第三百二話
「……これは、面倒なものをもらったかもしれないな」
秀星は果実のようなものを見てそう言った。
形と大きさだけで言えばほぼリンゴと同じだ。
庭にいる言うほど高さのない白や黒と違って、おそらく文字通りの大樹であろう緑から渡されたものである以上、誰が何と言おうとこれが本来の大きさ。と言うことだ。
「……どうすっかな。これ」
秀星はリンゴを見る。
形と大きさはリンゴだといった。
だが、その色は違う。
その色は緑……正確には、色と言うよりは『光』に近い緑だ。光沢がすごい。
そしてその周りに、虹色のオーラのようなものが漂っている。
「感謝の気持ちだってことは分かるんだけどなぁ」
見ただけで分かるが、作ろうと思ってすぐに作れるようなものではない。
言いかえれば、作る準備そのものは既に整っていたが、作ることはかなわなかった物。ということだ。
「何かしら、感謝の意味を乗せた何かを送ってくるとは思っていましたが、まさかこれを渡されるとは私も予想外です」
「そうなんだよなぁ……これって確実に『選定の果実』だろ」
選定の果実。
簡単に言えば、世界樹本体の気分だけではなく、摂理の上でも、その個人を世界樹の主人であることを決めるものだ。
ちなみに、『世界樹本体が渡そうとした時点ですでに選定が終わっている』ので、もうすでに秀星は緑の世界樹の主人と言うことになる。
渡そうとしたその意思が尊重されるのであって、渡した後の行動など考えないので、既にそうなるのだ。
これを迷惑とするのかどうかは個人に依るが、これを渡される時点でそれ相応に世界樹に対して献身的な姿勢を見せている。
否定したところで意味がありません。と言われるものなのだ。
「いろいろな魔法……いや、魔法じゃないけど、とにかく渡そうとしたことに意味があるから、食べようが食べなかろうが意味ないんだよねぇ」
「そもそも、渡そうとしたことに意味があるので、渡す必要はありませんからね」
知らぬ間に世界樹の主人になっている。ということはないわけではない。
「ただ正直……発光しすぎてあまりおいしそうじゃないんだよな」
実は……味はリンゴと全く同じである。
美味くもマズくもない。
本当に同じなのだ。
しかも、食べたからと言って魔力的な何かが向上するわけでもない。
本当に味と効果は普通のリンゴと同じである。
「ま、放置一択だな」
「それがいいでしょう」
保存箱に中に入れて置いてもいいが、別に放置しておいても腐ることはない。
さらに言えば、秀星しか触れることができないのだ。
別に食べなかったからと言って世界樹の方から何かを言われるわけではない。
……さすがに果実の受け取りそのものを拒否したらめちゃくちゃ泣きそうな顔になるのだが。




