第三百四十一話
放課後。
秀星はアトムと電話していた。
「アトム。もしもあの世界樹に実ってるものを俺が売るとしたら、どういう形式になるんだ?」
『……また値段を決めるのがしんどいことを言うね』
「世界樹だもんな。しかもなんかこれからも増えそうだし」
『そうだね。私もなんだかそんな予感がする』
「今のうちにルールを決めておきたいって感じだな。全部そろってからの方が楽かもだけど、俺だって全部そろえる気が今あるわけじゃない」
『世界樹の様子を見る限り、自分から来るタイプのようだからね。確かにあの島は世界樹に取っていい環境かもしれないが、自分たちがいる環境が好みのものがいても不思議なことは何もない』
「だろ?」
『それでも結局はすべて集まるんだろうなぁ。とも思うけどね』
「否定はしない」
かなり話が脱線している気がした二人。
『で、世界樹に実っているものを、魔戦士の市場に放出する。と言うことでいいのかな?』
「そんな感じだな」
『さて、そうなるとかなり多くの供給が必要になる。世界樹は確かに生産存在だが植物だろう?様々なものを実らせるには時間がかかると思うけど……』
「いや……既に重量が二百億トンを超えたから電話してるんだよ」
『ぶっちゃけ過小評価していたようだね』
「ちなみに、その二百億トンって言うのは、現在市場に出回っている『希少』と判断できるものを基準にした結果だぞ。どうでもいいものはもっとやばい」
『……暴落するじゃないか』
「当たり前だ」
世界樹を独占していたエルフがでかい顔してふんぞり返っていた理由がよく分かる。
エルフは結構多いのだ。
だが、そのすべてにすさまじいほどの供給があったことで、何も困ることはなかったのだ。
とはいえ、彼らも収納場所には困っただろうが。
世界樹は植物だが意思があるので、頼めば供給を少なくしたり、いっそのこと、止めることも一応できなくはない。
だが、長くは続けない方がいいだろう。
もともと、かなりのエネルギーが世界樹の中で渦巻いている。
それを、物質の生産と言う形で外に放出している訳だ。
実は、魔力そのものを放出する器官がすぐれていないので、仮にベストコンディションのままで供給量を減少、停止させると、世界樹の中でパンクする。
なので実らせておいた方がいいと言うこともあるが、それだと収納スペースが足りない。
だが、秀星の場合は保存箱が存在し、実質的には存在しないという概念の化身たちでさえ子機を使用できるという条件があるため、関わる人数が少ない中で何とかなるわけだ。
しかし何度も言うが、保存箱は整理整頓能力が圧倒的だ。
容量はすさまじいので、『容量が危険です』とは言わない。
ただし『宝の持ち腐れ』とは言ってくるのだ。正直腹立つが反論の余地がない。
『とはいえ、君からどう売りさばくか。という言葉が出てきたことは良い事だと思うとしよう。日本の上層部は君を敵に回したくないから黙っているが、海外だと少し違うからね』
「ほー……」
『エインズワース王国は無問題だが、アメリカも、イリーガル・ドラゴンが少し政治に対しては影響が小さいから、手に入りそうならとみんな乗り気でね……』
「そいつらにとって一番面倒なのは、強者が弱者に何かを与えるのが義務だと俺が思っていないってことだな」
『確かに』
秀星は人に甘い部分は当然あるが、だからといって人から甘くされることなど期待しない。
余っているから売るというのも実際気分だ。
保存箱から宝の持ち腐れと言われようと、抱えていくことそのものに致命的な問題は存在しない。
『とにかく、今は私が最高会議の五人と話しておこう』
「アトムも結構乗り気だな」
『大本の物資を抱えているのが君だからね。世界樹には様々なものが実るが、一番いい状態になると自動的に回収されるから、クオリティーを求めるなら君に求めるしかない。他の誰かが同じ立場だった場合、護衛をいくつも付ける必要があるが、君なら問題なさそうだ』
「あ、そういう理由ね」
いっそ理不尽だとわかりやすいやつが管理しているので、大雑把にやっても大丈夫なくらい余裕がある。ということだろう。
こういう部分はいろいろと試したい部分は多いのだが、だからといって大本の部分を握っているやつが貧弱だと管理が大変だ。
「というわけで、いろいろ決めるのは任せる」
『わかった。今度、売るものの実物を見に行くよ』
通話終了。
「異世界だと、世界樹って文明から遠いところにいたんだよなぁ。関わるとどうなるんだろ」
秀星はそんなことを考えながら、保存箱に入っている物のリストを見るのだった。




