第二百五十七話
観客は多くはない。
剣の精鋭のチームリーダーという、明らかに何かがおかしいチームのトップに立っている来夏だが、そもそも、今はいろいろな生徒がノルマ達成のために学校を離れている。
さらに言えば、天理の方は別に有名と言うわけではない。
そのため、この二人の戦いを見ようと思っているものは多くはなかった。
「さーて、とりあえず、降参ってどっちかがいうか、戦闘不能になるかまで続けるってことにしようぜ」
「それでいい」
コロシアムで向かい合う来夏と天理。
来夏は大剣を、天理は黄金の剣を構えている。
「どうなるのかさっぱりわからないです」
「わたしもわかんないわよ」
美咲と優奈が呟くが、秀星も正直わからない。
世界を救った勇者と、ギャグ補正の高いゴリラ。
……本当にどうなるのかわからない。
「ただ、簡単には終わらないと思うよ」
「私も同意見だ。来夏は強い。いや、強いというか、なんだろうな」
「底が見えないというより、底がどこにあるのかわからないって感じですね」
風香はちょっとわくわくしているようだ。
ただ。その横で羽計は何を言えばいいのかわからなくなっている。
アレシアがまとめているが、確かにそれは間違っていないだろう。
「でも、私はあの剣が気になります」
「そうね。あの黄金の剣。製造方法がさっぱりわからないわ」
「呪いとは真反対のものだね。あそこまで装備している人にデメリットを与えない装備は見たことが無いよ」
エイミーは天理が持つ剣に興味があるようだ。
来夏が戦うと聞いてすっ飛んできた千春も同様。
雫は何となく考えているが、おそらく間違ったことは言っていない。
「フフフ、私も予測できませんねぇ」
「……ていうか、どっから湧いたんだ?生徒会長」
秀星は隣で座るジュピター・スクール生徒会長、黒瀬聡子。
学校内なのに水色の着物を着た黒髪の女性だ。
……いや、十八歳であることを考えると女性と言うのは少々苦しいかもしれないが、雰囲気そのものは女性である。
そもそも、自称が『お姉さん』ではなく『お母さん』なのだ。
「私も気になりますからね。天理さんの噂は私も聞いていますから」
「あう~」
ちなみに聡子は沙耶を抱いている。
なお、沙耶は抱いている時はほとんどジッとしているが、地面に降ろすとすごいことになるので、誰かが抱いている必要がある。ベビーカーでも自分で降りる。
誰にするのか、と言う段階になった時、聡子が出てきて来夏から受け取ったのだ。
来夏も聡子のことを知っている様で、普通に預けていた。
そして不思議なのは、それを誰も疑問に思わないのだ。
「ただ、沙耶ちゃんも気になるみたいですね」
「……みたいだな」
沙耶はじっと来夏を見ている。
母親が気になるのだろうか。
「それと、彼女の父親も来ていますから」
聡子はこそっと秀星に言った。
秀星は来夏の父親が来ているのだとわかった。と言うか発見した。真っ黒のフードマントを羽織っていて不審者みたいになっている。
というより、記録するためのカメラがあって、それを使えば遠くからでも見られるのに、わざわざ来ているところを見ると、そういうことらしい。
で、秀星が来夏たちを見ると、始まろうとしていた。
「それじゃあ、来い!」
「!」
来夏が大剣を構えてどっしり構えると、天理が黄金の剣の構えて突撃した。
遠くから見ていても分かるくらい速い。
しかし……。
「遅えぞ!」
大剣を持った来夏が自分から突撃した。
というより、片手剣よりもちょっと大きいくらいの黄金の剣を持った天理よりスピードが速いのだが、一体どうなっているのだろうか。
来夏が大剣を振って、天理が黄金の剣を振るう。
だが、いずれにしても来夏の方が早い。
剣が激突するが、なすすべもなく天理の方が吹っ飛んだ。
受け身をとってすぐに立ち上がる天理だが、観客席からでもわかるくらい手がしびれている。
「……一体何?あれ」
「ふむ、単純に膂力があるというだけでなく、筋肉にしなやかさがあるということですね。全速力で大剣を構えて走っているのに、体幹にブレがありません」
「単純な筋力を決める大きな部分じゃなくて、バランス感覚に直結する小さな筋肉も鍛えてるってことか」
「そう言えば、バランスボールの上に二時間はいられるって言ってたです」
「私よりバランス感覚があるね!」
優奈が愕然としている中、聡子は冷静に解説し、秀星が補足する。
美咲が思いだしたかのように言うが、なぜ雫はそのようなことを胸を張って言えるのかが分からない。
天理が構えなおしているが、もうすでに、軽い気持ちで戦っていい相手ではないことに気が付いたようだ。
黄金の剣が光りだす。
そして、先ほどよりも速く突撃した。
「速いな。だが、まだ使うまでもねえな」
それ以上のスピードで自分も動いて、切りかかってきた天理を迎撃する来夏。
はっきり言って頭がおかしい。
「……信じられない。本当の人間?」
「おう、もちろんだ」
本当か?
「さて、続けようぜ」
来夏は大剣の柄から左手を放した。
「……片手だけで大剣を使う気?」
「おう、ちょうどいいハンデだろ」
一つの物語を終わらせた元勇者に対する発言とは思えない。
「さすがに、それは心外」
再び黄金の剣を光らせて突撃する天理。
スーパーにいた時から思ったが、魔法は使わないスタイルのようだ。
突撃して、それに対抗しようとして真上から大剣を振りおろす来夏。
天理はその大剣を、体の左にずらすことで回避しようとする。
だが……。
「!?」
来夏の大剣が、一度上に上がってまた自分に向かってくる。
垂直におろす形だったのに、斜め切りに途中からやり直したかのような感じだ。
天理は剣を大剣にぶつけて止めた後、距離をとる。
そして、その無表情の顔を驚愕を浮かべて、来夏に聞いた。
「……あなた。まさか。大剣を手首だけで振れるの?」
「おう、その通りだ」
腕は動かさずに、手首から上だけでブンブンと大剣を振る来夏。
いろいろ強靭なのは知っているが、ちょっとこれはおかしい。
「……降参する」
「クックック。まあ、そろそろそうすると思ってたぜ」
来夏は大剣を背中のホルダーにセットして背負いなおすと、コロシアムを出て行った。
「あお~」
誰もが絶句する中、沙耶だけはなぜか楽しそうに手を伸ばしていた。




