第二百九十三話
当然のことだが、会議というものが一回で終わることはない。
もちろん、ただ遅延行為ばかりしているというわけでもない。
現状、決められないとなれば暫定を決める。
当然決められるということがわかれば当然決める。
量が多いのだ。
いずれにせよ、決定権を持っていない秀星ができるのは、この五人がその決定を滞りなく行うための知識提供である。
ただし、その決定が覆りそうな『秀星にとっての最先端の技術』を言い出すのはダメ。
そんなことを言ってしまってはいつまで立っても終わらない。
特に、誰もが見ているような会議では尚更だ。
無論、このような『観客がいる会議』では面倒な部分はいくらでもあるのだが、最たるものから四つあげよう。
一つ目は『対抗策が考えられていない重要すぎることは言わない』
二つ目は『意味のない脱線をしない』
三つ目は『必ず決をとる』
この三つの時点ですごく面倒なのはわかるだろう。
人が見ているのだから、常識を覆すようなことを言ってしまうと無用な混乱が生じる。
呼ばれた身であったとしても、発言にはある程度責任が生じるのだ。大部分は最高会議が請け負うのだが。
そして、例えを上げる程度ならともかく、それ以上『例えの話』を大きくしたりするとそれは無意味な脱線である。
会議という場ではふさわしくないのだ。
そして、『時間だけ使って何も決まらなかった会議』以上に無駄なものはない。
一部のものは『会議を行うことそのものに意味がある』と言っているし、秀星もそこは否定しないが、それは暫定でもいいからしっかりと決めることができる前提があるからだ。『目に見えない制限時間』を気にしないやつが会議にいるとはっきり言って邪魔である。
さらに言えば、最高会議に至っては別に『行政』というわけではない。
最高会議の五人が責任を取れるのであれば、その場で決定したとしても文句は言えないのだ。そういう『ルール』になっている。
まあ、そんなところだ。
そして四つ目だが……。
★
「うがああああああ!」
秀星はダンジョンで八つ当たりしていた。
「……一体何があったんだ?会議があったと聞いているが、こちらまで話が来ないからわからないんだが……」
「そこまで荒れるとなると見ていて不安です」
ばったり遭遇した宗一郎と英里がそんなことを言った。
「いやー……会議がね。クソ面倒なんだよ」
「ん?秀星がするのは知識提供だけだったはずだが?」
「そうなんだけど、俺だって言ってること全部をまず実験してるわけじゃないからな。たまには仮説くらい混ざるんだ」
「そうでしょうね」
「ただなぁ……例えば、俺がここで何か仮説を立てたとしてそれを疑う人間って少ないんだよ」
「まあ、自分よりも実力がある者が言ったことを鵜呑みにするものは多いからな」
「視野が広ければ問題はないんですけど、そんな人は少数でしょうね」
秀星はため息を吐いた。
「その……仮説と事実の距離っていうのかな。観客席にいるやつの呼吸とか心臓の音とか聞いてると、それを仮説と認識していないんだってことがよくわかるんだよな」
「君の耳もおかしいと思うが……」
「会長の体の頑丈さもおかしいと思いますが、確かにそうですね。周りからも見えている中で会議を行う場合、その多くはこちらの言い分を疑っていないとわかるときがあります」
面倒なのは会議の席に座っているもの同士でそのようなことが起こる場合だが、さすがに最高会議の五人ともなればそうはならない。
「きちんと仮説だって言ってもみんな事実だって思うからな。だから、こっちとしても、できる限り距離が近いものを選んで発言しないとだめなんだよな。これが面倒なんだよ……」
ものすごく面倒な話だ。
それに、秀星は知識を提示しすぎた。
そしてそれをが画期的な場合が多かったので、『秀星が発言する』というだけで少なからず説得力が生じる。
仮説を仮説ととってくれない。
それは、人を動かせるものがしてはいけない勘違いなのだが、わかっている人は少ないだろう。
「まだ話す内容は残っているのか?」
「残ってるみたいだな。最初にもらった資料の中で、まだ二割くらい終わってない。実はこうしてモンスターに八つ当たりしながらも考えてる」
「呆れるスペックですね」
「否定しない」
常識なんて異世界においてきた。
「しかし、会議そのものはもうすぐ終わるようで良かった」
「そうですね。ただ、最高会議の五人が相手となると、それだけでストレスがたまりそうですが……」
「別に敵対しようと考えているわけじゃないんだし、そこは大丈夫だ。その周りにいる観客のほうが嫌になる」
「要するに、六人だけで話したいということですね」
「そうなんだよな。ただ、五人だけで集まることすら余りできないみたいだから贅沢言えない……」
そして根本的なのは……。
「実はその観客がいるのうざいって思ってるのは、あの五人も同じなんだよな」
その遠慮がないというかどうしようもない言葉に、宗一郎と英里は揃ってため息を吐くのだった。




