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第三十八話

「合同探索?」

「おう、最近、FTRが音沙汰ねえからな。評議会があまり機能してなくて、希少な素材が不足してるのもあって、まとまった量のアイテムを手に入れるために計画されたもんみたいだぜ」


 評議会の九重市支部跡に来夏が何かの紙を持ってきたと思ったら、合同で行われるダンジョン探索のものだった。

 評議会、それもマスターランクに近くなると、倒せるモンスターの質も数も尋常ではない。

 だが、マスターランクチームは今現在存在しない。少なくとも味方ではない。

 評議会に所属していなかった魔戦士の中でもマスターランクに匹敵する実力を持っているものはいるのだが、評議会に所属していなかったゆえに、環境に限界があって中途半端になっているのが現状だ。

 だが、実力があるのは事実。

 そう言うわけで、合同探索と言う形で、多くのチームに依頼が来ることになったのだ。

 人間、値段が高いだけならまだ払ってくるのだが、さすがに無いものは買えない。

 その在庫のためと言ったところだろう。


「で、俺達が挑むダンジョンってどこにあるんだ?」

「結界で隠してる島の一つにある」


 要するに移動手段は飛行機か船。もしくは海面ダッシュである。


「ふむふむ、要するに、モンスターを倒しまくればいいんだね!」

「素材の不足か……評議会にいたころもその手の依頼は多くあったからな」


 溌剌とした様子で雫が頷き、羽計が思いだすように呟く。

 プラチナランクのチームだが、そうである故にいろいろあったようだ。


「私は一応研究仲間にコネがあるけど、素材に関しては手に入りにくいって聞いたわ」

「お父さんも言ってた。研究施設にまわす素材買い取りの予算が組めないって」


 研究者である千春と、名家出身である風香も、ある程度の事情は理解している。


「いろいろ面倒ね。ていうか、まだそこまで時間が立っている訳じゃないのに、もう在庫不足になってるの?」

「確かに早いです」

「ふにゃあ~」


 優奈は首をかしげて、美咲は同意し、ポチは……なんだろうか。


「まあ、評議会は『余裕がある時にしか出来ない努力』をしなかったからな。行き当たりばったりの部分も多かったし」

「組織の強さで何とか乗り切っていた感じか」

「まあそれはそれとして、お前らは反対意見はあるか?」


 全員が首を横に振った。


「なら、行くぞ!」


 来夏の声に拠って、剣の精鋭の合同遠征参加が決まった。


 ★


「うわー!高いですー!」


 始めて飛行機に乗ったであろう美咲が窓を見てはしゃいでいる。

 その膝の上でポチは寝ている。別にすることが無いので暇なのであろう。普段からそんな風に見えなくもないが。


「普段は車で移動ですから、こういうのもたまには新鮮でいいですね」

「だな。オレも飛行機に乗るのなんて三年ぶりだぜ」


 アレシアは微笑んでおり、来夏はあくびをしている。

 慣れている感じはするが、おそらく、間違いではないだろう。


「飛行機って言っても、専用の便があるなんて思ってなかったわ」

「そりゃそうよ。こんな物々しい武器や防具を持って行く必要があるんだから、もし分けられてなかったら大変よ」


 優奈のぼやきに千春が返答するが、確かにその通りだ。

 当事者からすれば別に珍しいことではない。

 魔装具は大切なので、誰だって、郵便で届けたりはしない。

 可能であれば、飛行機に乗っている時でも所有する。

 いいのか悪いのかは秀星にも判断不可能だが、そこは機長の判断である。

 まあそれはそれとして、である。


「雫ちゃん。大丈夫?」

「大きな鉄の塊が空を飛んでいることに納得できずに震えているおじいちゃんみたいになってるぞ」


 風香と秀星は雫を見る。

 雫は、座席にべったりと背中を付けて、ひじ掛けをぎゅっと掴んでいた。

 笑顔になろうとしているが、かなり頬が引きつっている。

 いつもの元気さが全くない。

 座っている席も、どちらかと言うと中央寄りで、窓の外の景色が視界に入らない場所だ。


「私ね……」

「うん」

「なんだ?」

「……高所恐怖症なんだ」


 剣の精鋭のメンバーは『むしろお前って普段から高いところにいそうだけどな』みたいなことを思ったのだが、そう言うものかと思うことにした。

 バカと煙は何とやら、と言うことなのだが、雫の場合は違うらしい。


「あ、雫、フライトは八時間な」

「え……」


 来夏の説明で顔が蒼くなり、生きているのか死んでいるのかそろそろわからなくなってきた。

 秀星の知り合いにも高所恐怖症はいる。

 本当に高いところはダメだからな。あの人達。

 優奈や美咲といった年少組がクスリと笑う。


「何?私が高所恐怖症なのがそこまでおかしいの?」

「だって普段から怖いもの知らずみたいな雰囲気だもん。そりゃこんな弱点があるなんて思わないわよ」

「です。むしろいつも高いところにいると思っていたですよ」

「無理無理無理無理無理。私、高いところは本当に苦手だから」


 本気で首を振る雫。


「じゃあなんで飛行機に乗ることに賛成したんだ? 一応船も出てるのに」


 一応そっちもある。

 船の方が大量に人を運べるし、物資の量もすごい。

 今回は目的が探索なので、発生する利益もかなりのものだ。

 結果的に、そういった船とかも出してくれている。


「……大丈夫になっていると思ったからだよ!」


 剣の精鋭にかかわらず、『それって確実に本人だけが勘違いしているやつだ』と思った。

 実質その通りだ。

 高所恐怖症の治療方法は秀星も知らないが、まあ、いじるのが楽なのでそれはそれで問題ない。


「まあいいや。オレは寝るから着いたら言ってくれ」


 来夏はそういって目を閉じる。

 数秒で寝息が聞こえてきた。


「……早くね?」

「来夏は寝ることにも全力ですからね」


 アレシアが補足してくれたが、秀星はぶっちゃけ意味が分からない。

 まあ要するに、来夏と言うのはそういう人間なのだろう。間違いない。


「なんていうか……いろいろな意味で前途多難じゃね?」


 秀星は何かを統括しようと、そうつぶやいた。

 剣の精鋭のメンバーとしては、『そりゃいつもの話だ』と言う雰囲気が流れていた。

 いいのだろうか。それで。

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