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第二百七十九話

「なかなかすごい売り上げになったね」


 アレシアと羽計と風香がまとめた本日の売り上げを見て、頷きながら満足した様子の雫。

 文化祭は三日間。

 初日に名前が売れて、明日からはもっと並ぶかもしれないが、まあ多かったとしてもうれしい悲鳴と言うものだろう。


「特に……『支出』が少なすぎる。と言う部分があるな」

「そうだね。あの自動配膳機。何も追加しなくても使い続けることができるから、追加で物を買いに行ったりとか、そう言ったことが全くなかった」


 客が多いのはいいことだが、食事などのサービスの場合、保管している食材が足りなくなることは十分に考えられる。

 人数が少ない中で動かしているのなら尚更だ。

 メイド喫茶と言う店舗では、正直、集中力のリソースは接待以外に向けたくはない。


「それにしても驚きました。剣の精鋭の皆さんは、今回のような場合でも精鋭なんですね!」


 美奈が感激している。

 とはいえ、感激している『剣の精鋭の接待能力』というものに、美奈がついていけているのは事実なのだが、そこは今は放置するとしよう。

 やたら神経が太い高校生がそろっているが、それはそれとして、小学五年生の美咲まで要領よくやっていた。

 正直、ここまで出来るのは珍しい。


「来夏はそういったところも見て私たちをスカウトしたからよ」


 優奈が説明するが、これに関してはそうとしか言えない。とも言える。

 実際、『人事』と言う視点で見ると、来夏の『悪魔の瞳(ラプラス・アイズ)』は最強である。

 圧倒的な『視覚情報拡張』の影響で、副産物として『膨大な鑑定能力』を持っているのだ。


 一つの組織の中で、『仲の良さ』というものは確かに重要だが、前提として、必要な能力が揃っているかどうかという問題である。

 組織が抱えていける人数は限られており、必ず『枠』がある。

 もちろん、運営が完全にマニュアル化されているのなら別だが、多くの場合はそういうものではない。

 来夏だって厳選している。


 本当の意味で、『自分のことは自分でできて、要領がよく、根本的に神経が太く、メンバー間で不和を生まない人間』かどうかがわかるのだ。

 ちなみに、『目の前にいる人間の【人を見る能力】もわかる』ので、例え来夏本人が初対面でも、呼んだメンバーによっては即採用されることもある。

 秀星が知る範囲では、エイミーは確実にそれに該当する。


 そんな事情もあり、剣の精鋭というチームは基本的にどこに行っても強い。

 メンバーの中には確かに自由人だったり馬鹿だったり腹黒かったり真面目だったりといろいろあるが、一番個性が強いのは来夏である。


「ああみえていろいろ考えていますからね……最も、途中から考えるのが面倒になっていきあたりばったりになるのですが……」


 いろいろと根本的な部分が見えるあたり、『二手先三手先』は推測しているが、『一手先』はほとんど見ていない。

 それが来夏という人間である。


「それはそれとして……結構人が来るものですね。ただ一部、客のほうが私達の扱いに慣れているような、そんな気がしました」


 まあ言うまでもなく、エイミーが思い出しているのは真のオタクである。

 もちろん、真のオタクの定義など誰にもわからないのだが。


「メイド喫茶なので、そういうこともあると思うです」

「それもそうですね」


 もちろん、エイミーだってオタクというものがいることは知っている。

 だがその上で、『あの慣れはなんだ』と思っているのだ。

 なんだか、自分たちが立つことができない領域に立っているように見えるのである。

 よくバカにされることもある人種だが、ぶっちゃけ、オタクというヘビーユーザーのいないサブカルチャー業界など悲惨だろう。

 人間というものは時に、自分にとって必要なものをバカにするものである。


「あ、もうそろそろ。育美さんに会う時間だね。行こうよ!」


 雫がそう言うと、全員が腰を上げた。

 基本的に腰が軽い。

 まあそれも、来夏の厳選の結果である。


 ★


「『意思力』ってやつ。なかなか画期的な考え方だな」


 秀星は来夏と天理と話していた。

 すでに時刻は夜。

 基樹は夜でもやっている学校外の店でふらついているようなので、バッタリあった来夏と天理と話している。


「魔力そのものが『効率的で意味のあることをする状態』だってことだと思うが……ちょっと大きすぎねえか?」


 来夏は確かに、『意思力』という概念を評価している。

 ただその上で、それほどの技術を扱えるのか、という疑問があった。


「そうだな。モンスターを意図的に生み出す。などということが可能だとは思っていない者がほとんどだろう。はっきり言って、新しいジャンルになる。そんな技術を使えるとは思えん」


 天理としても、『新しい概念』として考えているようだ。


「別に、全く新しい概念ってわけじゃないと俺は思う。第一、『モンスター生成スキル』っていうのは確認されているわけだ。そして、勝人はプロセスを発見し、その原因に対して『意思力』と名付けた。それだけのことだろ」

「……ん?あの理論は『モンスターを生成する』ということの方が副産物に見えるが、そっちから研究が始まったのか?」

「いや、そういうわけじゃねえな。秀星が言いたいのは、『意思力を持つ』=『思考可能な状態』ってことだ。研究が進めば、『現在存在するモンスターはすべて意思力を持っている』という定義が確立されるかもしれないってことだろ」

「そうだ」


 秀星は頷いた。

 天理が驚く。


「これはまた……根本的な話だな。だが、使いにくいことに変わりはないのでは?」

「いや、『モンスター生成スキル』は現実として存在し、『スキルに対する知識が深まれば発動効率が上がる』っていうのが一般的な意見だ。で、その『モンスター生成スキル』が『意思力を操る』ということが実証されると、そのスキルの発動効率が上昇する。そして、その生成過程を観測・研究し、更に発表された理論がスキルに影響を……みたいなループも考えられるから、少なくとも『必要とされない』ってことはないだろ」


 来夏がフム、と頷く。


「要するに……『最大効率』を知るってことだな」

「まあまずその段階に達しないと実用的じゃないっていうこともあるな」


 天理は頷く。

 ここで、来夏が思い出したように言った。


「そういえば、あの話を聞いたやつが『人工知能』とかなんとかコメントしてたの見たぜ」

「……それ、勝人本人に聞いたわけじゃないな」

「ああ。あくまでも掲示板の話だった」

「だろうな」


 秀星は頷く。


「人工知能か……だが、言ってしまえば『意志力』は魔物のようなものなのだろう。『人工知能』と呼べるほど情報が集まったら、自我が宿るのではないか?」

「「……」」


 天理は秀星と来夏から向けられる白い視線にあわてる。


「……な、なんだ?何か変なことを言ったか?」

「天理。人工知能を研究している奴はあくまでも、『知能』を再現したいのであって、『人間』を作りたいわけじゃないんだぞ」

「だな。まあ、本屋に行くとそういった哲学的なことを書いてる本が多いから勘違いしてるやつ多いけどな。で、ここでいう『知能』っていうのは『性格』が除外されたものだぞ」


 『人類破滅が最適解』だと判断する人工知能があったとしても、【『人類破滅が最適解』という結論を否定、次善策を考案せよ】という命令が入った時点で、人工知能というのは次善策を探るものだ。

 確かに『人類破滅が最適解』などという結論が出た場合。何か人工知能が人間に対して恨みがあるのではないかと一瞬思わなくもないが、あくまでも『現在の人工知能が可能な収集と分析の結果として出た最適解』であって、別に『自我』が宿るわけではない。


「ふ、ふむ……」

「あくまでも『問題解決のための道具』っていうだけの話であって、『自我が宿るかどうか』は別に興味ないし関係ないんだよ」


 とはいえ。


「まあ、どんなルートで再現しようとしているのかしらんが、『意志力だけで人工知能に似たものを作る』っていうのは理論上可能でも現実的じゃないと思う」

「どういうことだ?」

「勝人が言う限り、『意志力』は『統合体』だからだ」

「なるほど」

「?」


 来夏は理解し、天理は首をかしげる。


「どういうことだ?」

「『別々の比率で魔力が濃縮注入された部品』が合わさった『統合体』が『意志力』なんだろ。あの二色ペンでいえば、全てのパーツに魔力が宿ることで、それを『意志力』というものが『最適解』を出して、ペン先が引っ込んだり出たりするわけだ」

「ということは……『最適な結論を出す人工知能』というものを意志力で再現しようとすれば、『情報そのもの』に魔力を注入することが必要になるということか?」

「そういうことだ」


 秀星はさらに課題点を挙げる。


「そもそも……『意味があること』や『効率的なこと』をなぜ判断できるのか。それを勝人は言わなかった。たぶん正確には分かってないんだろ」

「……ふむ、私にわかりやすくまとめてくれ」

「『意志力だけで最適解を出させる』場合、今の技術だと『二色ペンが限界』だってことだ」

「つ、使い物にならない……」


 ただし、ここにスキルがかかわってくると話は変わる。

 だが、結論が出るのはかなり先になるだろう。


(ただ……あの勝人ってやつ、アイツ(・・・)に似た雰囲気があるんだよなぁ)


 唸っている天理のそばで、秀星はそんなことを考えていた。

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