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第三百五十八話

「天使って意外とフットワークが軽いんだな……」


 秀星は自宅に帰ってそんなことを呟いた。

 あの唐辛子畑には驚いたが、町が出来たばかりだからと言うこともあって、外観はできているが薄い気がした。

 そのため、とりあえず天使族の責任者に顔を見せて帰ろうと思っていたら、もういなかったのである。


「フットワークが軽いのは秀星様も同じでは?」

「まあ俺は転移魔法があるからそうなんだけど、天使族の責任者とかもそんな感じだとは思ってなかったからな。翼があるってそういうことなのかなって思ったよ」


 城塞都市の中身ではあるが、なんだか唐辛子畑に力をめちゃくちゃ入れているのか。責任者の建物もそう大きいものではなかった。

 富を独占しようとしない性格であると考えればいいのだが、『普段いないから物置程度で十分』と考えている可能性もあるので、世の中と言うのは分からない。


「それはそれとして、初心な恋もありましたね」

「あったな。まあ、それが実るのはまだちょっと先だろうなぁ。天使族と人間では寿命が違うし、『ちょっと』の時間も人間と比べれば長いだろうし、まだまだ先か……しかし、あれはイジメたら面白いだろうなぁ」


 『視野が狭いタイプの天才』であり、なんだか奥手で、頑固者で、そして初心。

 これはもうイジメるのが大好きな人間にとっては単なる遊び相手である。


「さて、これで世界樹は四本か」

「このままだとコンプリートしてしまいそうですね」

「たぶんそうなるだろうなぁ」

「秀星様。世界樹すべての主人になったころに、何が起こるのかはご存じですよね」

「知ってるよ。それが原因で、全ての世界樹の主人であり続けたものはいないって聞くしな」


 秀星は記憶の中から知識を引っ張りだしながらそんなことを考える。

 いずれにせよ、その世界にあるすべての世界樹を従えるというのはなかなか認められないものなのだ。

 残念な話だが、認めてもらえないのならこっちは力ずくでどうにかするしかないのである。


「その時に備えておく必要がありますね」

「だな。この備えが重要なんだよなぁ、世界樹が四本も手に入ったし、そろそろやっておくか」


 秀星はあくびをしながらそんなことを言った。

 そして、ベッドにゴロッと寝っ転がる。


「……準備をするのでは?」

「今日はできない日だよ。明日にならないと、条件にあったやつが来ない」

「……そう言えばそうでしたね。夕食を用意しました」

「……しました?」

「はい、しました」


 もそもそと体を起こす秀星。

 なんだかすごくダラッとしているが、その目には、若干憂鬱な雰囲気があった。

 どうやら、世界樹のすべてを主人にすることで起こるソレは、秀星としても厄介なもののようである。

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