第三十九話
「ホテルに泊まって親睦会を兼ねた立食パーティーか……なんともまあ、友好的であることを好む主催者だな」
剣の精鋭は、秀星、来夏、アレシア、羽計、優奈、美咲、風香、千春、雫の九人。
実のところ、実力のあるパーティーとなると人数が少ない方だ。
有望ゆえに、もっと多くなるのがほとんどらしい。
要するに、専用の車両を用意してくれるのだ。
現在、なんとリムジンに乗っている。
「秀星君はそう言うのは苦手なの?」
隣に座る風香が聞いて来る。
八代家としてつながりが広く、さらに、整った容姿ゆえに顔を出す機会が多い風香は、必要な時があるということが分かっているだけで、特に毛嫌いはしていない。
「苦手だな。お互いの顔を見ておくことが別に悪いことだっていうつもりはないが、お互いの時間を使う以上のメリットがあるようには思えないんだよな」
反対するものではない。
実際問題、それぞれのチームでできることが違うのだ。
希少素材を集めると言う体で呼ばれている以上、戦力的に見ると、1ではなく、3や4と言った戦闘力だろう。
うまく合わせれば、3+3=6ではなく、3×3=9とか、そういった戦闘力になる。
そういった出会いがないわけでもない。
それは認めるが、それをするのなら、リーダーや参謀を集めて報告会でもすればいいだけのこと。
親睦会までして全員を集める必要はない。
「ま、少数精鋭だから、呼ばれやすいっちゃ呼ばれやすいからな。多分これからもあるだろうから、慣れておいた方が良いぜ」
微笑みながらそういう来夏。
秀星としても、たぶんそうなるんだろうなと思った。
その時、リムジンが止まった。
季節的にかなり暑いはずなのだが、きっちりとスーツを着ている男性がドアを開けて、秀星たちは出た。
そこには、すごい高さのホテルが建っていた。
「空港を降りた時から見えてたけど、ここに泊まるんだね!」
雫がテンション高くなったようだ。
高所恐怖症なので高いところには行けないそうだが、高いものを見るのは好きらしい。
「だな。しかしすごいなこれ。何階あるんだ?」
「百二十五階だ」
「秀星。知っていたのか?」
「今数えた」
「すごいわね。アンタ」
来夏が呟き、秀星が即答して、羽計が驚き、優奈が呆れた。
アルテマセンスの影響だ。動かない物を数える程度なら苦労しない。
「お、着いたみたいだな」
その時、別のリムジンから別のチームが出てきた。
出てきたのは四人。一人だけ少女で、後は青年だ。
そして、その内の一人は見たことがあった。
「あ、義兄さん」
雫の義理の兄、茅宮道也がいた。
「雫も来ていたのですね」
「そうだよ!義兄さんがどこかのチームに入っていたなんて初耳だけど」
「評議会に所属する『枠』をチーム内で設けて、それに私が入っていただけですからね」
「なるほど」
うんうんと頷く雫。
二人の関係を向こうも理解したのだろう。会話に入って来た。
黒い髪だが、瞳が赤く染まっている青年だ。
背には黒い剣を吊って、青いコートを着ている。
「道也。そいつがお前の妹なのか?」
「そうですよ」
「……お前って苦労人だな」
「それを言うんですか?この場で」
青年は雫を見て、一瞬で『こいつはいろいろな意味で面倒な奴だな』と思ったようだ。
秀星もいろいろな意味でそれを認めるが、口に出したりはしない。
「自己紹介した方がいいのか?まあ勝手にするけどな。俺は糸瀬竜一。このチーム内で生産面を担当してる」
生産職。
要するに、装備関係や、各種道具を扱っているのだろう。
(……どういうことだ?俺が持っている神器と、こいつらが持っている装備。性能にかなり差があるが、基本コンセプトって言うか……作る上での思考的な過程が同じに見える)
秀星はそう思った。
とはいえ、ここで追及するべきではないだろう。
異世界にもいろいろな人間がいた。地球でも似たようなことを考える人間がいても不思議ではない。
「私は紫雲刹那。このチームでのアイドルよ」
次に自己紹介してきたのは、紫色の髪の少女。
刹那の身長は女であることを考えると低いわけではないが、ほか三人が男で高身長なのでやたらと低く見える。
整った顔立ちに、女性らしいスタイルをしており、インパクトはあるのだが、不自然に近寄りがたいイメージはない。
腰に吊っているのはレイピアだ。
「私は頤核だ。キラキラネームで呼びにくいという人も多いが、私は気に入ってるから好きに呼んで欲しい。このチーム、『ドリーミィ・フロント』のリーダーだ」
最後に自己紹介してきたのは、青い髪をした青年だ。
背中には純銀の長剣を吊っている。
(……あの剣。神器だな)
秀星は見ただけで確信する。
どのような効果なのか。というのは、存在感だけがありすぎて漠然としていて分からないが、星王剣プレシャスとは違った、剣の神器だ。
(神器獲得の試練をクリアした実力。一個持っているだけで明らかにオーバースペックだが……)
秀星は、このアトムという男が、神器を獲得しただけでなく、その条件をクリアしたことに驚いていた。
神器を実際に使用するためには、数十。という数の条件をクリアしている必要がある。
中には先天的なものも含まれるため、使えないものは一生使えない。
そして、それらすべてをクリアしたうえで、秀星とは違い、『正攻法』で使っている。
(……敵対はしない方がいいな)
秀星としても、こういった正攻法で神器を使う奴を相手にしたくはない。
そしてアトムの方も、秀星を見て何か思うところがあったようだ。
お互いに見ただけと言う思考の水面下の探りあいだが、やることは決まった。
「ドリーミィ・フロントか。魔法社会じゃ有名なチームだな。で、オレたちも自己紹介した方がいいか?」
「構わない。最近、そちらは話題に尽きないからね。こちらで調べてるから必要はないよ」
アトムはそう言うと、来夏に向かって右手を出す。
「ダンジョンの中では、お互いに最前線だろう。顔を合わせる機会もあると思う。よろしく」
「そうだな。よろしく」
そういって来夏も握り返す。
流石の来夏も、初対面の他チーム相手に握力を解放することはない。
普通に握手をして終わった。
「それじゃあ、お互いに中で準備もあるだろうし、そろそろ別行動にするとしよう」
「そうだな。ホテル内の設備が気になる」
「竜一。あなたは何時でもそうね……」
「注意しても無駄ですよ。雫、それではまた会いましょう」
そういい残して、ドリーミィ・フロントのメンバーはホテル内に入って行った。
「オレたちも入ろうぜ」
「そうですね」
来夏の提案にアレシアが呟く。
秀星としても反対はなかった。
★
そして……。
「すまねえな。なんか、部屋が隣になっちまって」
「はっはっは!構わないよ」
来夏が気まずそうに、ホテルの最上階近くで隣の部屋になったアトムたちに対して謝っているが、向こうも気にしていないようだ。
「あら?元気そうなお嬢ちゃんがいないようだけど……」
「高所恐怖症だから下に逃げたです」
「ふにゃあ~」
美咲の容赦ない暴露と共に、刹那が吹き出す。
「まあ……いいわ」
「そう言えば、アイドルってどういうことなの?さっきから思ってたけど」
優奈が聞いている。
「文字通りよ。そうね。世間的に知られてる芸能ジャンルは大体問題ないと思ってくれて構わないわ」
「老若男女、構わず懐柔しますからね……」
「意外と恐ろしい女って言うのは身近にいるもんだ。お前も気を付けろよ」
道也は苦い顔をして、竜一は秀星に対して警告してきた。
秀星としては、その警告に対してどうすればいいのかわからないのだが。
「竜一、何か言ったかしら?」
「何か言ったと思ったからそんなこと聞いて来るんだろうが……」
「あとで制裁するから」
「全力で逃げさせてもらおう」
秀星は肩をすくめた後、アトムに言った。
「……いつもこんな感じなのか?」
「違いないね」
「苦労しないか?」
「そちらほどじゃないよ」
アトムは余裕の笑みを崩さずにそういってくる。
その精神力がほしいと秀星は思った。
「それにしても、これらの装備をあなたが作ってるの?」
千春がドリーミィ・フロントの装備を見て、そのあと竜一の方を見る。
竜一は頷いた。
「だな。アトムが使ってる剣は違うが、それ以外は俺が作ったもんだぜ」
「すごいわね……」
研究者である千春の目から見ても、いいと思うものだ。
秀星も見た瞬間からそう思っていた。
「なんか、すごいメンバーだなぁ」
「来夏。私たちのリーダーであるあなたがそれを言うのですか?」
「そうだな。いろいろと手遅れなのはお互い様だ」
来夏が呟くと、アレシアと羽計が苦笑する。
(……大丈夫……なんだよな)
セフィアがいれば『無理』というであろうことを、秀星はこの時考えていた。
というか、窓の外からこちらを見ているセフィアの目線が、そういっていた。