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第三百八話

 世界樹と言うものは数種類ある。

 だが、いずれも圧倒的な生産能力があるというだけの説明しかしてこなかったので、それならば『同じ色の世界樹が何本かあるくらいで十分だろ』とかいろいろ思う人はいる。

 というより秀星もその一人だった。


 色が分けられている理由は何なのか。

 こればかりは、たった一つの世界樹を見ているだけでは比較などできないのでいくつかの世界樹を見ることで判断することにした。

 要するに、複数の世界樹を観察できるようになるまでは、完全に放置していたということなのだが、それはいいとしよう。


 ちなみに、すでに答えは出ている。

 それ故に予測できることはある。


「……インターホン鳴ったな」

「そうですね」


 まだ白と黒と緑が大暴れしている浮遊島。

 流石の秀星も入り込むことは遠慮するので自宅待機だが、そんな中、インターホンが鳴った。


「……初対面の人っぽいけど、居留守使ってもバレるくらいの実力は普通にありそうだな。セフィア。入れてくれる?誰であっても通していいよ」

「かしこまりました」


 セフィアがリビングから出ていく

 そして、十数秒後には一人の男性を連れて戻ってきた。

 初対面の印象としては、『悪い印象を抱かない青年』といったところか。

 黒髪をいじって少しオサレ感を出しているくらいで、あとは燕尾服を着ている程度。

 ただ、動きに無駄がないので、相当の手練だとわかる。

 そして最も気になるのが、その瞳。

 瞳孔が縦に割れている。


 ただし、秀星は驚きはしなかった。

 いや、実際驚いてはいるのだろう。

 だが、『驚く』から『まあそんなこともある』に切り替わるスピードが異常なだけだ。


「……座ってもいいけど」

「いえ、このままで構いません」


 それなら、と秀星は言うのをやめた。

 何度言っても無駄ということくらいは声の質でわかる。


「まあ、知ってると思うけど、朝森秀星だ」

「私は竜人族の王家の執事を努めている、シュレイオと申します」


 竜人族。

 人をベースにして、龍の遺伝子を持つ存在だ。

 人間を遥かに上回る寿命に加えて圧倒的な魔力を保有している。

 そこだけ見ればエルフにもよくある設定だが、竜人族の多くは、人間の形態と竜の形態を持っている。

 シュレイオは今人間形態というだけの話で、ドラゴンにもなれるのだ。


「要求は、黒の世界樹、そして白の世界樹のそばの土地での生活権か?」

「概ねそのとおりです。ただ、求めているのは黒の世界樹の方ですが」


 先程、世界樹が色違いで出現する理由の答えは出ていると言ったが、その理由の一つはこれだ。

 世界樹は、その色によって、何かを司る。

 そして、自らが司る存在に対して、恩恵を与えやすい。

 森に住み着くような種族なら緑。

 そして、様々な要素が混ざった雑種(めちゃくちゃ広い意味で)、及び確定しない部分が多い『虚無存在』の場合、白か黒。といったところだ。

 ドラゴンは確かに『ドラゴン』なのだが、よく見れば様々な動物の要素を持っているので雑種である。


「要求はわかった」


 黒の世界樹に近づくのは、闇のイメージがある存在がほとんど。

 もちろん、『闇』であって『悪』ではない。

 それに、白の方は不要といったが、逆に、白の方がいいという竜人族の一族もいるだろうし、白と黒ではなく緑がいいという部族もいる。

 ドラゴンも一種類ではないのである。

 とはいえ、世界樹を選ぶのは単なる居心地の違いだろう。


「竜人族なら翼があるから、浮遊する島であっても荷物をまとめて勝手に入っていける。俺に接触するのは、黒の世界樹からの恩恵を最大限ほしいからだな」

「はい。こうして話すことができる以上、あなたから権利を獲得した上で住みたいものです」


 ちなみに……実は今、黒の世界樹の化身が窓の外からこちらをボーっとジーっと見ている。

 世界樹に関係する会話なので確認しているのだろう。


「好きにすればいい」

「!」


 シュレイオの頬がピクリと動いたが、すぐに表情を戻した。


「なるほど、私達が何をしようと、世界樹を支配することはできないから。ですね」


 根本的なところを言えば、あの浮遊島は世界樹のために作ったものだ。

 だが、世界樹の方は、それ相応に提供者になりたいという意志がある。

 秀星だけでは使い切れないのだから、人が多いほうがいいと思うのは必然。

 そして、防御性能が追加され、リカバリー機能がフル強化された世界樹はその『継続力』が尋常ではない。

 ここまで来ると、元魔王である基樹でも支配不可能である。


「もう守られるほど弱くはないしな。まああえて言えば、二つかな」

「聞きましょう」

「世界樹に意思があることは知っているな」

「確信を持って首を縦にふることはできませんが、推測はしています」

「それで十分。で、意志があるからな。それ相応に周りがうるさい方がいいんだ。子供がはしゃぎまわる広場とかは、世界樹に近い場所に作ってやってくれ」

「私から提案しておきましょう。そして、もう一つは……」


 秀星はシュレイオをまっすぐ見て言った。


「俺は『好きにすればいい』とは言ったが、『どうでもいい』とは言ってないからな。そこは覚えておけよ」


 妥協できるラインが異なることに例外はない。

 だが、倫理というものはある。

 種族が違えば、守らなければならないものが違うことは理解している。

 だがしかし、『自由』というのは常に、侵食されるべきではないが、制御されるべきなのだ。


「承知しました。『権利』を受け取りましたが、『特権』を得たわけではない。ということも進言しておきましょう」


 その言葉に納得した秀星は頷く。


「それでは、また会いましょう」

「……準備がどれくらいで終わるかは知らんけど、一週間くらいは入るなよ。世界樹が浮遊島を大改造中だからな」

「伝えておき……失礼。少し急ぎます」


 そう言うと、シュレイオは瞬間移動のような速度で消えていった。


「従者って大変なんだな」

「そうですね」

「セフィアにそう返答されると俺が困るんだけどなぁ……」


 苦笑する秀星。

 ちらっと見ると、すでにもう黒はいない。

 確認したいことは終わったようだ。


(さーて、これからどうなるかね……)


 いくつか候補はある。

 ただ、今の情報量では、結果が大体七桁くらい選択肢があるので、流石にここは『見』を選ぶ秀星だった。

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