第三百六十話
結局のところ、秀星が持っていた資金は税金分持って行かれた。
もちろん、本来の税率ではなく、魔戦士には魔戦士の税と言うものがあり、実は未成年は免除されることになっているのだが、秀星の場合は特例として集めることになった。
と言うより、『使われない』のならまだしも、『使う気がない』金など、一部のものからすればかなり不都合なものである。
ちなみに、あくまでも『特例により税金徴収の対象になった』と言うだけの話であり、手続きそのものは通常の通りである。
要するに、特典だの、そう言った部分はすべて存在しないということだ。
それでいいと最初に言ったのは秀星であり、その金に手を付けることができるものから見れば『良いカモ』のように見えなくもないが、実際のところ、彼らが提供できる資源・サービスで、秀星が自分から欲しいと思うものは基本的に存在しない。
神器と言うものはあまりにもその力を理解しすぎると、巨大な組織を運営することは可能だが、それと同時に、壊すことも楽だ。
秀星は貴族と言うものに何の価値も感じないが、これはそもそも『国』というものがいつでも壊せるくらい脆いものであり、その『国』が権利を保障するのが貴族だからである。
同じ理由で、国によってその価値が保障されている『金』にも執着はない。
まあもちろん、そんな心境まで税理士の人に言うわけではないが、それなりの金額になっただろう。
秀星は全然把握していないが、セフィアは秀星の財産状況をすべて把握している。
それをもとにすれば、一体どれくらいの金額が入ってきているのかは一目瞭然であり、計算も楽だ。
別にそのまま払ったところで何も問題はないので、税理士の人達との腹の探りあいもなく手続きはスムーズだ。
最高会議からすればぼろ儲けだろう。
とはいえ、秀星の内心を何となく把握しているアトムからすれば、内心は少し不安だ。
秀星に言われた『頭の中のリミッターが飛べば、アトムも俺と同じことが出来る』という文。
秀星には秀星なりの理由があって、下位神の神器を使用しているが、アトムが所持するのは最高神の神器だ。
当然、根本的な性能はアトムが持っている神器の方が上である。
さらに、秀星が言う頭の中のリミッターが飛ぶというのが、『思考を止めない』と言うことだと理解してしまったのが胃が痛くなる原因だろう。
少しだけ、怖くなったのだ。
だからこそ、その力を振るい続ける秀星に興味を持つのだろうと納得したが、あまり密接な関係でいたいかどうかとなると、この段階まで来れば少々意見が変わって来る。
もう後の祭りだが。
結果的に、金は大きく最高会議に入ったので、それはそれで周りからいろいろ言われるようになったが、こう言った話は一度聞いてしまうとあとは食い尽くされるだけなので、完全無視。
ただ誰にもわからないのは、この状況の終着点。
それを知っているであろう秀星はあえて沈黙し、なかなか先の見えない空気だけが、この世界を覆っている。




