第三百六十一話
秀星の『世界樹商品販売店』に多額の資金を投与する。
秀星は金をあまり使わないので、蓄積される。
魔法分野の財務省が笑顔で課税。まあもともと店を開くというものはそういうものだ。
実質、販売店に入ったお金が日本政府に流れるだけのように見える。
この動きを見て誰が嫌な顔をするのかというと、当然、世界の富裕層の者たちである。
魔法社会は表社会と違って現金取引を原則とする場合が多く、紙幣の数が多くなる。
メイドたちは鑑定魔法を使って一発で見分けることができるわけだが、値段によっては個室を使って対応しなくてはならないときもあるくらいだ。
そんな大量の資金が、一気に秀星のところに流れ込む。
ここまでは、まあ百歩譲って断腸の思いだがまだ納得しなければならない。秀星が強いので。
だが、その金がなんのリスクもなく、政府に流れ込むとなると、文句を言いたくなるのが金持ちと言うものだ。
金持ちには傲慢なものが多いが、傲慢だからこそ妥協せず金を集めることが出来る。
欲望というものは原動力そのものであり、敵に回すと恐ろしいものだ。
そんな金持ちの矛先が、政府に向けられるとどうなるか。
答えは決まっている。
「催促が来なくなったな。来ても少額」
「富裕層のイライラは馬鹿にできませんからね」
金額が限定されるようになったようだ。
原因の一つとして上げるならば、秀星は自分の店の客ならアフターサービスまでしっかりする。
商品を一種類ごとに、秀星本人が直々に鑑定して、どんな要素があるのかをネットに公開しているくらいであり、『ルールの範囲での顧客満足度』に関して言えば高水準と言っていい。
商品購入後から一定期間に至る護衛(購入者本人は知らないが)もその一つ。
だが、徴収に来た日本政府の役員など知ったことではない。
そして、一度ちょっかいに成功すると、日本政府の役人が守られていないことを富裕層は知る。
……もちろん、この時点でなんとなく秀星の性格を把握したものもいるが、それはおいておこう。
あまりやりすぎると秀星のほうが動く可能性があるのである程度のラインを超えないようにするが、蚊の音がずっとしているとイライラするように、人間というのは地味なストレスで結構ダメージが入る。
大規模な脅迫をするより、小さいことをしている方が効果的だ。
正攻法で行かずとも(何が正攻法なのかいまいちよくわからないが)裏の道はいろいろある。
もともと、甘い汁を吸うことしか考えていなかった役人は、流石に耐えられなかった。
その結果が、徴収額の少数設定である。
「俺が絡むときは世界のことも一緒に考える必要があるってわけか。面倒だけど頑張れって感じだな」
「それを秀星様が言いますか……」
あきれるセフィアと、いい笑顔の秀星。
いつもどおりの光景である。




