第二百六十三話
六番通り。
そこでは、宗一郎と英里が戦っていた。
いつも通りというのか、宗一郎は神器の全身甲冑を着ており、英里は棍棒と鉄ブロックが入ったジュラルミンケースを持っていた。
宗一郎はいいとしても、英里はどうにかならないのだろうか。しかも血糊付きである。
「会長。どうしますか?この相手」
「いうほど大した魔戦士はいないようだ。普通に戦っていれば勝てるだろう。英里は遠距離攻撃は可能か?」
「この棍棒には巨大化の機能が備わっています。こんなふうに」
そう言うと、英里が持っている棍棒がものすごく大きくなった。
全長二十メートルくらいである。
「そういえばあったなそんな機能」
「いざとなればこのケースの中の鉄ブロックを投げつけます」
「地味だがされると嫌な攻撃方法だな」
そんな感じで溜息を吐く宗一郎だが、英里が棍棒を大きくしたことで襲撃者たちはびっくり仰天である。
「さて、そろそろ戦ったほうがいいかな……ん?」
遠くから何かが飛んできているようだ。
「戦車?」
「戦車ですね。一番通りで来夏さんが戦車を相手にしていると聞いていますが」
「ここまで飛んできたのか?」
「じゃなかったら飛びませんよ」
「まあそれはそうなんだが」
「とにかく邪魔ですね」
英里は棍棒を振りかぶって、思いっきり振り下ろす。
飛んできた戦車は、まるで巨人が振り下ろした棍棒が直撃したかのように空中でバラバラになった。
「相変わらずすごい威力だな」
「感覚的にはこれと同じくらいの力でいつも会長を叩いているんですけど」
「ん?ああ、私は頑丈かつ柔らかいからな」
「金属だったら最強ですね」
「人体でも最強だと思うけどね」
「人体でも最強……会長、一番通りからここまで戦車を投げ飛ばせるんですか?」
「ゴメン。撤回する」
ちなみにこのとき、二人は気にしていないが襲撃者たちは阿鼻叫喚であった。
空中でバラバラになる戦車という、インパクトが強すぎるものをみて、こう思ったからである。
『殺される』と。
当然だろう。だって人の体は戦車より頑丈ではないのだから。
……まあ宗一郎は頑丈のようだが。
それはおいておくとして、正直、こんな文字通りの化物がいるとは思っていなかったのである。
「あ、また飛んできた」
「これ、私達以外の大通りにも飛んでいってると思います」
「私もそう思うが、たしかに邪魔だな」
宗一郎はミサイルランチャーを出現させると、一発だけ撃った。
戦車に着弾すると大爆発が発生し、またバラバラになる。
「ミサイル一発でこの威力はすごいですね」
「君の腕力はこれに匹敵すると思うが」
「ああ、私の場合は、あれは近接攻撃で、武器が大きいので遠心力があるからですよ」
「遠心力っていうけどそんなに強いの?」
「梃子の原理がやたら強いと神聖視されていますが、梃子の原理が強いのなら遠心力だって強いですよ」
「なるほど、納得した」
されてたまるか。
「あ、皆さん逃げ出しましたね。どうしたのでしょうか。普通のフィクションでもギャグパートならこの程度の筋力は当たり前ですよね」
「いや、そこは私にはわからないが」
「いずれにせよ、来夏さんを相手にするのなら、ギャグ漫画を読んで、ギャグ漫画の通りの現象が起こる筋力を備えていると考えておくべきですよ。予習不足ですよ予習不足」
「そういうものか?」
「恐らく、まあとりあえず、殺すなと言われていますが逃がすなと言われているので、ちょっと捕まえてきます」
棍棒を大きくしたまま突撃する英里。
当然のことだが、まるで地獄そのものがやってきたときのような絶叫が巻き起こった。
「さて、私も行こうか」
地獄パート2。
なんと言うか……なかなか不憫である。
ちょっと棍棒をちらつかせるだけで、中には失禁して気絶するものもいた。
次に起きたときは牢屋の中だろう。
そんなご愁傷さまな状況だった。
襲撃者たちの感想としては、現実にいるなら物理法則には従ってください。というものである。
ちなみに。
「英里、そのような棍棒を使っているのはいいが、一体どんな腕なんだ」
「さわってみますか?」
棍棒をおいて、ジュラルミンケースをおいて、左手で右腕の袖をめくる英里。
高校二年生の女子としては小柄な英里。
腕は細く真っ白である。
宗一郎はちょっとつついてみる。
普通にプニっとした。
「普通だな」
「当然です」
んな訳あるか。
「あ、来夏さんの腕を触ったことがあります」
袖を戻して棍棒とジュラルミンケースを手に取りながら英里は言った。
「ほう」
「鋼みたいでした」
「沙耶ちゃん大丈夫なのか?」
「沙耶ちゃんを抱いているときは普通にプニっとしましたから大丈夫だと思います」
「なるほど、そういうことか」
え、どういうこと?
「ふむ、世の中は上手くできているな」
「そうですね」
うなずいて納得する二人。
それを見ながら、襲撃者たちは『常識』という言葉の尊さを知るのだった。




