第三百五十九話
秀星が浮遊島でふらふらしている間にも、地上では取引が行われていく。
ただ、何をどう考えても問題があった。
金と言うものや富と言うものを大量に持っている人はいるもので、今では秀星もその一人だ。
世界樹の木の実たちは、基本的に高額である。
ランクが低いものであればそれ相応に低い値段だが、それでも何度も買えるかとなるとそれは別問題だ。
富裕層のものに関していっても、金を出せばいくらでも買えるのがずっとそうだったので、数量制限をさせられてイライラが募る。
まあそれはいい。どう折り合いをつけようと秀星は何も言わない。
のだが、金が集まる秀星の方が大量消費を行うタイプではないというのが問題である。
誰かの消費は誰かの利益であり、それが連鎖することで経済は回る。
そのため、誰かが貯めこみすぎると経済が回らない。というのは多くの人間が理解できることだが、まさに秀星が今それを追及されるくらいになっているのだが。
しかも、富裕層の意識が世界樹の実に集中することで、それまで自分たちが使っていたサービスなどに目を向けにくくなるということもあり、それまでまわしていた金が回りにくくなる。
結果として……。
「……使わないのなら税金として回収するのが最善手だ。と言って来るものが多くなったよ」
「でしょうね」
秀星とアトムは喫茶店で会って話していた。
「まあ、言ってることは事実だろうな……ただアレだな。なんで他の富裕層には言わないのに俺にはいうんだろ」
「富裕層の人達は沸点がバラバラだからね。その点、君の場合はかなり高いから、とりあえず言っておこうと思ったんじゃないかな?」
あらかじめ言っておけば、何か問題が起こった時に『ほら言った通りだろ』といえる。
要するに、それを材料にして責めようとしているということだろうか。
「ふーん……でもなぁ、結局のところ、そんなに使わないんだよね」
神器十個。
しかも所有者が真理に近いとなれば、他の様々なものが必要なくなる。
結局、金がほとんど使用されないのだ。
「周りから何か言われる前に、税金として持って行ってもらっちゃおうか。でもいいのか?半分持って行くとしてもすごい金額だぞ」
「株の配当じゃないんだからそんなに持って行くわけないでしょ……そんな前例を作ったらいろいろなところがぶっ壊れるって」
「まあ、いずれにしてもすごい金額なことに変わりはないけどな。ただ、貰ったら貰ったで何か言われるんじゃないか?」
「何も言われない日があるとでも?」
「あ、それはすみません」
最高会議という組織の関係上、何かしら追及されていることは間違いないのだ。
RPGとは違って、敵を叩き潰せば終わりと言うわけではないのである。
「まあでもあれだね。これからも結構この世界は荒れると思うけど、君は何事もなく生き残るんだろうなぁ」
「地下室使えるようにしておこうか?」
「……一応予約しておこう」
保険を作っておくことにした様子のアトム。
まあ何と言うかあれだが、彼くらいになると保身もしっかり考えるようになるということらしい。
まだまだ社会と言うものを知らない秀星とは大違いである。




