第三百七十話
良い笑顔を浮かべる秀星。
実際、いい話相手を発見したと考えているのだ。
勝手にライバル認定してもいいくらいである。
「さてと……次は――」
「秀星様」
「どうした?」
セフィアが秀星の言葉を遮った。
言うほど珍しいことではないが、それは秀星に取ってもどうでもいいことを言っている時限定であり、こうして秀星の方からいろいろ話したいと考えている状態でセフィアが遮って来るのは珍しい。
「こちらをご覧ください」
セフィアが手でやや大きいタブレットを持っている。
そこには、黒い甲冑で身を包んだ魔戦士たちがいる。
『我々は、アメリカの魔戦士チーム『ブラックプラネット』だ。これより、世界樹を襲うモンスターの討伐に向かう』
そう話しているのは、三十台半ばの男性だ。
『今回の敵は、どうやら亀形のモンスターのようだ。そんなもの、我々の剣の前には無力!掃討し、世界樹を手に入れる!これ以上、朝森秀星に良い顔をさせてたまるか!』
最後に本音が入ったな。
『さて、待ちくたびれているものもいるだろう。そろそろ出発時間も迫っている。行くぞ!』
カメラの始点が変わって、世界樹が映される。
黄色の世界樹だ。
浮遊島という、世界樹専用に作った島にいないため、確かに大きさはそうでもない。
ただし、そこは世界樹。圧倒的な生産量を誇る。
すでにいろいろ実っているのが目に見えて分かった。
そして、その手前。
金色の甲羅を持つ巨大な亀がいる。
「……あまり音が聞こえませんね」
「視点の高さからして、隠蔽能力を持つ召喚獣にカメラを持たせている」
ハルヴェインが呟いて、それに対して影葉が即答した。
この部屋にいる全員が分かっているだろうが、声に出して確認することは悪いことではないので誰も責めない。
「……この亀、甲長百メートルは超えるな」
秀星はそうつぶやいて、誰も反論しなかった。
圧倒的なスケールを誇り、その甲羅の大きさもケタ違いだ。
「秀星様は、正攻法としてはどうしますか?」
「……そもそもコイツ神獣だろ。とりあえず地上にいない方がいい」
「その理由は?」
「神獣なら息をするように転移魔法を使える。彼らの上空に転移して押しつぶすだけで、亀の勝ちだ。それと、自分に対して悪意のある存在に対しても鈍いけど、多分あの魔戦士たち、最初は様子見から始めるだろ。当然効かないし、付与が全然かけられてない攻撃なんて通用しない。しかも、カケラのような傷すらも即座に修復される。そうなれば、あの亀だって黙っていないさ」
椅子に座り直した。
「とりあえず空中戦。これが基本で、後は即座に逃げるための準備をし続けることだ。まだ戦闘が始まってないけど、どっちが勝つのかは分かるよ。それに、さっき言った押しつぶす以外にも、いろいろあるだろうし」
タブレットを見ると、甲冑を身に纏った騎士たちがそれぞれ魔法を使って攻撃している。
全て甲羅に当たって何事もなかったかのようになっているが、それでも攻撃は継続中だ。
中にはそれ相応に強い魔法も含まれているが、亀の甲羅は全く傷ついていない。
「全然効いてない」
「カケラほどの傷であってもすぐに修復するとのことですが……そもそもカケラほどの傷すら負っていませんね」
しかも、まだ亀は彼らを敵だと思っていないようだ。彼らの方を見る様子はない。
人間で言えば、蚊の鳴く音が聞こえてちょっとウザいと思う程度だろう。
明らかにこれらの攻撃は、ストレスを与えることに意味がある場合を除いて悪手だ。
「しかし、いずれにせよもうちょっと距離をとっておいた方がいいな。気休めにもならんぞ」
「どういうこと?」
「あの亀。音速を超える速度で動ける」
「……え?」
ハルヴェインが驚いた。
「あの距離だと、逃げることもできんよ。まだ魔戦士たちの攻撃タイミングだが……」
「ただ気になるのは、彼らの中にも神器を持っているものがいるはず」
「神器か……最高神の神器ならともかく、上位神や下位神の神器なら、単に使っても通用しない。神器ってものが、何でできているのかすら分からないやつには、なおさらだろうな」
格の差と次元が違う。
ただそれだけのことだ。
認めるかどうかは別として。
「……?今、一瞬だけ亀の目が光ったような……」
「ストレスがたまりすぎたか」
次の瞬間、今までいた場所に亀がいなくなって、それよりも手前に巨大な影が出来た。
「「あっ」」
先ほどの秀星の説明を思いだした影葉とハルヴェイン。
「さて、行くか」
「助けるの?あとで横取りって言われると思うけど」
「助けなかったらそれはそれで責めてくるよこいつらは。喉元過ぎればなんとやらだ。まあ文句言って来ても返り討ちにすればいいわけだけど……」
秀星は溜息を吐いた後にいった。
「個人的に、『横取りした』って言われるのと、『助けなかった』って言われるのでは、後者の方が嫌って言うだけの話だ」
そう言うと、秀星は転移していった。




