第二百八十四話
「おおおお……頭痛くなってきた」
秀星は頭を抑えていた。
現在、秀星はすべての学校に対してセフィアを放っている。
そして、現在秀星の頭と完全にリンクしているのだが、なんだかんだ言って頭が痛くなってきた。
「……なあセフィア。何か良い案はないか?」
「……少し考えれば分かることですが、私たちとリンクしている場合、視覚と聴覚だけでなく、それぞれの端末に発生しているすべての感覚神経に発生する情報が秀星様とリンクしています」
「え、マジか」
「はい」
とはいえ、実際に視覚情報は大切。
聴覚がないと何を言っているのか意味不明。
嗅覚と味覚がないと食べ物を買っていたとしても虚しいだけである。
何かの体験コーナーであれば、触覚がなかったら感覚にずれができる。
しかし……。
「全部の個体が本当に全部の感覚を送ってきてるのか?」
「はい、そのとおりです」
「絶対にいらないものあるよな」
「勿論です」
秀星はセフィアは確信犯なのではないかと思ったが、恐ろしいほど裁量権を与えているのでそうなるのは必然である。
「絶対いらないなっていう感覚は切ってくれ」
「畏まりました」
次の瞬間。情報がかなり軽くなった秀星。
「ふう、結構変わるもんだな」
もちろん、視覚と聴覚は必須なので切ることはないが、他の感覚神経であってもそれなりに情報を集めているものだ。
もともとセフィアの端末は全て感覚神経の鋭さが人を超える。
こうなったところで何も不思議はない。
「他の学校でもいろいろやってるなぁ……特にアース・スクールの『生徒会直轄工房』っていうのか?すごいなここ」
「アース・スクールでは、ドリーミィ・フロント所属の糸瀬竜一様が生徒会長を努めていたという時期があります。その影響でしょう」
「あそこか。アトムが持ってるのは神器だが、他のメンバーの装備は全部あいつが作ったって言ってたな」
かなり良い作りになっている。
「ただ、ちょっと不思議に思うのは、俺が持っている十個の神器と、竜一が作った装備。どっちも設計思想が似てるような……気のせいか?」
何度か思ったことだ。
というより、装備だけでなく、魔法具もその雰囲気がする。
「……まあ、考えてわかるようなことではないか」
秀星はそれについての思考を放棄。
「……優奈がさ。『狙われるとしたら文化祭じゃなくてもっと後にある発表会だ』って言ってたけど、どうやらそれは『文化祭が狙われない』ということではないみたいだな」
秀星は、校舎の裏に隠れて様子をうかがっている『明らかに自分の空気を隠そうとしている男』を見る。
「なんていうか、隠れてやればバレないって思ってるからだろうな」
「そうですね。秀星様くらいになれば、『隠れようとしている存在がいる空間』に対して違和感を感じることが可能なので、バレないということはありえないのですが……」
「まあしかもアレだ。店に入れて偵察させてるセフィアの端末も、普通の魔戦士と比べたらかなり強いっていうのがな……」
というより、イリーガル・ドラゴンの指導を受けて強くなった秀星のクラスメイトたちも、セフィアには絶対に勝てない。
普段から個人に対して情報を集めているからだ。真正面から叩くこともできるし、弱みを使って脅すことも楽チンである。
流石に神器持ちは少々辛いかもしれないが、神器同士の相乗効果という点に関して、一番効果を発揮するのがセフィアだ。
まあもしも神器と相乗効果を合わせたセフィアでも無理ならそれはそれで構わない。
神器にもいろいろとスペックに限度があり、セフィアは戦闘に対して三割もないのだ。
もっと強い『大量』の『人型』の戦力くらい秀星は持っている。
「まあいいか、多少の緊張感がある程度で収まって罰が当たるわけじゃないし」
「そうですね」
「まあ、何事も平和が一番だ……お、全部見終わったな」
リンクを切る秀星。
「面倒なことが起こるまでダラダラしようか。セフィア。文化祭の売店で売られていたやつをアレンジしたものをよろしく」
「畏まりました」
自前の戦力を動かすことに変わりはないが、秀星本人が出ることはない。
しかしそれでも、周りから狙われていようとぶっちゃけ平和。
『環境を快適にする』セフィアがいる時点で、もうすでにそういうものなのである。




