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第三十五話

 我慢することができない人間と言うものもいる。

 茅宮雫と言う人間の迷惑さは、それはそれはすごいものだった。特に、女子にとってである。


 体育の授業があれば更衣室で風香や羽計を襲う。

 問題になるレベルと言うとこれくらいなのだ。案外、雫本人もラインを見極めているのだろう。

 やっていることそのものは男子からすれば写真に撮りたい……ではなく、女子にとって迷惑であると言うだけのことだ。

 問題と言えば問題だが、周りも止めないので慣れてしまっている感じだろう。


「うぅ……ぐすん」


 屋上で体育座りで涙ぐんでいる羽計。

 秀星としてはメンタルが強いイメージがあったのだが、今回は相手が上級者だったようだ。


「一体何があったんだ?」

「いろんなところを触られたと言った感じだね。それ以上は私からは言えないよ」


 一年以上に及ぶ隷属状態でも普段の生活に何の異常もきたさない精神構造である風香は、意外と強い。

 雫がウザいことは変わりないかもしれないが、たぶん時々反撃もしているはずだ。

 その反撃が通用するかどうかはともかく。という前提があるが。


「ただ……なんていうか、バカだったな」

「うん」

「そうだったな」


 羽計もちょっと復活した。

 雫は根本的な意味で勉強が全くできていない。

 教科書に乗っていることすら常識が十年以上前だというのに、さらに言えば、本人が全然やる気ではないのだ。

 寝ることはしていない。ただ、授業中はずっとアホそうな顔をしている。

 何故か知らないが隣の席になってしまった秀星としては大迷惑である。

 ことあるごとに聞いて来るのなら、まだ勉強に対する熱意があるといえるが、ずっとすっとぼけたような顔をしている隣の席の普段テンションが高いやつってかなり気になるのだ。

 その時、屋上のドアが開いた。


「お、私の話をしていたようだね君たち」


 屋上に上がってきたのは雫だ。

 相変わらず好奇心と悪戯心にあふれた表情である。


「……ここに上がってこられるんだな。お前は」


 羽計は、認識阻害の結界が張られているはずの屋上に入ってきたという事実を一瞬で判断して、そういった。


「そういうことだよ。私も、魔力社会に生きるものなのさ!」


 そう言って胸を張る雫。

 その瞬間にブルンと揺れた。

 とはいえこの場には、巨乳に嫉妬する貧乳はいないし、秀星はエリクサーブラッドの影響で気にならないのだ。


「……あれ?反応薄いね」


 魔力社会に生きるものであるということに対しての疑問なのか、それともわざわざ胸を張ったことに対する反応がないゆえの疑問なのか、いまいちよく分からない秀星だが、スルーしておくことにした。

 どうせ追及してもロクなことにはならない。


「まあいっか!それと、編入してくる前にちょっと調べたんだけど、君たち三人って『剣の精鋭』っていうチームのメンバーなんだよね」

「そうだが……」

「そこにね。私もいれてほしいのさ!」


 そういってVサインを作る雫。

 あまり言動と状況にサインがあっていない気がする秀星たちだが、気にしないことにした。


「ちなみに理由は?」

「いじったら面白そうなメンバーが多いからだYO!」


 テンションが高くなる雫。

 秀星たちとしてはぶっちゃけ入れたくない。

 すごくめんどくさそうだからだ。

 とはいえ、それは秀星たちの言葉であって、最終的な決定権は来夏にある。

 三人は、来夏と雫があった時のことを想像した。

 そして考え出された結果は……。


『何かよくわからんけど、来夏は多分、雫を採用するだろうな』


 ということである。

 秀星としても、来夏もあの『瞳』を持っているので、雫のような人材は気になるのだろう。

 なんかここにしてかなりキャラの濃いやつが入って来るのはそれなりに抵抗感があるのだが、追及しても意味はないし、話題に上がる雫本人がこの有様である。


「で、どうかな。実際」

「勧誘だとか、そう言った部分を決めるのは全部リーダーなんだ。『剣の精鋭』ではそうなってる」


 これは事実である。

 来夏の『悪魔の瞳(ラプラス・アイズ)』は、相手の性格も大体把握できるのだ。

 面接にはもってこいの能力であり、相手の強さをある程度暴くことが出来る。


「ふーむ。そのリーダーさんに会ってみる必要がありそうだね」


 採用されるかどうかとなれば、多分雫は採用されるだろう。

 雫はいろいろとぶっ飛んでいる部分はあるが、それでも、いろいろと判断していけば、そのデメリット以上にメリットがある。


「なるほどね。そのリーダーさんってすぐに会えるの?」

「暇人だから会えるだろうな」


 羽計はそういった。


「……そう言えば、来夏の表の職業って何だ?」


 来夏以外は全員が学生をしていても問題のない年齢なので、別に秀星としても気にするものではない。

 だが、来夏は22歳。

 大学に通っているのか、それともどこかに就職しているのか……。


「建設現場のバイトをやっているところを見たことがあるな。ただ、表における書類的な収入源としてやっているだけで、魔戦士としての活動がほとんどだ」

「……」


 作業着を着て鉄骨を運ぶ来夏。

 秀星としてはかなり想像しやすいものだった。


「ところで、剣の精鋭って、どこかにアジトとか本部とかあるの?」

「現在計画中だ」


 というより、評議会で部屋をつかっていたチームは大体そんな感じだ。

 来夏が何かとこだわろうとするのでなかなか決まらないのである。

 で、それがない時の集合場所は、決まってあの九重市支部の建物だ。


「なるほど、わかった。それなら、今から行ってみよう!」


 やることが早い。我慢ができない。

 傍から見れば同じと言えば同じだが、どうしたものかと周りが悩む原因である。

 剣の精鋭って……厄介なものを抱える託児所みたいな感じだ。と秀星は思った。

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