第三百三十八話
「どう思いますか?アークヒルズ様」
「……どうもこうもない。ただ、あのエルフたちと、我々は違うだろ」
黒の世界樹エリア。
すでに町は完成し、世界樹の恩恵を適度に受けながらも竜人族が生活している中、中央にある宮殿では、竜人族の王であるアークヒルズと、その執事であるシュレイオが話していた。
秀星がエルフたちにしたことは既に確認している。
切り離して、世界樹の偽物まで突っ立てて、切り離した島を遠くまで飛ばした。
もともとあった部分は再度魔法で補正して、もと通りになっている。
なんとも不可思議なものだが……。
「驚いているのはエルフたちだけではないな。一部の緑の世界樹のそばにいた動物たちは、彼らが壁ごといなくなったことに最初は気がついていなかった」
「ええ、私も、実際にその作業が行われている間は気が付かなかったほどです。あまりにも静かで、あまりにも凶悪です」
エルフたちが島ごと切り離された。
確かに強烈的で、彼らに取っては絶望的で、何もできなくなるようなほど失望的で、理解の外にいるような現実だが、何かしらの魔法が発動していたことは明白。
だが、誰もそれに気が付かなかった。
隠蔽魔法を使っていた。当たり前だろう。ならば、『隠蔽魔法を使っていた』というだけで、それを納得できるのかと言われるとそれはあり得ない。
そもそも壁の規模が尋常ではない。
高さが千メートルもあり、幹も太く、膨大に広がっている。
真下に行けば、実る果実と相まって、一つの空に見えるだろう。
それが『全く外から見えない』といえるほど高い壁を築いていたのだ。
だが、それが一夜でなくなった。
いや、無くなったのならまだしも、それは移動しているのだ。
明らかに膨大なエネルギーが渦巻いていたはず。
「……行為そのものよりも、気づかれなかったということの方が重要だ。対策もクソもない」
「そうですね」
「どう思う?隠蔽魔法であれほどの規模の現象を隠せるのか?エルフたちは外部の魔力を扱うことに長けていたことを考えると、魔力感知能力だけは我々を超える可能性もある。そんな存在すらも気が付かない手段など聞いたことが無い」
「……私たちが『隠蔽魔法』というものを過小評価している。ということと、単純に何か大きなことをした。と言ったところでしょう。私にも、納得が行く仮説を出すことはできません」
今まで自分が持っている常識や手段。
それらを過小評価しており、それらを極めればここまですることが出来るのか。
それとも、それらは全く関係なくて、全く新しい技術が存在するのか。
「ただ、私の予想ですが、その二つが混在しているにしても、おそらく比率が高いのは『隠蔽魔法』の部分でしょう。彼は、進化というより真理という言葉が似会う人間です」
「ふむ……単純に進んだ技術というわけではなく、構造を理解し、その力を行使する。ということか」
それはいいのだが、と二人は思う。
真理に近づくだけで、ここまでの能力を行使できる。
それは要するに、最強と言えるだけの力と言うものは、もうすでにこの世に存在しているのではないか。ということ。
自分が使っているのは、その最強と言えるだけの力の下位互換でしかないのではないか。ということ。
そんな思考が、頭を貫通する。




