第三百十二話
アトムを連れて黒の世界樹の傍にやって来た秀星。
そこでは、『新しく誰かが来ても文句を言われない程度の距離』を世界樹との間に設けて街を作っている竜人族たちがいた。
あまり見た目は変わらないのだが、よく見ると瞳孔が縦に割れているのが分かる。
「本当に竜人族がいるとは……」
「まあ、転移魔法も超高速の移動手段も持ってないアトムには無理だよなぁ」
モンスターの存在が多数確認されている島などは、人工衛星で写された情報であったとしても、民衆に届くまでに削除加工される。
徹底した魔法社会の秘匿のためにこうしている訳だが、そのような島の一つに、竜人族のような存在がいるのだろう。
その時、シュレイオが来た。空から。
「いらっしゃいませ。秀星君……と、頤核君でしたね」
「なるほど、どうやら、このようなところまで来る以上、日本の魔法社会のことを調べている訳か。確かに私は頤核だ。キラキラネームとよく呼ばれるが、私は気に入っているので名前で読んでほしい」
「ではそうさせてもらいましょう」
そう言って微笑み合うアトムとシュレイオ。
高身長でクール系の二人が並ぶと、秀星が少し小さく見える。
「我が主人。アークヒルズ様がお待ちしておりますが、どうしますか?」
「あっておこう。秀星もいいかな?」
「俺もいいぞ」
というわけで、シュレイオが先導して出来上っていく町を歩いていく。
「それにしても、ここに来るのが数時間前だと推測しているが、あまりにも作業が早いな」
「それもそうですね。とはいえ、魔法で枠組みを作って、後は職人の皆さんが仕上げていくだけですから」
「なるほど、その作業が確立されているというのはいいことだ」
「とはいえ、既存のやり方と言うものは残しておく必要がありますね。癖と言うものは抜けないものなので」
「癖が抜けないだけならまだしも、指示を聞かないやつもいるがな……」
「権謀術数の中で生きている人族は大変ですね。我々は、アークヒルズ様を王とした絶対王政ですから」
「……裏からシュレイオが牛耳っているのか?」
「予算に関しては。さらに言えば、あまりアークヒルズ様は書類整理をやりたがらないので。もともと書類はそう多くはないのですが……」
「ちなみに全体で何人だ?」
「竜人族全体で二十万人ほどでしょうか。二万人ほど、幻惑魔法を使って溶け込んでいますがね。予算の話に戻しますが、まああれですね。娘は可愛いということです。まだ二歳の女の子なので、気持ちは分かるのですが……」
アトムの知り合いの中で赤ん坊と言うと、来夏の娘の沙耶である。
少なくとも比較対象にするのは無理があるだろう。
「……そう言えば、秀星君は?」
「?」
アトムは先ほどから、秀星が会話に入ってきていないことに気が付いた。
で、その秀星はと言うと……。
「よーし、もうちょっとだな。こんな感じだぞ」
水で作った球を手の平の上で作って子供たちに見せながら、『みんなもやってみよう』見たいな感じで子供たちに教えていた。
周りにいる大人も、これが火属性なら危ないといったかもしれないが、水なら大丈夫と言った感じでほほえましく見ている。
もちろん、子供とは言え竜人族。
単なる暴発くらいで怪我をするほどやわではないが、まだ子供なので心配なものは心配である。
「ん~~~!」
「頑張れ~頑張れ~」
「む~~~!」
「もうちょっとだ……う○こ気張るような感じで!」
「んっ!」
子供の手の平に水で作られた球が出現。
「あ、出来た!お兄ちゃん。出来たよ!」
「よかったね~……困ったなこれ」
何してんだコイツ。
「秀星……」
「分かってるって、ちょっと魔法使うのに苦労してた子がいたから助けただけだ。あ、君、また今度な。これ上げるからみんなに分けて食べるんだぞ」
秀星はクッキーがそれなりの数入った袋を子供に渡した。
「うん!お兄ちゃんありがと!」
元気よく子供は走って行った。
「……さて、次からはちゃんと教えないとなぁ。でもあれが一番楽なんだけど……」
「そうなのか?」
「人間って、体の中から何かを放出する感覚って掴みにくいんだよ。だから大便の時みたいな感じをイメージすると『出す』って感じするだろ?小規模で継続的なら小便の方がいいけど」
「「……」」
クール系二人が絶句である。
「まあ、それ相応に練習してるんなら、単なるコツみたいなもんかな?竜人族はもともと魔力の操作が体の中で十分にできる種族だ。ドラゴンと人間の両方の姿をとれるのは単なる『種族スキル』みたいなものだが、ドラゴンの時に翼で飛ぶのは、完全に本人の魔力操作が問題だからな」
言いかえるなら……。
「……小便をイメージしながら翼を操作すると飛びやすい。ということなのか?」
「汚い話だが概ねそんな感じだな。竜人族の子供って男子の方が習得速いけど、それはこんな要らんことばっかり言う教師が原因だったりする」
「まあ、教科書にはかけませんよね」
『おしっこをイメージすると空を飛べるよ』なんて書かれていて素直に受け止める女の子という構図は倫理的にやばい。
教科書にはかけない下品な話と言うものはいろいろある。
そういったことであっても、応用が効くなら教師は時折言うのだ。
男はバカなので試すのである。
そして成功することが多いわけだが、女子は練習するのではなく軽蔑の目で見るのだ。
何よりコツを掴むことが大切なのだが、要らんことばっかり言うと女子生徒の成長が遅くなる。
「それとなくいうのがいいのですが……汗はどうなのでしょうか」
「女子校ならそれで教えるところが多いんじゃね?多分小便には勝てないけど」
人間の体ってかなり変である。
竜人族なら尚更だ。
「……まあとにかく、アークヒルズ様のところに行きましょうか。ここで話していても生産性がありませんし」
「そうだな」
「俺も同意する……まあ原因は俺なんだけどさ」
というわけで、竜王がいるという建物を目指すことにした。




