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第二十九話

「新勢力ができたわりに、不気味なほど静かだな」

「そうですね」


 秀星は新聞を読みながらそうつぶやいた。

 評議会が実質的に壊滅し、犯罪組織の中からも何人か抜き取られたことで出てきた新勢力の誕生から一週間ほど経過しているが、音沙汰ない。

 はっきり言って拍子抜けである。

 嵐の前の静けさ。と言う言葉があるものの、それとはまた違うようにも感じる。


「まあ多分、いろいろと揉めているんだろうな」

「優秀な人材と言うのは比較的探せばいくらでもいるものですが、それらを纏めるとなると話が変わりますからね」

「癖が強そうなのがいろいろ揃っていそうだしな」


 単純に、優秀な人材が多いというだけでは何もできないのだ。

 本来敵同士である関係の中で人材を引き抜いているので、基本的な考え方がもともとの所属組織で大幅に異なる。

 そのため、うまく役職が決まらないのだ。

 適材適所。とは言うものの、それらは出来ることが明確に決まっている人間にしか適用されない。

 優秀な人材である故に、適所も多いだろう。

 だが、性能的にみてピーキーと言える人材もいるはずだ。

 そう言ったもの達のために専用の部署を作る必要だってある。


「……まあでも、そろそろデモンストレーションくらいはやってもいいと思うけどな。このままだと、組織を作ったのはいいけど、何かよくわからないうちに内部崩壊するんじゃないか?」

「可能性は高いと思います」


 そう言った組織の中で重要なのは、人事と企画である。

 人事がしっかりしていないと、本当の意味で全然回らないのだ。

 何ができて何ができないのか。どこに所属させるべきなのか。

 考えないと人選的に問題が出る。

 それに加えて、個人の性格的な相性を考える必要もあるだろう。

 同じ部署とはいっても、様々な性格の人間が存在する。

 性格的な相性というのはあまり軽視はできないものである。


「そいつらの想像力が試されるだろうな。一応目的はあるけど、結構行き当たりばったりだし」


 魔獣島の最奥にあるアイテムを確保する。という目的はあるようだが、その目的に賛同しただけのものだっているだろう。

 想定以上と言うか、予定より過剰な戦力が集まっているはずだ。

 少なくとも考えられたものだとは到底思えない。

 暇になる人間も多くなるだろう。


「こういうのって、企画部がしょぼいと功績なんて全くないからな」

「その規模の小さい功績を巡って派閥間の競争が発生するのは日常茶飯事ですからね」

「出会う前からいろいろと予測できるけど、明らかに大丈夫じゃないよな……」

「秀星様ならどうしますか?」

「そんなもん恐怖支配一択だ」


 秀星は即答する。

 恐怖支配。

 言ってしまえば、上からの圧力で下のものを無理矢理に従えるのだ。

 褒められた行為ではないとかそういう段階の話をしている訳ではないし、そんな状況を語れるような組織ではないだろう。

 ただ、一応組織の枠組みができるまではそう言ったものが採用される。

 無論、永続的に続く恐怖支配など存在しないし、そもそも、新勢力の中でもトップ連中は実力が近いだろうから、恐怖支配に反対する意見がある集団がいるとうまく進まないのだが。


「……新勢力が出来たときってさ。なんていうか、行動力はあるわけだから、いろいろと仕掛けて来ると思ってたけど、この空気だとなぁ……」


 秀星としては何も言えない。


「ま、デモンストレーションでも待つとしますか」

「期待しているのですか?」

「いや、多分雑なものになるだろうから期待はしないけどね」


 秀星は新聞をテーブルの上に放った後、背もたれに体重をかけて腕を組んだ。


 ★


「なあ、アレシア。あれってすごく面倒じゃね?」

「そうでしょうね。私も、あれほどのモンスターを見るのは初めてです」


 魔獣島を含め、世界地図に乗っていないような秘匿される領域と言うのはいくつかある。

 評議会は今までの拠点が使えなくなったので、そう言った島の一つを利用することにした。

 来夏とアレシアは、一応、その拠点を見に来たわけだが……。


「しかも一体だけじゃねえからな。オレもできる限りのことはするが、評議会のあの惨敗を見ると相当やばそうだぞ」


 その残った評議会のアジトだが……既に壊滅していた。

 自主的に評議会に残っていたプラチナランクのチームが防衛についていたはずだが、護りきるには敵の戦力があまりにも巨大だった。

 全長三十メートルに達する、禍々しい雰囲気を隠そうともしない魔竜が三体。

 そんな化け物が、評議会を襲撃したのである。


「どうしますか?」

「どうしますかって言われてもな……もうこれは、ぶっちゃけオレの手に負えないレベルだろ。評議会に恩を売るだとかそう言うレベルじゃねえぞ。オレだって勝てないんだし」

「私はそこではなく、秀星さんを呼び出すのかどうかと言うことを聞いているのです」

「秀星をねぇ……ちなみに聞くが、アレシアは勝てると思うか?」

「……分かりません」


 アレシアは少し考えた後そう言った。

 秀星の実力が高いのはアレシアも察している。

 確実に、アレシアよりも強いことは分かっている。

 そう言う雰囲気を持っているのだ。

 そして、その雰囲気が自然なのだ。作っている感じがしない。

 だがそれでも人間である。

 魔竜三体を相手にして勝てるかどうか、となると、普段から参謀役であるアレシアも判断できなかった。


 要するに、自分のスケールでは到底扱えない領域と言うことである。


「オレは勝てると思ってる」

「何か根拠があるのですか?」

「オレが視た感じ、まだ魔竜の方は、なんとなく何が出来るのか、いろいろと細かい部分まで分かるんだが、秀星に関しては、持っている何かの規模が大きすぎて、オレでも測り切れねえしな」

「要するに、根拠があるのではなく、根拠が考えられないレベルであるということそのものが根拠である。ということですか?」


 来夏のスキルは、様々なものを見るためのものだ。

 視界に存在すれば様々なものを認識できる。

 よく見えるスキルではなく、見えるものが増えるスキルなので、普通の人間がものを見る以上にいろいろと判別できるのだが、秀星の方は分からなかった。

 魔竜の方は、確かにスケールは圧倒的だし、真正面から戦ったら確実にこちらがひどい目に合うだろうが、まだ何もわからないわけではない。

 攻撃のタイミングと規模を瞬時に把握できる来夏ならば、耐えるくらいはできるだろう。


「そうなるな。説明できない強さって言うのはよくあるだろ?」

「そこまでありませんよ。来夏のスキルですら見極められないものがあるということそのものが、私にとっても初めてですからね」


 来夏はいろいろと見えるが勘もいいので、イメージとしても察することができないわけではない。

 だが、秀星に関してはそう言うレベルですらない。


「名前もまだ分からん新勢力が、これほどのモンスターをデモンストレーションで送りこんでくるとは思わなかったな」

「……ただ、あまり計画性があるようには見えませんが……」

「そりゃ、あれほど多種多様な心情を抱える組織からいろいろ引き抜けばそうなるだろ。さて、もうオレが考えたって仕方がないレベルだ。秀星を呼ぶとするか」

「私もそれでいいと思います」


 来夏はスマホをとりだし……。


「あ、圏外だここ」

「そういえばそうでした」


 専用の通信機がある場所まで走ることにした二人だった。

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