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第三百二十九話

「……遠くね?」


 白の世界樹に向かって移動している時、来夏はそうつぶやいた。

 すでに三時間ほど走らせているのだが、まだつかない。


「……ねえ、秀星君。大体どれくらいでつくの?」

「あと六時間くらいかな」


 秀星はあくびをしながらそう言い返した。

 話すということは別に悪いものではないが、そもそもどれくらいの時間がかかるのか予想もせずにただ単に車の中で移動するというのもなかなかアレである。

 ちなみに、この島は『巨大な円盤』のような形だが、白と黒の世界樹はそれぞれ、真逆の位置に配置されている。

 緑の世界樹は白の世界樹から近い位置(比較的、が前につくが)にあるのでそれはいいのだが、黒から白に行くとなればこれがもうすごく遠い。


 本当に朝から来ているのでまだそれなりに日は高いところにあるが、到着した時には真夜中だろう。


「……秀星」

「何だ?」

「転移魔法を使おう。運転するの飽きた」

「さいですか……」


 めちゃくちゃ遠いのでいずれいうだろうと思っていた秀星。

 それ以上は何も言わずに、指をパチンと鳴らす。

 バスを包むように魔方陣が出現し、一瞬で転移した。


 ★


 まあ、転移した先も森なわけだが。


「……あ、何だが雰囲気が変わったね」


 風香はそうつぶやいた。

 魔力が見える風香は何となくそれは分かったのだろう。

 別の世界樹がそばにあるので、そう言った素質を持つものは気持ちが昂ったり、変化を感じとったりするのだ。

 その証拠に、基樹はかなり『ダラッ……』としている。


「基樹君。白の世界樹には興味がないの?」


 美奈がそんな基樹に聞いた。


「ああ、ぶっちゃけて興味ないな」

「まあ、同じ理由で緑の世界樹にも興味なんてないだろうけどな」


 世界樹にもグループはある。

 白と黒はそれぞれのグループの頂点として、緑は白のグループに入っている。

 持っている属性的に黒が影響する基樹に取って、白の世界樹も緑の世界樹も、興味があるものではないのだ。


「まあでも、大幅に短縮されてっから、もうそろそろ見えるかも……ん?なんだドラゴンが見えたような……」


 運転席でアクセルを踏む来夏がそんなことを呟く。

 秀星が見てみると、確かにドラゴンがいる。

 真っ白いドラゴンだ。白の世界樹に釣られてきたといったところだろう。


「でも何だか。ボーッとしてるです」

「フニャァ……」


 美咲が言うとおり、確かにぼーっとしている。

 というより、秀星たちのような文明種は、発展し、繁栄することを求めるので、世界樹の周りに来た場合、それを独占し、管理し、他者を下に見るために奮闘することもあるが、それなりに知性のあるモンスターというものは、安心して生きていける場所を見つければ、争う必要はないと本能が考えるものである。

 圧倒的な生産力を持つ世界樹がそばにいる場合、自分を狩るよりも、世界樹を徹底して管理することにリソースを割いたほうが効率的だからだ。世界樹は植物だし。


「まあ、争わなくても良いのならそれに越したことはねえか」


 それ相応にウズウズしていた来夏にとっては不完全燃焼かもしれないが、他人の平和の中に土足で踏み込んで荒らしたところで虚しいだけだ。

 そういうことは一応考えるときもある。

 要するにほとんどの場合は考えないということだ。


「でもなんだか。フワッとした雰囲気だね」


 黒の世界樹のそばの森では、植物は本来の色で咲いていた。

 だが、白の世界樹の周辺では、植物は白い。

 果実や野菜は本来の色のようだが、幹も枝も葉も白く、なんだか色がついていないように感じる。


「でもなんだか、平和でいいなぁ……」


 遠くの方に世界樹が見えて、白の世界樹の化身が枝の上を走り回っている。

 ボーッとしている黒とは大違いだが、元気なのはいいことだ。


 文明種が来ないというだけで、世界樹の周りは基本的に平和が訪れる。

 知性とは争いである。

 最も、多くの者にとってはそんなことは関係ないわけだが。

 だがこう、まったりしたいな。と思ったとき、こういう場所に来るのは悪くないと思った。


 ……することないけど。

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