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第四十話

「それではこれより、『ダンジョン遠征クエスト』のメンバーに依る親睦会を始める。乾杯!」


 ホテルの地下に存在するパーティー会場。

 丸テーブルや長テーブルには様々な料理が並んでいる。

 ただ、子供も少なからず混じっているからなのか、酒はおいていない。

 事前に配られたしおりのようなもの(といってもただのパンフレットだった)を見る限り、一応酒もあるのだが、それは後の時間である。

 おいているのはソフトドリンクだ。


「むほー!どれもこれもおいしそうだね!」

「もう少しおとなしくできないのかお前は……」


 テンションマックスの雫に対して呆れる羽計。

 雫からすれば、大勢の人間がいることそのものが珍しいのだ。

 しかも、パーティーである。


「しかもウエイトレスさんたちもすごくかわいいね。グヘへへ……」


 気色の悪い笑い声を出す雫に対して、ドリンクを片手に動き回っているウエイトレスはビビっていた。


「怖がっているからそのあたりにしておきましょうね。雫さん」

「い、イエスマム」


 ちょっとヤバい感じのオーラ、具体的に言うと『殺意が溢れる』と言えるモノを身に纏うアレシアに危機感を感じたようで、ふざけるのをやめて敬礼する雫。

 バカが収まったところで、秀星は親睦会の様子を見ていた。


(それなりに出来る連中もいるな)


 秀星は、鑑定能力をスキルとして保有していることもあるが、大体の場合は見るだけで数値化されたデータを把握できる。

 そして、アルテマセンスでそれらを一瞬で統合し、計算することで、平均値を算出できるのだ。

 そうしてみた限りの判断では、この遠征に参加するメンバーの平均的な戦闘力は高いといえるものだった。


「評議会の本部にいた時に見かけたやつもいるな」


 一度見れば覚えられるので、評議会にいたかどうかも秀星は判断できる。

 ただ、あくまでも雰囲気的なものを判断するだけなので、ダンジョンと言う空間でどうなるのかはわからないのだが。


「それで、どうするの?」

「自由行動と言うことにしましょう。ただし、呼ぶ時が来たら全員が集合する。できない場合はその理由を言う、と言うことでどうでしょうか」

「オレはそれでいいぜ。お前らは?」


 千春が聞いて、アレシアが提案し、来夏が頷いた。

 そして、秀星たちとしても反対はない。


「ちなみに、雫さん。あなたは私と行動しますからね」

「なんで!?」

「いや、当然でしょ」


 アレシアの宣告で雫は悲鳴を上げて、優奈は真顔で頷く。


「決まっているでしょう。あなたの手綱を握るためですよ」

「そこまで私には信用がないの!?」

「はい」


 即答してしまった。

 秀星としてもいろいろな意味で賛成だったが、これにはもうどう首を突っ込んでも意味が無い。

 秀星も自由行動に移ることにした。


(それにしても……今の時間をどう使うか、と言うことに関しては千差万別だな)


 立食パーティーのような形式で、食べ物も飲み物も各種そろっている。

 何も置かれていない丸テーブルがちらほらあったりするが、構造と、他のテーブルと違うデザインを考えると持参品だろう。

 そういったものを使って、チームのリーダーや参謀が集まっているところもある。

 ほとんどの者が、チームの制服を着ているので、どこのチームが話しあっているのか。と言うことに関しては分かりやすいが、どんなチームがあるのかと言う予習を秀星はしないのでさっぱりである。

 秀星を含めたチーム全員も、『剣の精鋭』の制服を着ている。


(中には、ソロで活動しているやつもいるってことか)


 私服姿というか、オフなのか、戦闘服でなければ制服でもない恰好の魔戦士もいる。

 少々目立っているものの、特に気にしていないものがほとんどだ。

 自分のスタイルと言うものが確立しているからだろう。


「本当の意味で飯を食いに来たって言う人もいるんだな」


 そうつぶやいた時、こちらに向かって歩いてくる足音を秀星は察した。

 そちらを見ると、金髪を逆立て、上半身がノースリーブのジャケットと言う前衛的なファッションをした男がいた。

 172センチの秀星と比べて一回り大きい。来夏よりも身長が高いだろう。

 筋肉の鎧を身にまとっているような体で、かなり鍛えられている。

 同じ格好をした下っ端が二人いるが、そちらは気にしなくても良いだろう。


 男は秀星と三、四メートルくらい間隔を開けて止まった。


「お前が朝森秀星だな」

「ああ。そうだ」

「俺は金山剛毅(かねやまごうき)。お前らのところの来夏が元気にしているかどうか確認しに来たんだが、どこにいるのかわからなくってな……」


 来夏の知り合いだろうか。


「……リーダーの知り合いなのか?」

「もともとは俺らのメンバーだったのさ。で、金髪の嬢ちゃんに会って、なんか嬢ちゃんとやって行くからチームを抜けるって言いだして……」

「ああ。もともとアンタらのチームメンバーだったのか」

「そうだ。で、そういっていた来夏だが、あれでもすごい戦力だからな。簡単に抜けさせてやるわけにはいかねえ。そこで俺は言ったのさ。男なら拳で語れと」

「来夏は女だぞ」

「似たようなもんだろ」


 そう……なのだろうか。

 秀星としてはどう返答すればいいのかわからなかった。


「だが、本気で殴りあうわけにはいかねえからな。衝撃だけで周りがぶっ壊れちまう。で、結果的に腕相撲で決着を付けることになった」

「あ、それを提案したのは俺っす」


 取り巻き二人。

 片方が茶髪で片方が青髪リーゼントで、発言したのは青髪リーゼントだ。


「その提案に、俺と来夏は頷いた」

「なるほど」

「そして俺は瞬殺された」


 秀星は『もうちょっとふんばれよ』と思ったのだが、あえて言わないことにした。


「すごかったな。いくら太い腕をしているからと言っても考えられない腕力だった。絶対に魔法で強化していただろうが、男に二言はねえ。快くグチグチ言いながら追いだしたって訳さ」

「辞書を引け」


 秀星は即答する。


「ハッハッハ!まあ、アイツはオレに似てバカだからな。どうせ振り回されてんだろ」

「ああ。まあ、そうだな」

「思ったより反応が薄いな。女ばっかのチームになって加減を覚えたか?」


 最近の来夏はそうだな……。


「どっちかって言うと……面倒なポジションを押し付けてくるようになったな」

「だろうな。俺もよく分かる。しかも何故か、それを正当化するポジションにいつもたってんだよ。意味わかんねぇ」

「俺もさんざん煮え湯を飲まされた」


 茶髪の取り巻きが苦笑する。

 なるほど……。


「要するに仲がいいんだな」

「「「そういうことだ」」」


 簡潔に言うとそんな感じになる。


「しかし、今度はそっちに女性要素が皆無になったんじゃないか?」

「女性は『華』だとか言う奴がいるけどな。ありゃ『華』っていうより『鬼』だ。居ねえほうが清涼感がある」


 いてもいなくても清涼感を語るのには少々無理があると思った秀星。


「ま、その様子だと、来夏を見なくとも、元気にやってるって言うのはよくわかったぜ。あ、お前らも自己紹介しとけ」

「はいっす。俺は青芝誠也(あおしばせいや)だ。よろしく」

「俺は茶柱矢糸(ちゃばしらやいと)。これからも俺たちの後輩を支えてやってくれ」

「わかった」


 うんうんと頷いた後、剛毅は声色を低くして言う。


「頑張れよ。本当に頑張れよ。アマゾンで生き抜いてきた猛獣みたいなメンタルをしているからな」

「逞しすぎる……」

「オマケにいろいろなものが『視える』からな。その分すげえんだ。俺たちのチームから出ていこうとした時のあの選択は俺らもいろいろ言いながらも賛成はしてやったが、絶対面倒だから気を付けろよ」

「……どっちかって言うと根に持ってないか?お前ら」


 知り合いが昔やらかした時の愚痴を聞いている気分になってきた秀星。


「なーに。喧嘩するほど仲がいいっていうだろ?」

「そうだな」

「だったら、『根に持つほど仲がいい』っていうこともあるのさ」

「……あんたって口で世の中渡れないタイプだな」

「ああ。よく言われる」

「まあでも、良いチームなんだろうな。ついでに言うと、チーム名聞いてないけど」

「あ。言い忘れた。じゃあ改めて、俺達は『獣王(じゅうおう)洞穴(ほらあな)』って言うチームだ。ま、よろしく頼むぜ。秀星」

「わかった」


 そういって握手をする秀星と剛毅。

 すごいレベルで握力を解放してきたので、それ以上の握力でやり返しておいた。


「いだだだだだだだ!ちょ、ギブギブ!」


 パッと放してやる秀星。


「フー。フー。あー痛かった。久しぶりだなこれ」


 来夏よりも握力が強いが、その程度では秀星に及ばない。


「改めて、よろしく」

「ああ。ダンジョンの中では最前線でお互いに戦うだろうぜ。よし、そんじゃあ適当に俺らは食うことにするか。おい、行くぞ」


 剛毅が二人に言うと、二人とも頷いてついていった。


「……来夏の原点か。あのチームがなかったら、剣の精鋭もなかったってことなんだろうな」


 そう考えた後、良いチームだと秀星は思った。

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