第三百六十九話
影葉、ハルヴェイン、アルテの三人が協力する。と言う話だが、神器を持っているのか、と言う話になる。
魔力では神獣に傷を与えることができない。
ある意味、『神力』とも呼べる『プライオリウム』を扱えなければ、神獣の前では無力である。
「安心しろ。神器は持っていないが、『プライオリウム』を扱うことはできる」
「ほう、そこまで研究が進んでいるってことか」
「ただし、魔法具として、ある程度再現できる。と言った程度」
「魔法具として……か」
一瞬不安がよぎったが、三人の実力と人選を見て、秀星は彼らの主人の能力をある程度推測できる。
そして秀星は頷いた。
「持ってくるなら神器の方がよかったけどな……まあ、問題なさそうだし、いいとしよう」
いずれにせよ。壊れる時は神器も魔法具も同じだ。
神獣が相手なら、神器だってどうなるかわからないのだ。
「しっかし、魔法具でプライオリウムをねぇ……アンタらの主人は神でも超えるつもりなのか?」
秀星はあえて、『神になりたいのか』ではなく、『神を超えたいのか』と聞いた。
プライオリウムを扱えるとなったならば、今『神』と名乗っているものがどういう存在なのか、ある程度想定できているはず。
神器を使っていると、それまで信じてきたものがなんだか大切ではなくなるような感覚に陥るのだが、プライオリウムそのものを扱えるようになると、今度は『神』そのものに疑問が生じてくる。
そこまで推察したうえで、秀星は『神を超える』と言葉を選んだ。
「……」
だが、その問いに対して、三人は何も言わなくなる。
「なんだ。俺が『神になりたいのか』と聞くとでも思ったのか?」
「どっちかって言うとそっちの方」
秀星は溜息を吐いた。
「……アンタら、多分その主人のこと何もわかってないよ。とはいえ……思うほど研究が進んでないみたいだな。今のところ、一番大きな研究が進んでないだろ」
彼らが身につけている物。
服にしても武器にしても、そのすべては魔法具だろう。
それはそれでなかなかすさまじいことだが、なんだかあと一歩及ばない感じだ。
「……その通りです」
ハルヴェインが呟く。
そして、秀星は笑い転げそうになるのを必死に我慢しながら、とても良い笑顔を作った。
「なーるほどな」
秀星はパチンと指を鳴らすと、セフィアが封筒と白紙を手渡してきた。
両方を受け取って、『念筆』スキルを使って一瞬で手紙を書くと、封筒の中にいれる。
そして、魔法を使って封をして、封筒には『新道英司様へ 朝森秀星より』と書いた。
一応、『親展』もかいておいた。
そのまま封筒を指でピンッと弾いて、影葉に渡す。
「それをあんたのところの主人に渡してみな。研究が一気に進むと思うぞ」
「……そこまで革新的なことがかかれているのですか?」
「さあ?どれほど革新的なのかはあんたのところの主人による。どれくらい視野が狭かったか認識して手紙を破り捨てかねないが、まあ渡してくれ」
秀星はとても良い笑顔である。
三人は何を言おうかと思ったものだが、とりあえず、手紙は渡すことにした。
ただ……スライムのアルテだけは、少し楽しそうにしている。
それを見ただけで、秀星は満足だった。




