第二百六十話
「……ふむ、使っている本人の自信ほど強くはないが、使っているものはなかなか興味深いな」
大通りは八つ。
北にあるものを一番として、時計回りになるように八つまで数字が付けられている。
来夏が暴れているのは一番通り、秀星が暴れているのは八番通りだ。
そして、来夏が暴れている一番通りの真逆に位置する五番通りでは、基樹が戦っている。
言いかえるなら『遊んでいる』とも呼べる状況だが、それでも一応戦っていると呼ばせてもらおう。
「グリモアでもこう言った不思議なものはいろいろあったが、それを多数揃えているというのはなかなか奇妙だ。今までとは大幅に違う」
魔力を固めてボールにしてぶつける。
装甲が簡単にひしゃげているが、すぐにもとに戻っている。
「自己修復能力が高性能で備わっていて、怪我も状態異常もすぐに解析して回復させる。レベルをそれなりに考える必要はあるが、劣悪な環境でも生きていくことは可能だな」
素でも別に問題ない者がそれなりに多いので過剰評価してやるほどのものではないが、使われている素材の特殊性を考えると、あまり使っている本人たちの技術力が足りない。
というより、あえて素材の効果を活かすだけの設計にしている気がする。
素材の特徴を正確に把握したうえで、しかもそれを魔法具技術の技術として取り入れる必要があるのでかなりの知識が必要になるので言うほど簡単ではないが。
「一体誰が作ったんだか……」
ぶっちゃけ、今も集中砲火の真っ最中なのだが、基樹としては余裕である。
というより、扱える出力が違いすぎるのだ。
なにやら、魔法具の影響でエネルギーが常に供給されている状態のようなのだが、それでも、基樹が持つ魔力には到底及ばない。
「まあ、そのあたりの頭脳労働はもういいとしよう。第一、俺がいくら考えたところで仕方のないことだ」
基樹はお手上げとばかりに溜息を吐いた。
そして、襲撃している彼らを威圧する。
それだけで、魔法具に包まれた襲撃者たちはすぐに動きが鈍くなった。
「……なんだ。俺と同格の奴はいないのか、期待させてくれるんじゃないかとほんのわずかな期待もあったが、一人もいないとなると俺としてはつまらなすぎるぞ」
基樹は黄金の剣を出現させて魔力を通した。
すると、刀身が魔力に寄って拡張して大きくなる。
「さてと……」
基樹は剣を真横に一閃する。
すると、襲撃者たちの近くの地面が、一本の線を引くようにえぐられた。
「こ、これは……」
「試しにその線を超えてみろ。楽に死ねるぞ」
それを聞いた襲撃犯たちは、一斉に動きが止まった。
というより、自分たちが持っている近接武器に対して一切の期待を捨てたようだ。
またまた始まる集中砲火。
「……」
基樹が指をパチンと鳴らすと、漆黒の鎧が出現する。
黄金の鎖や装飾品が付けられた全身鎧であり、金髪金眼の基樹が装備するとなかなか魔王感が出る装備だ。魔王感って何?と言われても答えようがないのだがそう表現させてもらう。
法化している弾丸が何個も鎧に当たるが、全て通用しない。
「……いうほど遠距離武器に関してはブーストされていないな」
彼らの魔法具に流れる緑色のライン。
そのラインが軸になっている魔法具としての性能は、主に近接戦闘に特化しているようだ。
魔力的な部分がある程度ブーストされているので、間接的に遠距離攻撃にも補正がかかっているが、あまりいい数字ではない。
「さて、どれほど強い連中が来るのか知らんが、それまでは待たせてもらおうか」
うまく表現できない『何か妙な敵』というものがいる。
基樹はそれを感じとっていた。
少なくとも、それがこの場所で基樹が戦う相手であることは分かる。
というより、レベルの高さからすれば、五番通り付近にいる者たちの中では基樹しか対応できない可能性が高い。
「……誰がいるのか知らんが、こいつらが引かない理由でもあるようだな」
とりあえず、秀星の父親ほど理不尽でなければどうにかするくらいのことはできる。
元魔王である自分をワンパンで沈めるようなやつがそんなゴロゴロいてたまるか。
「さて、いつになったらくるのやら」
基樹はのんびり過ごすことにした。
もちろん、今も集中砲火が続いている。




