第三百五十四話
予想はしていて、ジャンルは間違っていなくても、その規模が頭おかしいということは世の中溢れている。
それはわかるのだが、そもそも秀星はあることを失念していた。
妖精がどのように増えるのか。ということである。
妖精や精霊は確かに『文明種』であり、人族と同じくくりで定義される。
だが、哺乳類というわけではない。
竜人族だって子供を生むときは、卵生ではなく赤ん坊を産む。
ただし、妖精はその限りではない。
とても優れた魔力の質がある場所に妖精が現れることで、共鳴するように増えていくのだ。
しかもなんか……ふわ〜っと現れたり、ポンッっと現れたり、結構バラバラである。
演出過多なやつは火山の噴火に合わせて登場したりするが、シュールなだけだろう。
『あー!人間がいるーー!』『女の人綺麗!』『男の人はすごく強そう!』『何しに来たんだろうね?』『わかんなーい』『僕たちと遊びに来たのかな?』『あそぼーあそぼー!』
……こんな感じである。
ちなみに、大量にいる。
そして、ほとんどの妖精が生まれたばかりなのか、至るところで同じような会話が発生している。
同じような会話が同時に多発しているということがどういうことなのか。
そもそも会話の内容がこんな感じだったらどうなるのか。
答えは一つだ。
『ねえねえお兄ちゃんお姉ちゃん。何して遊ぶの〜〜』
これが『×1500』といったところか。非常にうるさい。
(正直、奥にいる精霊を見ておきたいんだがな……コイツラに用がないんだけど……)
あまりにも期待した目を向けてくる妖精たち。
人間の赤ん坊よりも小さな体で飛び回っており、生まれたばかりということもあるが、その目は純粋である。
「セフィア。端末を数十体出してもらおっか」
「畏まりました」
セフィアが指をパチンと鳴らす。
すると、秀星たちの後方に、メイドたちが出現した。
こちらもゆるふわ系というか、なんだか頭が悪そうな外見のものばかりである。
身長が低いものがやや多いが、秀星の趣味の影響で全員巨乳である。
『わー!人が増えたー!』×1500
秀星は何を言えばいいのかわからなくなった。
とにかく!
「セフィア。俺たちは奥まで行くぞ」
「畏まりました」
万能メイドであるセフィアに『面倒』という思考は存在しない。
だが、秀星からの命令がある場合、それを優先する必要があるので邪魔と思うことはある。
その色が顔に若干出ていた。
メイドたちに妖精の相手を任せて、秀星とセフィアは奥に進む。
小さな小屋を発見。
ドアを三回ノックした。
なかから『今から出ますよ〜』と声が聞こえた。
そしてドアを開けたのは、緑色の髪を伸ばした微笑んでいる女性だった。
妖精から精霊へと格が上がったためか、身長は人間と変わらない。
そして……なぜか着ているものが白のジャージである。あとびっくりするほど胸がない。
「始めまして、ですね。ですがあなたのことは知っていますよ。朝森秀星さん」
「そりゃ何より、まあ妖精や精霊は、エルフよりも緑の世界樹との適性が高いからそうだろうとは思ってたけどな」
妖精や精霊は、一応警戒心が薄いがないわけではない。
それでも、秀星が来た瞬間から敵意がないのは、秀星が緑の世界樹の主人だからだ。
妖精や精霊はそのあたりの情報を正確に読み取れるので、世界樹が決めただけの形のない称号であっても知覚できる。
だからこそ、最初から信頼した様子で話しかけてきたのだ。
ちなみに、あまりにも悪性が強いと集中砲火を受ける。
「まあ上がってください。大したものは出せませんが」
「押しかけたのはこっちだからそれはいいよ」
というわけで中に入った。
中はそこまで広くはない。
だが、ちらほらの近代文明が見える。
「まずは自己紹介からですね。私はイーリス。精霊族です」
「朝森秀星だ」
「メイドのセフィアです」
自己紹介は終了。
秀星はキョロキョロと部屋の中を見る。
「なんか、思っていたより近代的だな」
「便利ですからね。大体六割くらいの精霊がこのような感じでしょうか」
「残り四割は?」
「伝統派の高齢者の方たちですね。あくまでも自分たちが使う分はそうするという話であり、押し付けてくることはありませんが」
「倫理観が人間より優れてるな……」
「精霊はそうですが……まあ、妖精に関しては経験されたとおりです」
「束になったら凄かったな」
数の暴力に対しては『数の理不尽』で対抗するのが秀星のやり方だが、大体は一人で解決できるものが多かった。
ただ、あの数はやばい。
「まあ、今日は精霊とか妖精がどんな感じなのか見に来ただけだけどな」
「ご覧になったとおりとしか言えませんね」
「まあそれで全て伝わりますがね」
「だな、正直、この家が防音じゃなかったらヤバイことになってるだろ」
周りの音が全く入ってこないわけではない。
言うならば『喧騒』と判断できる音が入ってこないようになっている。
条件を設定した遮音結界ということだろう。
「そこまで気がついていただけたようで良かったです。まあ、夜になるとみんな入ってきますがね」
「え、寝れるの?」
「寝れませんから昼間に寝ています」
「あ、睡眠時間中に押しかけて申し訳ない」
それと同時に、『だからジャージなのか?いや、だったらまず普段着に着替えてからドア開けるよな』みたいなことをぐるぐる考えるが、答えは出ない。
「構いませんよ。あまり人は訪れないので、こうして話すのは楽しいですから」
秀星とセフィアは『外があの状況だと、きたとしても帰るだろ』と思ったが、口には出さない。
多分このイーリスもわかっているからだ。
「……次来るときは安眠枕持ってくるよ」
「フフフ。楽しみにしています。妖精や精霊についてわかりましたか?」
「まあ大体」
「それはよかったです。またお待ちしていますよ。秀星さん。セフィアさん」
というわけで、赤と緑の確認は終了。
次は白だ。
黒はもうわかっているのでいいのだが、白にきた天使というのが気になる。
そういうわけで、次の目的地は白の世界樹である。




