第四百四話
イベント開始からおよそ三時間が経過した。
時間としては午前十一時。
この頃になると、どのように行動するのかはある程度決まって来る。
一応、モンスターと言う明確な『倒した方が得な存在』がいるので、今のところはそういったモンスターをちまちま倒している。
だが、それぞれで派閥が出来ると、中には『過激派』と言うものが生まれるものだ。
そういった過激派は、明確に『他の生徒を襲い始める』わけだが、別に何のルール違反でもないし、元よりそう言うイベントだ。
新入生たちの中でそういったチームを組んでいる場合が多い。
上級生からすると、『過激派……ねぇ』と思うと同時に秀星のことが頭に思い浮かぶので、なんだかあきらめの境地に達してしまうのである。
秀星の調教は活きているようだ。
「……お、やっと来るようになったな」
秀星は接近してきた生徒達に気が付いた。
ぶっちゃけ暇すぎて魔力を固めて作った球体を十個くらい作って片手でお手玉をしていたところなのだが、とにかく生徒達が来たことを感知したことは確かである。
「しかし、なんだか『挑戦』って雰囲気じゃないなぁ。俺のことを『狩りの相手』くらいにしか思ってない可能性もあるな」
秀星はそうつぶやいた。
何故そんなことが分かるのかというと、言いかえれば『詰めの甘さ』である。
『挑戦』であれば、それ相応に作戦を練って、全員が緊張感をもって向かってくる。
だが、今来ている生徒達の雰囲気にそれは感じられない。
「俺を攻撃するともらえる引換券の枚数しか考えていない可能性があるなぁ。まあ、別にそれはいいか」
ちなみに秀星は、『イベントの都合上、いろいろ考えていることがあるので倒されないでください』と言われている。
誰が相手であろうととりあえず防御や回避はしっかりする予定だ。
「まあ、奏との決闘ではほとんど力を見せてないし、軽い気持ちでかかって来ても別にいいんだけどなぁ……こればかりは経験か」
指をパチンと鳴らして、魔力球を全てはじけさせて消滅させる。
もともとビルの屋上にあったベンチから立ち上がると、ビルから飛び降りた。
屋上のドア付近から何やら驚いたような叫び声が聞こえてくる。
さすがに五十階の屋上から飛び降りるとは思っていなかったのだろうか。
「さてと、まずは鬼ごっこから始めようか。君たち鬼ね」
戦う以前に、自分と軽く『遊ぶこと』が出来るのかどうか。
勝手にそんなことを決めて屋上から地面に着地する秀星。
「お、ビルの下にも生徒達がいるんだな。ま、君らも鬼だよ」
炎の矢が飛んできたので、秀星はチラッと視線を曲げてから転移。
炎の矢は当然秀星には当たらず、近くの建物に当たる。
「さて、まずは視線を向けてから転移するくらいはやってもいいかな?とりあえずそれにすら気が付かないとすれば、文字通り遊び相手にもならないんだよなぁ」
黒い笑みを浮かべてそう言う秀星。
そもそも、秀星は『鑑定魔法』で『代表値』を知ることが出来る。
その場に存在する『平均値』『中央値』『最頻値』のすべてを把握するのだが、この『文字通り相手のステータスを根こそぎ調べる手段』があることで、相手の実力を測り間違えることはない。
さらに言えば、その場に存在している『常識』すら読み取ることが出来るので、『勘違い系最強』などの状態にすらならないのだ。
「ま、君らには捕まらない程度のことをしているのは重々承知してるけどな。さて、精々頑張れ」
視線を向けてから転移して、飛んできた岩を避ける秀星。
「さて、次はどんな縛りを付けるかなぁ……」
黒い笑みを浮かべながらそんなことを呟く秀星。
完全に遊んでいるが、まじめにやった瞬間、この場にいる全員が一瞬で退場する。
それはそれで生徒たちが納得しないだけで終わるので、後で教師が対応するとき面倒なのでしないようにと釘を刺されている。
いずれにせよ、生徒達を舐めているのはよくわかる状態だ。
しかし、『潜在能力』や『可能性』すらも鑑定してしまうゆえに、それを考慮して動く以上、油断するくらいがちょうどいいと言うのが現実である。
「俺が飽きるのが先か、君たちが諦めるのが先か。まあどっちでもいいさ。暇だったから遊んでやるよ」




