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第二百六十一話

 襲撃は、全ての大通りから来ていた。

 来夏がいる一番通りの隣、の二番通り。

 そこでは、襲撃犯にとっての討伐対象である黒瀬聡子が、いつも通り糸目で微笑みながら立っている。


「うふふ。この大通りからもたくさん来ていますねぇ」


 秀星や基樹から見て、異様なものを感じる装備を身に付けている襲撃者たち。

 もちろん、彼女の前にも、その装備の者がたくさんいる訳だが、聡子はそれを察しながらも、あらあらうふふと微笑んでいた。

 既に大まかな避難誘導が進んでいるので、大通りには全く一般人はいない。

 そんな中で、着物を着ている聡子はかなり目立っていた。


「おい。アイツ。今回の目標の一人じゃないか?」

「ああ。間違いねえ。あいつを殺せば、俺達はもっと上に行ける!」


 目標の一人である聡子を発見してやる気になる襲撃者たち。

 それなりに才能がある彼らだが、それはあくまでも魔力的な才能であって、『戦闘中に何かを察する』と言うことができるわけではない。

 要するに、『重要なメンバーである聡子が一人で立っている理由』を察することができないということでもある。


「死ねえ!」


 銃を撃ちまくりながら、ブレードを構えて突撃する襲撃者たち。

 しかし聡子は、まだ微笑んでいた。


「『水幕(すいまく)』」


 そう聡子が呟いた瞬間、彼女のそばに水色の幕が下りる。

 その幕は、飛んできた銃弾を全て受け止めて、勢いを殺した。


「秀星さんの『上位魔力』の技術。便利ですねぇ」


 秀星が基樹との試験で見せた『真』や『極』といった段階の魔法。

 当然とばかりに、聡子はそれを習得している。

 普通の『水幕』は、魔法に関係ないライフル程度なら止められるが、弾丸一発単位で付与が働く魔法関係の銃器を止めるには力不足だった。

 しかし、上位魔力を使った水幕は、いとも簡単にそれらの銃弾も止める。


「あら、まだ諦めていないみたいですね」


 聡子は懐から扇子をとりだした。

 ……一見普通の扇子である。本当に。


「ハッハッハ!そんなゴミ一つで何ができる!」

「これが出来ちゃうんですよ。なぜなら、あなた達はおそらく、本気を出せませんから」

「え……」


 先頭に立っていた襲撃者。

 確かにブレードを振りおろした。

 野心に燃えるものが多いので、当然、全力で振り落としたはず。

 しかし、思ったよりスピードが出ていない。

 聡子はブレードの側面を叩いて、次にブレードを持っている手を畳んだ扇子でしばいた。

 一瞬力が抜けたところでひょいっと奪う。


「ふむ……なかなかうまく出来ていますねえ……ネジも溶接した痕も見当たらないのが気になりますが、まあいいとしましょう」


 そんなノリで次々と武器を奪ったり無力化して行く聡子。


「な、なんだ、いつもと感覚が……」

「フフフ、私を相手にするのであれば、とあることをしなければ、実力の一割も出せませんよ」


 聡子は微笑んだまま襲撃者を相手にする。

 そこに一切の油断もない。

 だが、圧倒的だ。


 これは、彼女が持つ神器『母性の揺り籠』の影響である。

 その基本能力は『敵対する存在の戦闘における集中力が、その存在の母親からの愛情に比例する』というもの。

 どれほど強かろうと、母親からの愛情が足りていない場合、彼女を相手にすれば本気など出せない。

 さらに言えば、母親の愛情と言うのは基本的に母親が主体となるものだ。

 要するに、的存在の強さを本人に求めないのである。

 付随する効果も多く、『所有者の母性が強い場合、さらに比率が有利になる』上に、『母親からの愛情に関しては本質的なものを求める』ため、雰囲気そのものが『お母さん』に近い聡子が使う場合、その影響は大きく、聡子に正面から敵対するためにわざと母親が演技をしたとしても、それは打算的なものであるため影響はない。


 さらに、『戦闘時でなくとも、母親からの愛情が薄い存在は所有者を求めたり、心を開いたりする』ため、カウンセリングもそうだが、尋問の時も最強である。

 一般生活における母親からの愛情では、彼女の母性を超えることは不可能なのだ。

 なお、母親がいないものにとっては天敵と言うより天罰である。

 剣の精鋭のメンバーで言えば、雫やエイミー、優奈に関しては抵抗すら不可能と言うことだ。

 ちなみに、母親がいない場合より、過干渉の母親がいる場合の方が聡子に寄り添いやすいというのだから人生と言うのは難しい。


「うふふ。皆さんの母親との関係が分かりますねぇ」


 落ちるまでにちょっと時間がかかる場合は『普通』である。

 すぐに落ちる場合は『ほとんど会っていない』のだ。

 ちなみに、彼女の神器『母性の揺り籠』は、『最高神』の一柱が作った神器であり、そのレベルになると、上位神や下位神が作った神器では抵抗不可能である。

 ぶっちゃけ秀星も苦手である。


「おやおや、皆さん全然本気を出せていないみたいですねぇ」


 分かっていながらそんなことを微笑みながら言う聡子。

 実際、一度意識してしまえばもう抜け出せないのだ。


 胸は大きく、飛び込みたい。

 太股はやわらかそうで、寝てみたい。

 手はすべすべで気持ちよさそうで、撫でてもらいたい。


 それが聡子という女性である。

 ただそれでいて、彼女本人はそれなりに天然が入るので打算がほとんどないのだ。


 そして、そんな聡子がこの日本における魔法社会のトップの五人の中に存在する。と言うことを考えれば、ある意味、この世でもっともすごい存在は『お母さん』なのかもしれない。


「うふふ、いらっしゃい。お母さんが相手になってあげますからね」


 正直、これはあれだ。

 もう無理である。

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