第三百七十七話
さて、世界樹がすべて集まってしまった。
とはいえ、そもそもの話だが……『神獣の親なんて本当に出るのか?』と言って来るものは多い。
秀星としては『知らん』である。
本当に知らないのだ。
神獣の親が出てくるかどうかは完全に運である。
世界樹がすべてそろってない時に出て来ることもあるのだ。
そう考えれば、確かに楽観的な評価をしてもいいだろう。
いずれにせよ、皆暇じゃないのだ。
本当に出て来るのかどうかが分からないものをいちいち考えてなどいられない。
出て来る確率が高いのなら対応はするが、低いのに考えていても仕方がないからだ。
「……乗り気じゃないんだよなぁ。根本的に見て、俺が一人で解決できるっていうのがだめだな」
「まっ、それなら人は動かねえよ。ただでさえ面倒なのに、んなこと一々構ってられねえもんな」
魔法学校があるメイガス・フロントの中で、秀星が一時的に入ったジュピター・スクール。
その付近にあるダンジョンで、イライラをモンスター相手に八つ当たりしながら、秀星は基樹と話している。
「それじゃ困るんだけどなぁ仕方がないのは俺もわかってんだけどね」
「ただ、『本当にやばい部分』って何だ?時々アトムに電話するけど、答えてくれないんだが」
「アトムは確信出来ること以外そんなに言わないからな……」
秀星うーんと頭をひねってから答える。
「まず神獣の親が出てきたとしても、俺一人で倒すことはできるよ。でも、その戦闘を隠しきる技術を誰も持っていない」
「……あー。そっか。基本的に魔法社会の存在って秘匿されてるもんな」
「大体、全人口の二割くらいが魔法にかかわってる。が、これは秘匿するために人と最新技術を使っているからだ」
「金かかるだろうな……」
「アトムはこの『秘匿工作費』に一番金がかかるって言ってたから実際そうだろうな。で、その苦労が水の泡になるわけだ」
基樹は溜息を吐いた。
「……いやだろうな」
「だろうな。で、このあたりの何が問題なのかって言うと、『魔法社会はすべての富裕層がかかわっているわけではない』ってことだ」
「……そうだっけ?」
「一般人の中では二割、富裕層の中でも四割くらい。それが魔法社会に関わっている人間の数だ。十四億人がかかわっていることになるな」
「それが七十億人になるわけか」
「あ、でも、全ての国の政財界のトップは知ってるぞ。流石にそこは知っておかないと制御できないからな」
「ふむ」
「だが、神獣の親が相手の場合、どれだけ戦闘範囲を抑えても、『最低でも地球の成層圏全て』になる。隠しきれるわけないんだよ。神獣の親は、俺たちが使っている隠蔽魔法を全て根こそぎ砕きながら移動し、戦闘するわけだからな」
それを聞いて、基樹は溜息を吐いた。
「……それでどうにもならなくなったら秀星のせいにするんだろうな」
「だろうな。ただ、神獣と戦った後って俺もかなり疲弊しているし、ストレスに対して耐性が薄くなってるから、何をしでかすかわからないんだよね……」
秀星は聖人君子ではない。
そして大人でもない。
それをわかってほしいのだ。
「しっかし、面倒なもんだな」
「富裕層が持ってる武力が怖くないのが悪い」
秀星はバッサリ切り捨てる。
怖くもないし不安にもならない富裕層など、どうでもいいことだ。
もちろん、運がいい存在だとは思っている。
この世のほとんどは偶然だ。
どれほど必然だと思ったとしても、その必然は偶然によって出来ている。
彼らは勝者だが、一回一回の戦いの勝率は、実際には百分の一よりも下だったかもしれない。
そんな中で戦って来て、時に失敗しながらも勝ち続けてきたのだ。
確かに運は認める。
だが、残念ながら怖くはない。
「脅すのにおもちゃを持ってくるような奴らだもんな」
基樹もそこは賛成するようだ。
「まっ、その話はいいや、とにかく、神獣の親が出てきた場合、全部暴露される可能性があるってことだよ」
「なるほどな……ところでお前さ、最初は『世界樹を狙う存在』がどうのと言ってたのに、最近は神獣の親のことしか話さねえけど、何か理由があるのか?」
「……わかっちゃう?話すの嫌なんだけど」
「話してみろ。大体分かるが」
「言ってみて」
「確率は神獣の親が出てくるより低いが、種族的に格上が出て来る可能性もあるんだろ?」
「ご名答」
秀星は溜息を吐きながら頷くのだった。




