第二十七話
「犯罪組織のことなんぞ、今のオレたちが知ったことか!オレたちだっていろいろやるべきことはあるんだぜ!」
という来夏の有りがたいようなありがたくないような、少なくとも計画性と言う概念が行方不明になっている言葉とともに、おっさんに対する考えを思考の隅の方においておくことにした秀星。
「で、やるべきことってなんだ?」
秀星がそう言うと、来夏は口を閉じる。
近くにあった椅子にどっかりと座って、背もたれに体重をかける。
若干椅子が悲鳴を上げているところを見ると、重いようだ。
そして、来夏はアレシアをチラッと見る。
アレシアは微笑みながら代弁(?)しはじめる。
「今まで私たちは、評議会と言う組織に属していました。しかし、これからはフリーとしての活動になります。大きな組織に属していないチームの活動範囲は狭くなりますからね」
そう言うアレシアに対して、『なんていうか、いつもこんな感じなんだろうな』と言う雰囲気を感じとった秀星。
誰も突っ込まないので、秀星はそのあたりのことは置いておくことにした。
「要するに、評議会に所属はしていなかったが、実力派と言われているチームと活動内容がほぼ同じになるってことか?」
「そうなりますね」
することが無いわけではない。
むしろ、秘密裏に進める必要があるからと言う理由で魔戦士を厳選してきたこともあって、やや人材不足だ。
「で、結局のところ何をするんだ?」
「……何をするんだっけ?」
来夏もアレシアに聞いている。
参謀と言うか、アレシアはそう言う立場なのだろう。
「基本的にフリーの魔戦士は、倒しても倒してもモンスターの出現にキリがないと言われているスポットで活動しています」
「で、そこで手に入れた素材とか魔石を、マーケットに流してるって感じ。ぶっちゃけ、持っていても仕方ないし」
「美咲がポチとあったのも、そういったスポットで戦っている時だったですよ」
「フリーなのは魔戦士だけではなく、研究施設もそういったものが多いからな」
「私もそういう研究所の出身だからね。評議会みたいにまとめ買いできないから若干単価が高くなるけど、悪いもんじゃないわよ」
アレシア、優奈、美咲、羽計、千春が次々と情報を開示してくれた。
「お前ら、いろいろ考えてるんだな」
「来夏は任務が終わるとすぐに居酒屋に入ってくもん。あまり見てないんじゃない?」
優奈が呆れているが、別に不自然と言う声色ではない。
見た目通りの豪快さと言うことか。
気にしても仕方がない。
「とにかく、そのスポットに行くことになるわけだな」
「とはいっても……いろいろ問題はあるわよ」
「移動手段も、猫缶も足りないです」
「ふにゃあ~」
秀星の確認に対して、千春、美咲、ポチが続く。
実際、マシニクルの付属装備として移動手段くらいはあるし、セフィアが資金を集めているだろうから、唯一年齢的に問題のない来夏が免許をとれば車くらいは買えるだろう。
ただ、それだけではダメだ。
魔装具に関していえばある程度千春に知識があるとはいえ、プラチナランクチームであった剣の精鋭のための装備となると、専門的なものが必要になる。
「コネとかないのか?」
「あっても、それどころじゃねえだろうな。人数が少ないから、自分たちでどうにかしてくれって言われるだろうぜ。大所帯のチームが多いからな。そっちの対応をどうするのかで揉めているんじゃないか?」
剣の精鋭は功績が大きいのだが、人数が少ない分、受けることが出来る依頼の数の限界が他のチームより少ない。
依頼達成というものを数値化してポイント化するとなると、確実にポイント数で負ける。
質が高いが数が少ない。
少数精鋭と言うのはぶっちゃけそんな感じなのだ。
「八代家に頼るのは?」
「無理。父さんが言ってたけど、評議会が実質的に機能しなくなって、名家である八代家でもいくつか抱えて欲しいって案件がいろいろと舞い込んでるから、それどころじゃないと思う」
「八方ふさがりじゃねえか」
来夏に一番頑張ってほしい状況ではあるのだがな。
「ま、今は解散だ。また何か決まったら連絡する」
来夏がそう言って、誰も反対しなかった。
★
「しゅうせいさ~ん」
「おー……相変わらず気持ちいいな……」
アニマルセラピーを感じながらライナを撫でる秀星。
「なんでこの小僧が来るたびにこんな雰囲気になるんだか……」
「仕方がないかと」
「そういうことを即答するのはどうなのだ?セフィア」
ガイゼルがぼやいて、セフィアが即答し、ナターリアが突っ込んだ。
というわけで、ガイゼルがいる洞窟に入ってきている秀星である。
なんとなく会おうと思って来てみたら歓迎された。
少なくともライナにはな。
「癒される……」
ライナを撫でている秀星の顔はにやけている。
「疲れているのだな。秀星」
「まあな」
秀星としても、最近はどう言えばいいのかわからない感じだった。
物事にはテンプレというものがある。
裏社会に魔法的な部分が関わっている。となると、『現代ファンタジー』的なものになると思うのだが、そう言ったもののテンプレはいろいろあるだろう。
だが、こんな早々に所属している組織が壊滅するというのは、秀星にとっても想定外だった。
秀星が知っているテンプレではそんなことはない。
「zzz……」
「あ、ライナが寝ちゃった」
「ライナは良く寝る子なんだよな……」
「生まれたばかりなんだから当然だろう」
さて、そのあたりの話は今は措いておくとして。
「で、評議会が壊滅した。と言う話だったな」
「ガイゼルとナターリアは、評議会のことを知っているのか?」
「俺は嫁から聞いた話しか知らん」
「私はエイドスウルフの中で情報を収集はしている。が、大したものでもない。この町は評議会の連中の活動が薄い」
要するに。
ナターリアは、森の中における八代家の雰囲気と会話から察することが出来る程度の情報。
ガイゼルは、あちこちを飛び回る妻が、道中で小耳にはさんだ程度。
と言ったレベルのものとなる。
人の社会の裏に生きているし、そうなるのも当然といえば当然だが。
「ま、大きい組織なんだよ。魔戦士の全体の三割くらいが、評議会に所属していたからな」
「三割か……微妙だな。大きいといえば大きいが、周りが手を組むか、評議会の中から人材を引き抜けば、対抗することはできないというわけではない割合だ」
「だな。中途半端な感じにいることで周りと喧嘩でもしないようにしていたのか?俺としては、バチッとリーダーだと分かる組織にしておくがな」
「そこは、結成当時の状況もあるのでしょうね」
セフィアの言い分も考慮するが、秀星は、判断を間違えたのだということしか考えていなかった。
ナターリアが何かを思い出したように呟く。
「そう言えば、引き抜くことで新たな組織を作ったということになるだろう。だが、目的は何だ?」
「俺は知らん。セフィアは何か知ってる?」
「はい」
即答するセフィア。
まあ、そうだよな。セフィアだもん。
「簡潔に教えてくれるか?」
「秀星様は『魔獣領域』と言うものを御存知ではありませんよね」
「え、確認なの?」
「はい」
「まあ知らないけど……」
秀星としてはどういえばいいのかわからなくなった。
ワールドレコード・スタッフをとりだす。
「そうですね……太平洋の……これです」
ドンドン縮小と移動を繰り返していき、目的の島を発見するセフィア。
そこには、日本くらいの陸地面積の島があった。
「……あれ?こんな島。世界地図載ってたか?」
「載っていませんよ。衛星写真に写らないというわけでもなく、改竄されています」
秀星は唖然とする。
「ここが魔獣領域なのか」
「はい。多くの大陸で、人間がモンスターの生活領域を制限しているのが現状ですが、この魔獣領域は、存在するすべての生物がモンスターです」
「……そりゃまた面倒な感じだな。あれ、千春が言ってたスポットってこの島のことか?」
「ここはその一つです。秀星様にわかりやすく言えば、日本にも、『ダンジョン』と呼べるものが存在します」
「え、地球ってダンジョンあるの?」
「はい」
秀星は地球にもダンジョンがあったことに驚き、それに加えて、『何で教えてくれなかったの?』という視線をセフィアに向けた。
セフィアにはスルーされたが。
「ただし、最近はマッピングがほとんど行われているもので、新種のダンジョンは発見されていませんが、今はその話は後にしましょう。この魔獣領域ですが、実は所有すると明言している国が魔法社会でもいない曰く付き物件なのです」
「ほうほう」
「環境の変化はほとんどありませんが、モンスターが強く、その構造も弱肉強食です。モンスターを倒した時のリターンも大きいのですが、リスクは高いです」
「俺がそれなりにまじめにやったらどうなるんだ?」
「食物連鎖の頂点に立てるでしょうね」
「おもしろくない……」
セフィアは大体のことを即答してくる。
おそらく、その判断も大雑把に言ったわけではないのだろう。
「その新勢力は、魔獣領域に拠点を構え、そして、最奥に存在するガラクタを手に入れるために作ったものです」
「最後の最後にガラクタって言っちゃった……」
「神器に比べればガラクタですからね」
それを言うのは反則と言うものである。
「人間にもいろいろあるのだな」
「俺達みたいに、もうちょっと大雑把に生きていけないのかね?」
「……まあ、無理だろ」
それはそれとして、魔獣領域と言うものが存在すること、新勢力がその最奥にある何かを狙っていることは分かった。
「で、なんで評議会が潰れたんだ?聞いた感じ、スカウトだけでいいと思うんだが……」
「優秀な人材を引き抜くとは言いますが、人間と言うのは、安定した地位を手に入れると、それを手放すことを嫌がるものです。中には、洗脳や催眠という手段を用いて引き抜いた者もいれば、犯罪組織から引き抜いたものもいる。魔法社会の中でも、確実に評議会が敵に回るレベルなのですよ」
「あとで面倒になるから先手必勝で倒しちゃったわけか」
秀星は少し頭をひねって、結果的にこう言った。
「計画が何か緩いな。二手先三手先は考えているけど、一手先は考えてないっていうか……」
「「それただの行き当たりばったりだろ」」
ナターリアとガイゼルも、魔法社会に生きる人間の評価が何段階か落ちたような気がした。