第二百七十五話
秀星から見て、ものすごく上の方に何かがあるわけだが、それはこの際置いておくことにした。
見た瞬間に『降りて来るまではどうしようもないもの』だと分かったからである。
「そういえば、皆はどんな風に楽しんでるんだろ」
剣の精鋭に美奈を含めたメンバーで、メイド喫茶としているのは何度も聞いたことだし言ったことだ。
喫茶店で出す程度のものを作ることが出来る自動配膳機を作っておいたので、接客以外には問題は出ないはず。
それに、魔法学校と言う、生徒のほぼ全員が戦闘力を持っている環境でオタクを敵にまわすとそれなりにやばい。推しの声優のライブがあれば諭吉を溶かすのだ。ぶっちゃけ、オタクは『何か熱中できるものを持っているか』という点において最強民族であり、彼ら本人をバカにするならまだしも、そのオタク文化そのものをバカにした時は何が起こるかわからない。
女心とオタクの情熱は秀星にも理解不能である。
剣の精鋭のような顔面偏差値の高いメイド喫茶であれば、絶対にオタクが味方になってくれるのだ。
そして真のオタクはそれ以上は踏み込まないのだ。夢を見ることは若干あるが。
(まあ、異世界では、二次元にしか興味がなくて、リアルでは淫魔族の誘惑すら一切通用しないやつもいたが……)
まあさすがにそこまで行くのは少数だと思いたい。
大多数だったら少子高齢化が加速するので。
話を戻すが、要するにあのメイド喫茶の環境に嫉妬するものはいても、明確な敵はいないということである。
「さて、基樹とかは何処に行ってるんだろうな」
魔力を探って探してみる。
「……体育館?」
基樹がいたのは体育館だった。
スポーツ的なものを何かやっているのだろうか。
秀星は気になって行ってみることにした。
体育館の立札にはいろいろと表示されていたが、『バスケット!在校生とOBを君の才能でぶち抜け!』と書かれた欄が気になった。
「……」
試しにバスケットコートに行ってみる。
そこでは……。
「うおおおおおおおりゃああああああ!!!!!」
ユニフォームを着た来夏がゴールをぶっ壊す勢いでダンクシュートを決めていた。
「……なにやってんだこれ」
近くにいた生徒に聞いてみたところ……。
まず、基樹は転校してきたため、バスケ部の部員ではないが、在校生である。
そして、来夏は実際に、ジュピター・スクールのOBである。
秀星はこのタイミングで、『OGじゃないのか?』と聞いたところ、聞かれた生徒は『フッ』と笑った。
どうやら、踏み込まない方がよさそうだったので秀星はスルー。
「あとはパンフレットを見ろ」
「わかった」
と言うわけで、近くにパンフレットがおいてあったので見ることに。
こんなことがかかれていた。
レベル1 中等部一・二年生が相手だ!たまには先輩として良いところを見せよう。
レベル2 中等部三年生が相手だ!普通ならたぶんこのあたりが限界。
レベル3 高等部一・二年生が相手だ!これに勝てばレギュラーに近いかも。
レベル4 高等部三年生が相手だ!これに勝ったら逆にスカウトしたい!
レベル5 世の中には理不尽と言うものがある。そしてそれは身近にあるものなのだ。
(……)
大会と言うものは中学と高校に分かれているものなので、中学のレギュラーメンバーがレベル2に、高校のレギュラーメンバーがレベル4と言ったところだろうか。
なにやらレベル5の説明文だけ世界の真理のようになっているが、それに関しては見ての通りと言うことなのだろう。
この時期なら、普通は高校三年生は引退しているはずなので、本気で進路を考えているのなら今も勉強中かもしれない。
いろいろあると思うが……このレベル5と、ユニフォームを着た来夏を見る限り、そういうことなのだろう。
ちなみにレベル5は、相手は来夏と……基樹だ。
この二人しかいない。
だが、凶悪的な身体能力を持っているのは二人とも同じであり、『悪魔の瞳』を持つ来夏と、元魔王故の反射神経を持つ基樹。
はっきり言って普通ならどうしようもない。
「なるほど、ちょっと面白そうだな」
丁度、前のチャレンジャーが終わったところだった。
秀星は上着を脱いで、ネクタイを外してコートに入る。
「おーい、次は俺がレベル5でやっていいか?」
その声を聞いた来夏と基樹が秀星を見る。
「おっ、秀星か。相手に取って不足はねえぜ」
「バスケで勝負か、いいだろう」
先ほどプレイしていたはずなのだが、またコートに入る二人。
並んでいる人は他にいなかったので、三年生の人は大丈夫だと思ったようだ。
そして、秀星VS来夏という、下手したら死ぬんじゃないかという場面で、ジャンプボールのために立つ三年生。
英雄である。
「……思ったんだが、バスケのジャンプボールって、規定では『ジャンパー二人が届かない距離』なんだよな。俺、体育館の天井まで行けるんだけど」
「あ、オレもだ。てかそんなルールがあったんだな」
三年生の顔が『え、俺、天井まで投げんの?』と言いたそうな顔になった。
「あと、ジャンプボールって掴めないんだよな。俺一人なんだけど」
「先制点くらいでメリットの内に入らねえだろ」
「まあそうだが、掴むぞ」
「良いぞ」
というわけで。
三年生が思いっきりボールを上げた。
というか、実際に天井にぶつかった。
次の瞬間、ボールは秀星が掴んだ。
……天井から二メートルのところで。
「おりゃああああ!」
そのままゴールめがけてボールをブン投げる秀星。
はっきり言ってギャグマンガのような行動である。
そして、シューズの紐を結び直していた基樹は驚いてジャンプしようとして紐を踏んで転んだ。
そのままボールはゴールの中へ。
「よし、まだまだ行くぜ」
次。
基樹が来夏にボールを投げて、来夏が受け取る。
当然張り付く秀星。
「さーて、どうやって抜いてやろうかな」
「やれるもんならやってみろ」
秀星は来夏の瞳が金色に光っていることを確認。
確実に『悪魔の瞳』を使っている。
「……っ!」
「――っ!」
いろいろとフェイントをかけたりしている来夏だが、元がバスケット経験者ではないのでかなりブレっブレである。
まあ秀星も人のことは言えないのだが。
才能があるというより運動神経がお互いに抜群なのでそれで何とかしている感じである。
「……チッ」
遂にしびれを切らした来夏。
スナップだけだというのにすごい勢いでボールが基樹の方に移動。
秀星の目算が勝手に『時速二百キロメートル』であることを確認。
はっきり言って地獄のような数値である。
思ったより早かったのか、基樹はちょっと驚いたようだが、すぐに手に取ってドリブルしはじめる。
のだが、あまりにもスピードが速い。
秀星は基樹の目を見る。
(……ん?なんかビリッとしてるような……あっ!アイツ!)
秀星は気が付いた。
そして、ダンクしようとしていた基樹のボールを思いっきり弾いた。
「ゴルア!勝手にゾーンに入ってんじゃねえ!」
「うおぅ!」
止められると思っていなかったのか驚いている基樹。
その目は黒いイナズマが走っているかのようにビリッとしている。
「まさか止めてくるとはな……」
「フッフッフ……まあ俺も入れるからな」
そういう秀星の目からも、イナズマが両目から五本ずつ見えている。
うち四本は黒で、一本は白だった。
……イナズマにもメッシュが入っているのだろうか。
「面白い。なら、最初からそのつもりでやってやる」
「かかって来い!」
お互いに構えて、即座にまた始める秀星と基樹。
まあ正直……周りからすれば訳が分からん感じだった。




