第三百四十話
「ところで秀星様。エルフをこれからどうするのですか?」
「さあ?あの島には、改心出来ているものが出てきた時点で帰還魔法が自動的に発動するようになってるし、まだ帰ってきてないってことはそういうことなんだろ?だったら放置だ。帰るまでに百年くらいかかるかもしれないけど、もんだいないだろ」
セフィアに聞かれた秀星はそう答えた。
登校中。
隣で歩くセフィアが秀星のカバンを持って、秀星は両手をポケットに突っ込んで歩いている。
「ていうか、それぞれの世界樹には適合する文明種がいるはずだが……緑ってエルフ以外にいたかな」
「あの島まで行って過ごすことを考慮すると、自然との親和性の高い妖精族が候補の筆頭でしょう」
「あー、妖精たちか。緑の世界樹の周りには全然いなかったけど」
「エルフが作ったあの壁は、一応魔法的にも物理的にも強固なものですから、妖精たちでは入ることはできなかったのでしょう」
「あれってそういえば空にも地面の中にもあったな。そりゃ通れんわ……妖精たちがいけるなら精霊もいけるか?」
「いけるでしょうね。というより、妖精たちを引き連れてくるのが精霊だと思います」
妖精だろうと精霊だろうと、根本的なところに違いはない。
(アホそうか賢そうかってくらいしか違いがないからな)
「秀星様。あまり余計なことを言っているとぶっ飛ばされますよ」
「だな。面倒なことを考えるのはやめとこ」
いずれにせよ。緑の世界樹が悲しがることはない。ということだ。
むしろ、ここまで傲慢不遜、大言壮語のエルフたちがゴチャゴチャしていたのだ。頭が悪そうな妖精たちが来るくらいがちょうどいいだろう。
「まあ、いろいろ片付いたことだし、次の問題が来るまでダラダラするか」
「私にも世界樹の場所はわかりませんからね」
世界樹は特殊すぎて、神器を使ってもなかなか場所がわからない。
自分から来てほしいものである。
それは言いかえるなら、来るということは自分の意思で来たということになるのだ。
「しかし、世界樹の活用方法。どうしたもんかな」
「活用?」
「圧倒的な生産存在だってことは別にいいんだよ。だけどな。絶対に使い切れないんだよなぁ」
ベストコンディションが継続する以上。ペースが落ちるということはまずない。
いいかえればそれは大量に出てくるということだ。
もちろん、どのような物であっても、それが物であるならば、保存箱の中にすべて収納することはできる。
だが、保存箱には自動整理機能がついているので、それを見せられると、『どうすんだこれ』と言われているような空気になるのだ。
「配るにしても限度がありますからね」
「富裕層の特権意識ってめんどくさいからな。まあ……俺も世話したのは最初だけで後はずっと放置だから何も言えないけど」
「ではどうしますか?」
「アトムと相談かな。多分頭の隅っこの方でいろいろ考えてるだろうし」
「秀星様はなにか面倒なことを押し付けるときはいつもアトム様を指名しますね」
「最高会議の五人の中で、最も多種多様で高水準の才能を持ってるのがアトムだからな。そりゃ指名するよ」
とはいえ。まだこっちが何も決めていないうちは無理だろう。
それなりに資料を作ってからのほうがちょうどいい。
「日本は良いとしても。外国は大丈夫でしょうか」
「エインズワース王国と……イリーガル・ドラゴンがいるアメリカはいけるかな?他の奴らって俺の実力知らんからまず舐めてかかってくるだろ」
運がいいだけの小僧だとか思われるだろう。
ただ、本当に運がいいのなら、何が起こるのかわからないので秀星なら手を出すまでに時間をかけるが。
「運が良かっただけの小僧。とか言ってきそうですね」
「人間ってその運が良いっていうのを過小評価するんだよな……運がいいのって誰だっけ。最高会議にいたよな」
「新川グループの会長である新川修ですね。なかなか理不尽な運を持っていると聞いたことがあります」
「はっきり言ってわけわからんからな。『最悪の事態を想定して動け』なんていうけど、運がいいってことは、本来起こり得ない現象を引き起こせるからな……」
問題なのは『最悪そのものが数種類ある』ということだ。
更に運がいいということを言い換えると、自分の成功率の上昇もそうだが、周りの成功率の低下にもつながる。
秀星は正直、運で成り上がったやつとはそれなりの距離感で接することはしても、何も考えず敵対することはしたくない。
「まあでもあれだな。どんな感じに食って掛かってくるのか楽しみではあるけどな。子供の遊びで済ませるならそれで結構。そこに大人がでしゃばってくるのなら大人の方を潰すけど」
「大人は政治というものを使いますからね」
「殴っても解決しないんだよな。だったらこっちも政治を使うよ」
敵を倒すために必要なことはいろいろあるが、『敵の情報収集能力を知る』ということは重要である。
敵がいないというのは平和だが、敵がいないと暇だと考える者も少なからずいる。
世界樹がもうすぐ半分揃うが、諸外国がどんな関係を求めてくるのか。少し楽しみである。




