』
言ってみて思う。聞いてみて思う。
一体何を頑張るのだろうか。と。




