第三百九十一話
「朝森秀星。俺と勝負だ!」
「……はい?」
魔法社会になったことで、それまで規制されていた情報の多くが表に出てくるようになった。
ネットを一度見れば、様々な情報がごろごろと転がっている。
もちろん、ネットゆえにその情報は玉石混交だが、もちろん宝もある。
その中でも目立つのは文字通り、『一体誰が最強なのか』ということである。
だが、新しく魔法社会に関わるものは、誰なのかを判断するのはたやすいことだった。
魔法について最大の掲示板はアトムたち最高会議のものが運営している訳だが、そこに表示されている序列一位は、どのページを見ても『朝森秀星』なのである。
もちろん、魔戦士に取ってもっとも重要なのは『どれだけモンスターの素材集めることが出来るか』なので、魔戦士同士の直接対決は思ったより少ないのだが、もとから魔法にかかわっていた富裕層はよくわかっている。
別に序列一位を他の魔戦士にしていたとしても秀星が怒ることはないだろう。
だが、今は激動の時代である。
『一位』というものは、それに耐えられるものでなければならない。
ただし、前述した通り『魔戦士はモンスターと戦う』というものであり、なおかつ秘匿されるべきであったことから『大会』など開かれておらず、結果的に『一位は朝森秀星』という情報は公認ではない。
しかし、どの大型掲示板……新しく魔法社会に関わっていくことにした掲示板はともかく、『元から魔法にかかわっていた者が運営する掲示板』には、全てそのように記載されている。
ならば、一体どれほど強いのか。
これが気にならないものはいないだろう。
沖野宮高校のものに取っては、そんな文字通りの『世界最強』が学校に通っているというのだから、その実力を一目見ようと思っても不思議なことはないだろう。
ということをコンマ一秒で考えた後、秀星は頷いた。
「良いぞ」
秀星としては、挑んでくるのならそれでかまわない。
理由としては『だって暇』である。
魔法にかかわったばかりの学生のレベルなど、傍から見ているだけで十分わかるのだが、世界一位とまでかかれている秀星を相手にするとなれば、何かしら隠し玉があるのだろう。
それすらもわかってしまうという大変楽しくない状態なのだが、それはそれで『その隠し玉をいつ使って来るのか』と言う楽しみもある。
「よしっ。言質はとったぜ。放課後にグラウンドだ。逃げるなよ!」
秀星に指をびしっと向けたあと、一年の男子生徒は二年一組の教室を出ていった。
そしてそれを見る秀星の目は……元気にはしゃいでいる子供を見るような目だった。
言いかえれば、『俺にもあんな頃があったなぁ』という感じである。
異世界で初めて魔法を使った時、彼のようにはしゃいでいたことを思いだしたのである。
「あの、秀星君。本気出しちゃだめだよ?」
「出したことないぞ。ていうか、俺ってそんなに大人げないように見えるか?」
なので、風香の言い分にこけそうになった。
「なんだかとてもうれしそうな表情だったよ?」
「雫もいまいち信用してないのか?……俺にだって、初めて魔法を使った時の感動みたいなものはあったさ。あいつを見てると、なんだかそれを思いだすって言うだけの話だよ」
「そうだな。多分あとでそっとしておいた方がいい時期が訪れそうな、そんな感じがする」
羽計の言い分を正しく解釈すれば、『今は彼に取っての黒歴史』ということだろう。
まあ、黒歴史とはいかずとも若気の至りのようなものだ。
「ただ、さすがに二日目で挑んでくるようなもんじゃないだろ。多分なんかの罰ゲームだろうな。ああ見えて心臓はバクバクだったぞ」
「そうですね。会いたくない人と一緒にこの学校に入ってしまった。と言った雰囲気がありました」
エイミーが頷く。
そう、いくらなんでも早すぎるのだ。
「……まあ、これくらいの面倒事ならかわいいもんだな。いずれにせよ、先輩ってものが、もっといつでも頼れるもんだってことを教えてやるとしますかね」
秀星の視野は広い。
要するにそれがどういうことなのかと言うと、魔法があまり関係しない感情の場合、『全部わかったうえでかかわる』ということだ。
魔法を試してみたいと言う感情と、元から存在し、今も継続するいじめと言う環境。
正直、高校一年生にはそれだけでキャパオーバーである。
頼れる部分を見せるのにはちょうどいい。




