第三百二十八話
「高さ千メートルはあるな。意味のわからないスケールだぜ」
「なんだかすごく美味しそうな木の実がたくさん実ってるね!」
秀星たちは黒の世界樹の元にやってきた。
幹や枝の色は普通の植物と同じなのだが、葉の部分だけは真っ黒。
黒の世界樹はそういった色で、これは他の世界樹も似たりよったりの配色である。
黒い葉と聞くと少々不気味かもしれないが、実際に見てみると、光沢があってキラキラ光っているのでなかなかキレイなものである。
「これが黒の世界樹か……」
基樹は呟いた。
元魔王であり、その魂を持っている彼にとって、黒の世界樹というのは自らに影響する存在だ。
居心地の良さを感じるのだろう。
今にも寝そうな雰囲気である。
「あ、何か落ちてきたです!」
美咲が指差す先では、りんごがたくさん地面に向かって落ちている。
見たところ普通のりんごだ。
というか……高さ千メートルもあるのによく見えたものである。
ほとんどのメンバーが『え、どこ!?』となっているくらいだ。
来夏はもちろん分かっているが。
「……あ、やっとわかるようになった。美咲ちゃんって目がいいんだね」
「ポチに融合するようになってから、いろいろなところが強化されている気がするです」
そういえばあったなそんな手段。と全員が思った。
落ちてきたりんごは十四個。
十三人とポチで一個ずつ食べてね。ということだろう。
「見た感じは普通のりんごですね」
「ああ。特に変わったところがn」
「これめっちゃ美味えぞ!」
「食べるまでが速い!」
アレシアと羽計がいろいろ見ていたが、その間に来夏は美味しくいただく。
……一口で半分以上食べているが。
「ていうかこれ、種がないみたいだぜ」
「え、そうなの?」
食べやすいように、という配慮だろう。おそらく。
種がないりんごなど聞いたことがないし。
そして全員が食べる。
すごく甘くて新鮮である。
それぞれが感想を述べるなか、基樹だけは体中から魔力が溢れていた。
本人も驚いたのか、体内で抑えようと必死になって操作しているが、りんごの影響が大きすぎてあまり追いついていない。
というよりもとから魔力が多いので、こうなると止められない。
「な……なんかすごく魔力が溢れてきたぜ」
元魔王すら影響するほどのりんご。
秀星はなんだかりんごがすごいものに思えてきた。
チラッと世界樹の幹を見る。
化身が無表情のままで胸を張っていた。
なんだか『どうだ。すごいだろう』と考えているのが遠くからでもわかる。
「もっと頼んだらなにか落ちてくるかな。おーい!バナナをくれええええ!」
来夏は誰かに聞くことなく世界樹に向かってそう叫んだ。
すると、本当にバナナが落ちてきた。
そしてなんだか普通より大きい。
「落ちてきたぞ!」
まるで子供のようにはしゃぐ来夏。
バナナをもらうだけでそんなに嬉しくなるだろうか。と秀星は思うが、人の好みはそれぞれである。
それ以上考えたところで生産性はない。
早速落ちてきたバナナを食べている来夏。
本当に美味しそうに食べているが、あまり自分たちよりも年上だとは思えない瞬間でもある。
「お前らもなんか頼んで食べろよ。すごく美味いぜ」
満面の笑みでそういう来夏。
美味しいということはわかった。
ので、みんな頼んでいる。バナナ以外。
……来夏と自分は違いますアピールをすることにこだわる剣の精鋭メンバーであった。
最も、キャンピングカーに乗り込むまでに、バナナを百二十本も食べているので、そもそも真似するのが不可能というものである。
皮はしっかりと保存箱の中に入れておきました。




