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第二百六十二話

 第三通り。

 そこでは、アトム、竜一、道也の三人が待機していた。

 なお、ここにはいないが、刹那は避難誘導である。

 むさい男がいうよりも、アイドル活動を一応している刹那がやったほうがすんなり進むのだ。人間というのはどうでもいい時に限って欲望に忠実である。


「さーて、アトム、お前今回は標的の一人だよな」

「そうだと私も考えているよ。わざわざ最高議会の五人が集まっているときに襲撃してきたんだ。そうでなければ意味がない」

「とはいえ、優先順位に関しては少し違いがあるように私は思いますが」


 厄介な装備をしているものが何十人と押し寄せている中、竜一もアトムも道也も、普段通りといって過言ではない。

 あまり脅威だとは思っていないのだ。


「まあいっか……なんか特別強いやつが八番通りに向かってないか?俺の索敵範囲内の話だけど」

「それはおそらく、抹殺の優先順位において、アトムよりも秀星のほうが上だからでしょうね。おそらく転移する手段を獲得していて、なおかつ圧倒的な戦闘力を誇る。それだけならいいとしても、おそらく目の上のたんこぶと思う部分があるのでしょう」

「とはいえ、投入してきた戦力に関しては、装着者本人にそれなりに才能があって、装備も優秀だ。私たちが襲撃者を片付けるまで、ここを離れることができないのもまた事実だね」


 話は終わりといったところだろう。

 竜一は黒い長剣を、道也は刀を、アトムは神器の剣を抜いた。


「さて、軽く暴れるとしよう。殺さない程度にね」

「そのあたりの加減って面倒なんだけどな」

「まあ、峰打ちで勘弁しておいておきましょうか。肋骨は五本くらい折っておきますが、それくらいは許容範囲内でしょう」


 なかなか物騒な話をする三人だが、いつも大体こんな感じである。


「さて、戦闘開始」


 いうが早いか、アトムはその場から消えて、次の瞬間には敵陣地に飛び込んでいた。

 剣を振り下ろした瞬間、圧倒的な衝撃が解放されて飛んでいくものが多数。


「うわー……なんていうか、すごいな」

「『剛速神剣タキオン・グラム』の威力は相変わらずですね」

「下手な機能はなく、ただ純粋に『速くて重い斬撃を叩き込む』ことに特化した神器か」

「才能にあふれたアトムの場合、シンプルなものほど怖いですね」


 圧倒的な基礎というのは、ありとあらゆる応用につながる。

 『次元が違う基礎』は、ありとあらゆる応用を小細工として叩き潰し、『次元が違う応用』を引き起こす。

 シンプルなものを持っているアトムだが、逆に使う道具に下手な機能が備わっていないので、本人の才能によって圧倒的な出力をたたき出せるのだ。


「さて、俺たちも行くか」

「そうですね」


 竜一は剣で叩きのめして、道也は峰で的確に戦闘不能に追い込む。

 だが、次の瞬間、鎧に備わっている修復機能と再生機能が働いて、すぐに治っていく。


「なんだこりゃ」

「何とも不思議なものですね」


 圧倒的な修復能力と再生機能。

 これはなかなか面倒なものだ。

 継戦力としてみるとかなり高く、持久戦にはもってこいだからである。


「装着者にスタミナを与え、さらに傷も回復させていますね」

「武装の魔装具に与える魔力も多いな。『エネルギーの供給』という点に関して、人体にも道具にも無害な状態で与えてる。なかなか見ない装備だぜ」


 竜一と道也はアトムのほうを見る。

 自分たちのリーダーはどうしているのか気になったのだ。


「ぎゃああああああ!」

「ひ、ひぃ。ば、化け物め!」


 盛大に暴れていた。

 襲撃者の中には、呆然としているものや腰が引けている者もいる。

 アトムという存在から放出される出力に耐え切れないのだ。

 だが、死なない程度にアトムも加減しているというのだからなおさらタチが悪い。


「……こりゃ圧巻だな」

「折るのは肋骨ではなく心にしたほうがよさそうですね」


 そして物騒なことを言い始めるこの二人も根本的な部分に大した違いはない。


 で、近くにいたやつをぼっこぼこにして気絶させた。

 チューブを破壊して循環を止める。

 ちなみに、チューブそのものは修復機能を影響を一番受けているようで、傷を入れたと思ったら即座に回復するという厄介なものだった。

 道也は竜一から『植物特攻で行け』と言われて、武器にわざわざ『植物特攻』を付与する必要があったが。


「しかし、装備は興味深いな」

「何が素材かわかりますか?」

「緑色のラインがあるだろ?」

「チューブの中を液体が循環しているように見えますが」

「たぶん、特別な植物を使ったものだな。一種類だけごりごりにすりおろして、水の中に十分な濃度で溶け込むように作られてる」

「私の目からも、そこまで複雑な機能は感じられません。素材の機能だけを引き出していると考えても?」

「俺はそれでいいと思うぜ。ただまあ、ずいぶんと癖が強い素材を使ってるみたいだけどな」

「竜一から見てそう感じるほどですか……」

「いや、癖が強いっていうのは、『本来捨てるべき部分』を使ってる部分だからだな」

「要するに、本来なら廃棄するような『使い物にならない部分』を無理して使っているということですか?」

「ああ。しかも、今までのFTRの基本装備とは設計もかなり違うな。たぶん提供されたものだ」

「外部提供ですか。いったいどこから……」

「多分、この植物の本体があるところだろうな。しかも、本来なら廃棄する場所を使ってるとなると、たぶん無断使用だろ。この装備はテスト用じゃね?」


 竜一はチューブを見ながらそんなことを呟いている。

 遠くではまだアトムが暴れているが。


「もうなんか。アトムに任せておいていい気がするんだが……」

「実は私もそう思っていたところです。だって遠くから見える範囲でもかなりの襲撃者たちが腰を抜かしていますし」

「純粋な暴力っていうのは理不尽なものだなぁ……」

「それが世界の真理というものですよ」


 それに加えて、あまり竜一と道也が暴れなくとも、アトムは別に注意したりしない。

 実のところ、二人に比べてあまり暴れる機会がないのだ。

 そもそも、アトムがこの学校に来ているのは暴れるためではなく会議のためである。

 なので、とりあえず『何もやっていない』と言われないだけの数をこなしておけば、あとはアトムに任せておけばいいのだ。


「……ただ。この装備、設計思想が俺に似てるような……気のせいか?」


 そんなことを呟く竜一。

 彼の表情に浮かんでいるのは、明らかな疑問。

 だがその反面、道也はそこまで不思議そうな表情はしていなかった。

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