第二百七十三話
文化祭の出し物というのはそれぞれのグループの中で完結するものだ。
特に、魔法に関する研究会となれば尚更である。
ただ、何事にも『例外』だったり『前例』があったりするものだ。
似たようなことを研究している研究会が『レジュメもどき』を持ち寄って、正しいかどうかの確認をこっそりするというのは珍しい話ではない。
誰しも不安になるものである。
暗黙の了解があり、『相手のマイナスを指摘する』のであって、『お互いのプラスには触れない』という部分がある。
出し物の売り上げや来客人数は順位が出る。
厳密には、大きく公表されるのは上位の研究会だけだが、見えない水面下でもいろいろ競争はある。
こっそり会ってまで話をしているのだから、足を引っ張っては意味がない。
ただし、塩を余分に送ることもない。
中にはメールだけでそのやり取りをすることもあるが、そんな暗黙の了解があるのだ。
「言いたいことはわかるけどさ。だからって俺にメールが殺到するのはどういうことなんだっていう話だよな」
秀星はメールを処理しながら呟く。
「わからないわけじゃないんだけどな」
良樹も槙野家に流れる金を自分のところに流れるようにパソコンとにらめっこしていた。
「というより秀星。スマホなのにタイピング早すぎないか?しかも、ぶっちゃけスマホが処理しきれているのか不安になるくらい早いんだが」
「実は全く問題ないんだよな。ちょっと改造して処理速度上げてるから」
「ちょっとか……原型はどれくらい残ってるんだ?」
「……ぶっちゃけフレームだけだな」
「フレームだけ……画面まで違うのか?」
「もちろん」
「もちろんって……まあ、そこは踏み込んでも無駄か」
良樹はため息を吐いた。
「で、良樹は何が出し物をするのか?」
「予定はないな。というより、研究会でも文化祭で発表しないところもあるくらいだし」
「まあ、そういうもんか」
どんな分野に行こうと、それを趣味としてのレベルで楽しむものはいる。
ぶっちゃけ、そういった人間も必要だ。
趣味として楽しめる程度のことが許されていないと、人が集まらないため市場が広がらない。
「そういう秀星は?」
「俺もブラブラする方だな。ていうか、何かあったときに出る必要がある確率が高いし、俺が出し物をやるってなったら抜け出せないだろ。だったら、出し物ができるとしてもやらないほうがいい」
「……名前を売りすぎるのも問題があるな」
「良樹にいいことを教えてやる。優れていることだけをアピールすれば周りから使われるだけになるが、怒らせたらヤバイこともいっしょにアピールすると強制はされないんだ」
「……何かあったのか?」
「何もなかったらこんなことは学ばんよ……」
秀星は少し疲れたように言った。
「それにしても、なんか殺伐としてきたな。なんかメールでもかなり踏み込んだことを聞いてくるし」
「だろうな。この学校は体育祭がないから、ダンジョンの外で何かを示そうと思ったら、この文化祭を使うしかない」
「あ、体育祭ないの?」
「それだけ元気があるのならダンジョンで暴れろ。だそうだ」
「……そうか」
「まあ特に、自由参加のパフォーマンス会場だな。特殊なスキルを持っているやつは時々派手なことをやってる」
「極端な専門性っていうのは必要になることもあるからな」
「そういうことだ」
もちろん、そういった機会があっても利用できないものや、伝えきれないものもいるだろう。
しかし、この文化祭は伝える力の重大さを知るためにも開かれているので、グチグチ言っても仕方がない。
第一、どんな会社のどんな部署でも、適正な人材は揃っていないもので、それをスカウトするために人が来るのだ。
『私は良い人なのでスカウトしてください』なんて言っても通じないのは普通である。
そもそも、高校や大学にとって、生徒というのは一応金を払ってくれるお客さんだが、就職となると一変するのだ。高校や大学は基本的に、入れるために試験をするが、会社というものは落とすために試験をする。
文化祭と言う機会を使って、『自分はこんなことができます!』ということをアピールすることでスカウトされた優秀な人材がたくさんいるそうだが、そういった人間はそういうことに気がついている。
「にしても、魅力的な部分を増やすんじゃなくてダメな部分を減らすためにメールしてくるっていうのがな……」
「そんな感じなのか?メールが来たことがないからわからないんだが」
「ああ、そんな感じだ。しかも、違うとわかればそれをレジュメから消そうとしてくる。なんで失敗をしたのかを考えないと同じ失敗をするっていうのに……」
「いや、一つでも多くの魅力を使うために時間を使うのは当たり前だろう」
「まあ、それもそうだけどな」
あまり失敗ばかり語ると受けが良くないと思う人はそれなりにいるものである。
「まあでも……俺もこんな時期があったなぁって思ってメール見てるとちょっと感慨深いね」
「……そうか」
良樹はそれ以上は聞いてこなかった。
秀星は『わざわざ話題にするようなこと』がなくなり、良樹も同様だ。
そのまましばらく、二人の作業音だけが響くのだった。




