第三百二十一話
「と、言うわけで」
来夏の目の前には、チーム『剣の精鋭』メンバーが全員集合していた。
来夏、秀星、アレシア、羽計、優奈、美咲、風香、千春、雫、エイミー、基樹、美奈、天理。
全員で十三人である。
「世界樹三つの旅行に行くぞ!」
「え、そんなすごい話になってたの?」
優奈が突っ込んだ。
実は、この世界樹旅行の話を知っていたのは、来夏と秀星と基樹だけである。
秀星と基樹はあえて伝えていなかったのだが、もちろん来夏も報連相など知らんとばかりに勝手に計画していた。
『一泊二日が出来る程度の準備を整えて秀星んちに集合だぜ!』と言うサプライズする気満々のメールが全員に送られ、あえてグループチャットでチームに全く入らないスタイルである来夏特有の結果だ。
「……いつもこんな感じなのか?」
基樹がアレシアの方を向いていった。
基樹はアレシアが来夏と一番付き合いが長いことを知っている。
アレシアは溜息を吐きながら頷く。
「そうですね。大体こんな感じです」
「……なかなか大変なリーダーだな。まあ、勧誘して来た時点から分かっていたが」
「壮絶な予感がしますね~」
アレシアの呟きに、天理と美奈は呆然とする。
秀星としても気持ちは分かるのだが、それはもう突っ込んだら負けである。
「ところで、その世界樹と言うのはどこにあるですか?」
「ふみゃ~」
美咲がきょろきょろと見渡して、その胸に抱いているポチがあくびをする。
集まっているのは秀星の家の敷地。
もちろん、ここにはあったのだが、すでに移動済み。
「当然、それは天空にある島だぜ」
「……は?」
羽計が『何言ってんだコイツ。遂に頭がイったのか?』とでも言いたそうな視線を向ける。
「まあでも、上の方に何かがあるのは分かるけどね!」
「うん。風の通りが何か妙な感じがするって言うか……」
雫は勘だろうか。風香はもっともらしい理由で気が付いていたようだ。
「隠しているのは分かった。要するに、そこに行くわけね」
「それほど大きなもの……隠すことなんて普通は不可能だと思いますが……」
千春はうんうんと頷きながら上を見て、エイミーはボーっと見上げる。
「まあとにかく、これから旅行するわけだ。まあ、何かあっても大丈夫だろ」
神器を十個持つ秀星。
元魔王である基樹と、元勇者である天理。
少数(……ではなくなってきているような気がするが)精鋭チームの名に恥じない実力を持つメンバー。
そして来夏と言う理解と言う言葉から最もかけ離れたゴリラがいる。
安心できるかどうかと言われると不安の方が大きいメンツだが、致命的なことにはならないだろう。
「それで、どうやって行くですか?」
「そうだな。秀星の家に集合と聞いているから、何かしら設備があると思っていたが……」
美咲と羽計の指摘はもっともだ。
足がないのでは旅行どころの騒ぎではない。
「まあ、ぶっちゃけいらないんだよねそんなの」
「だな。どうせ転移魔法で一瞬だろ」
秀星の返答に真顔で答える基樹。
技術的、才能的に人を超えている二人は普通にそこまで判断できる。
「というわけだ。秀星、頼んだぜ」
「わかった」
秀星が手を掲げると、魔方陣が出現。
一秒後。もうすでに彼らは秀星の家にはいなかった。
★
新しく島を作った。と言ったが、しっかりと緑も川も大地もある場所だ。
黒の世界樹のそばだからと言っておどろおどろしい感じになっているというわけではなく、普通の森が広がっている。
「あ、遠くの方に黒くて大きい樹が見えるね!」
雫が遠くに見える黒の世界樹を見てはしゃいでいる。
当然とばかりに、はしゃいでいる剣の精鋭メンバー。
だが、元魔王である基樹と、魔力を直接視認出来る風香と、『悪魔の瞳』を持つ来夏は、少し感覚が違う。
「なんていうか、圧倒的な感じがするね」
「エネルギーがあそこから噴火してるみたいだな」
「だな。まあ、それが継続出来てる原因はまた別みてえだけどな」
来夏は一瞬だけ秀星を見たが、すぐに世界樹の方に視線を動かした。
「近くまで行くの?」
「もちろんだ。まあそれ相応に遠いから乗り物使うけどな。秀星」
「ああ」
秀星がマシニクルを出して引き金を引くと、白いキャンピングカーが出現する。
かなり大型であり、地上で剣の精鋭が拠点に使っているものより巨大だろう。
全長三十メートル。高さと幅が六メートルという意味不明な大きさだ。
「大きいね。これ、下で使えないの?」
「日本での舗装された道路で使うことができる場所がないっていうのと、ナンバープレートがないからそもそも無理だな」
何をどう解釈したとしても法律的としか思えない理由が原因だった。
ちなみに、このくらいの大きさのキャンピングカーを走り回せるくらいの広さの道路を、島を作った段階で確保しているので、この島でなら問題なく走行可能だ。
そういうところもしっかり考えて島を作っているのである。どうせ転移魔法で一瞬なのに。
「あ、あはは……まあとりあえず、乗ってみようよ」
茫然としている千春。
技術者として日々技術を磨いている彼女だが、神器に勝とうなどと言うのは人の寿命では足りない。
ぞろぞろと中に入って行くメンバー。
最後に入るには秀星と基樹。
「まあ、実際いろいろ機能があるから困らんだろ。操縦席にキッチンにバスルームにモニタールーム。倉庫は神器の保存箱を使ってるから、整理整頓が簡単かつ容量もほぼ無限で、必要なものはほぼぶち込んでる。当然、ゴミを放り込んでもいいしな」
「どれもアレだが、保存箱が一番反則だな」
「容量ってものを考えなくてもいいっていうのが尚更だな。だが、快適にするために道具があるんだからいいんだよこれで」
「……否定はしないがな」
二人も乗りこんだ。
キャンピングカーとは思えないほどの内装に驚いている剣の精鋭メンバー。
「この島では基本的にこれを使うのか?」
「それでいいだろ。別にそれで困らんだろうし」
で、操縦席に座る来夏。
「さて、出発進行!」
「「おーーーー!」」
ノリのいい雫と美奈が拳を振り上げた。
「よっしゃ。行くぜ!」
来夏はアクセルを思いっきり踏んだ。




