第四百二話
新入生の多くは『OES』を持っているものが多い。
それはそれでいいのだが、これはいい換えるなら『現代の鑑定魔法ではその力を把握することができない』と言うことを意味する。
そもそも鑑定魔法というそれは、『神器』に関係する魔力を測るためのもの。
厳密には『OESを鑑定することはできない』というより『OESを鑑定できるように作られていない』のだ。
……ならそれはそれで、『OESを見ることができる新しい鑑定魔法』と言うものを開発すればいい。
そもそも、『神器が持つ最も大きな力』にして『神器使いに最も求められること』は、『変換・再定義力』である。
その次元にかかわるような法則の場合は確かに『新しい定義』が『定着』することはないが、数秒間ごまかす程度なら可能。
そして、神器使いにとってはその数秒で十分なのだ。
さらに、ごまかし続ければいずれ世界の法則がそれを普通と思い始めるので、続けることに意味はある。
OESが神器を超えた概念と言うわけではなく、単純に構造が違うだけだ。
双方の『攻撃』が衝突すれば、規模が大きい方が勝つのに変わりはない。
話がそれたので軌道修正。
現代の鑑定魔法では把握することができないということを言いかえるならば、OESの持ち主は、自分でその力の内容を把握するしかないのである。
メイガスフロントの学校に通う生徒達と全く同じカリキュラムによる教育が丸ごと適用できない理由がそこにある。
もちろん、OESも神器も、『魔力的概念』と言う点で見ればどちらも同列である。
的矢のOES『歯車相関図』は、秀星の神器の障壁を全て潜り抜けて『力』を見ていたが、これは秀星の方が『そういう視点での防御』しかしていないにすぎない。
秀星が『情報的な城壁』をいじれば、的矢も見えなくなるだろう。
また話がそれた。
OESを持つ者が多く集まった沖野宮高校だが、メイガスフロントのように入学時点から『自分の能力のすべて』を把握しているわけではない。
自分で探って、参考になるかもしれない資料を漁って、そうしてやっと『暫定』が出来る程度。
しかし、そんな中でも誰かと組んだ方がいいのは事実。
別に、ソロでやるのがダメと言っているわけではない。スキルの都合上、一人の方がいい場合もある。
もちろん、魔戦士として活動する以上、一人と言うのはなかなか危険だし、それはソロで活動し始めれば思ったより最初の方に気が付くことだ。
そして、実際にチームを組もうとするわけだが、この『誰と組むのか』という判断をするのは難しい。
『最初から軽くチームを作って挑む』ということが『高校生』にはなかなかできない。
『一度作った居場所の絶対性』を闇雲に信じるからである。
部活なら『顧問』という、圧倒的な発言権を持っている『大人』がいるのである程度問題が緩和されるのだが、この意識が抜けないので『メンバーの能力的に実用的なパーティー』を組むというのはなかなか難しいことだ。
『ある程度の成果を出していない集団の強制的な解散・再結成』ということを上の人間が出来ればいいのだが、高校生相手ではそれも難しい。
という、なんとも新しい概念と既存の概念が混在して前提がごちゃごちゃしたものだが、その中でも、『有意義なチームを組んでいる』生徒はいるのだ。
「奏。頼むぞ」
「うん。任せて!」
上月奏と篠原的矢である。
コンビを組んでいるというよりは、パーティーを作ろうとして二人しか集まらなかった。と言ったところだが、二人はコンビを組んでいた。
というより、奏の性格上、『いきなり上級生のチームに入る』というのはなかなか難しい。
的矢は『歯車相関図』で、『歯車と歯車にある接着具合』でそれを察して、それを察知して奏に話しかけてコンビを組んだ。
もちろん、的矢の方にも奏と組む意味はある。
奏が持っているのはいつも通りの杖。
的矢が持っているのは、歯車が至るところに見られる機械式の弓矢だ。
実際に存在する矢を放つこともできるが、魔力で作った矢を放出するタイプである。
これらを兼用できるタイプは珍しくない。
魔力で作った矢はその場で生成するため嵩張らないためである。
今回のようなとにかく時間がかかりそうで、必要本数が分からないイベントでは最適だ。
「えいっ!」
可愛らしい仕草で杖を振って、剣を三本出現させて飛ばす。
その先にいるのは、一体の巨人。
身長は四メートルほどで、右手に棍棒を持っているというなかなか新入生がいるというイベントでは珍しいビジュアルのモンスターだ。
ただし、剣が三本当たっただけでは、ダメージはあってもひるむことはない。
「ふう……!」
的矢は、背中に背負っている筒から矢をとりだすと、弓の『ギア』を上げて、構える。
自分の肩とひじにとりつけている筋力強化の魔法具により、通常よりも硬いそれを普通に構えることが出来るのだ。
巨人がこちらに向かってくるが、それは奏がちょこちょこ炎の剣を出して牽制する。
規模と本数を決めて即座に放てる奏の『前衛力』はなかなか高い。
「それっ!」
奏が炎の大剣を巨人に当ててひるませたと同時に、的矢も矢を放った。
そのまま巨人を貫通して、巨人はそのままポリゴンとなって爆散し、足もとには引換券が落ちる。
「やった!」
元気よく手を上げて『頑張った!』アピールをする奏。
的矢はそれを見て『男でも女でもガッツポーズする権利があるとはいえ、これは単なる子供だな』と思った。
奏は女っぽいルックスをしているが、それに加えて言動と仕草が大変幼い。
(何だろうな。この……なんかよくわからん子守りをしているような感じ)
奏が聞いたらプンプンと全然怖くない怒りを見せ始めるであろうことを考えている的矢。
とはいえ、戦闘になればやることはきっちりやってくれるのでそこに文句はないのだが。
「この調子で頑張ろう」
「はい!頑張ります!」
とても綺麗な目で純粋な笑顔を的矢に向ける奏。
(……なるほど、保護欲とはこういうことか……何を考えてるんだ俺は)
なんだか変な思考になり始めたので自分で軌道を修正する的矢。
「……なんていうか、この目には勝てんな」
「え?なんですか?」
首をコテンとかしげる奏。
ちなみに、これが『素』である。信じられないことだが。
「……何でもない」
そういって歩きだす的矢。
「あ、待ってくださいよ~」
それを追いかける奏。
……これを他の人が見たら何を思うだろうか。
きっとロクなことは考えないだろう。
(俺と奏みたいな、弱点を補えるチームを組んでるやつは他にもいる。さて、どうなることやら)
決定打が薄い奏と、前衛部分がおろそかになる的矢。
だが、お互いにないものが相手に取っては得意分野と言う、セオリー通りになったと考えている。
特別かどうかはともかく、発想としては普通だ。
しかし、普通ゆえに分かりやすく強い。
(そこそこ引換券を稼いでおきたいな。上級生が積極的にモンスターを狩ってる。そりゃいいものを手に入れるためのポイントが手に入るって先生は言ってるけど、思ったより『すごいもの』なのかもしれないな)
そんなことを考えながらも警戒を怠らずに、的矢は進んでいた。
そしてそんな的矢の横で小動物のような雰囲気を出している奏。
……果たして、良いことなのやら悪いことなのやら。それが分かるのはもうちょっと後になるだろう。
言えるのは、変な二つ名が付けられるのは的矢だけだ。多分。




